276話「ハンバーガーとチケット」
全員ハンバーガーを注文し終えると、俺達は四人掛けのテーブル席へと座る。
今回も無事ハンバーガーを購入することができたしーちゃんはというと、ルンルンとした弾むような足取りで、ジュースが零れそうになりつつも無事に着席していた。
そんな、元国民的アイドル。
他にもお客さんはいるものの、あまりにも自然に溶け込み過ぎていて、幸い周囲から注目を浴びることはなかった。
「ここに来るのも、何だか久しぶりだな」
「そうね」
向かいの席に並んで座った孝之と清水さんが、楽しそうに微笑み合う。
席は長椅子で余裕はあるけれど、二人ともピッタリとくっ付き合うように座っており、何て言うかあの一件以降、尚更二人の熱々っぷりが増しているように思う。
ススス――。
すると、同じくそんな二人の熱々っぷりを目の前で見せられたしーちゃんが、元々離れていたわけではないがそっとこっちへ近付いてくる。
トンッ。
そして、肩と肩が触れ合う。
距離が近いというか、これはもうゼロ距離である。
くっ付いてきたしーちゃんはというと、大変満足した様子でニコニコと微笑んでいる。
そんなに嬉しそうにされてしまっては、左腕が使えなくて不自由だなんて言えるはずもなかった。
それに俺だって、こうして触れ合えるのは素直に嬉しいのだ――。
「いよいよ夏休みだな!」
「ん? ああ、そうだな」
「なんだよ卓也、反応薄くねーか?」
反応の薄い俺に、わざとらしく呆れる孝之。
「そうだよたっくん! ひと夏のアバンチュールだよ!?」
「いや、アバンチュールは違うと思うけどね……」
孝之と同じく、この夏休みに燃えるしーちゃん。
しかしアバンチュールは、絶対的に意味を間違っていると思うんだけどね……。
「そうね、去年みたいに色々と楽しみたいよね」
そして清水さんも、二人に賛成して微笑む。
これではまるで、俺だけがこの夏休みを楽しみにしていないみたいになってしまうではないか。
俺だって、みんなと同じくこの夏休みを楽しみにしている。
なんなら、一番楽しみにしている自信だってあるぐらいだ。
去年以上に、しーちゃんと一緒に沢山の思い出を作りたいと思っているのだ。
今も隣で夏休みに意気込む大切な彼女のことを、精一杯楽しませずにいられるはずがないのだから。
「でさ、さっそくなんだけど……」
すると孝之が、そう前置きして自分の鞄の中を漁る。
何だろうと全員の注目を集める中、孝之が取り出したのは財布だった。
そして孝之は、その財布の中から何かのチケットを取り出す。
「実は親父からさ、これ貰ったんだよ」
そう言って孝之は、そのチケットを俺達に一枚ずつ配ってくれた。
相変わらず、孝之の父親が何をしているのか気になるところだが、孝之に聞いても「普通のサラリーマンだぞ?」しか言わないので、もう深くは気にしないことにしている。
そんなわけで、渡されたこのチケット。
一体何かと思えば、それは遊園地のチケットだった。
しかもそこは、去年四人で行ったあの遊園地だった。
驚いて孝之の方を向けば、俺の予想通りの反応に満足するように、孝之はニヤリと微笑んでいた。
「ってことで、今年もみんなで行こうぜ!」
俺としーちゃん二人にとって、大切な想い出の場所でもあるその遊園地。
こちらを向いたしーちゃんは、とても嬉しそうな笑みを向けてくれていた。
去年、俺はこの遊園地の観覧車の中でしーちゃんに告白をした。
今思えば、俺としーちゃんならば結果は分かり切っていたことなのかもしれない。
それでも、俺にとって初の恋愛であり、そして初の告白だった――。
自分の性格からして、きっと他の相手だったら気持ちを伝えることなんてできずに終わっていたと思う。
それでも俺は、相手がしーちゃんだからこそ、一歩を踏み出すことができたんだと今になって思う。
そんな気持ちを改めて抱きつつ、俺は再び隣を向く。
するとしーちゃんは、同じくあの時のことを思い出すように、満面の笑みを浮かべてくれていた。
「楽しみだね、たっくん!」
「そうだね」
しーちゃんの言葉に、俺も笑って頷く。
今度はもう、最初から彼氏彼女として全力で楽しもうと思いながら。
そんな俺達のことを、孝之と清水さんも笑って見守ってくれていた。
こうして早速この夏の予定ができた俺達は、それからまた一緒にハンバーガーを食べながら、この夏したいことを色々と語り合って楽しんだ。
長いようで、あっという間に過ぎ去っていく夏休み。
今年は去年以上に、しーちゃんと一緒に色々なことを楽しめたらいいなと思うのであった。
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