169話「勝負」
「女の子がオフに出掛けると言ったら、やっぱりショッピングよね」
「だよねー!」
駅前のショッピングモールへやってきた。
たった今俺の目の前では、現在この町では通常拝む事が出来ないレベルの美少女が二人、楽しそうに会話をしながら歩いている。
その二人は現役アイドルと元アイドルで、二人とも丸渕の大き目のサングラスをして顔を隠しているが、それでも纏っているオーラが周囲の人達とはまるで違っていた。
流石に二人が有名人とまではバレてはいないようだが、それでも整いすぎたその容姿にしっかりとオシャレをした服装により、すれ違う人達の視線が二人に釘付けになっていることが後ろからだとよく分かった。
「ねぇたっくん!いいよね?」
「え、ごめん聞いてなかった」
「もー、だから、これからファッション対決するから、たっくんは審査員ね?」
「えっ、審査員?」
ファッション対決の審査員?なんだそれは?
ぼーっと歩いていたら、どうやら話があらぬ方向へ飛んでしまっていたようだ。
しかし、二人は既にやる気満々といった感じで、どうやら俺にはもう断る事は許されない空気を感じた。
こうして、ショッピングモールで普通に買い物するものだとばかり思っていたが、何故かこれから二人のファッション対決の審査員とやらをする事になってしまったのであった。
◇
やってきたのは、ショッピングモールの中ではお高めのブランドのお店だった。
ハイブランド程ではないが、学生が買うには結構背伸びをした価格帯といったところだ。
「じゃ、勝負よ紫音!」
「望むところだ!」
そして二人はというと、そう言葉を交わすと早速別れて服を選びだした。
そんな二人の姿を眺めながら、レディース専門店のため買い物するものも無い俺は、なんとなく店内の商品を眺めながら二人が選び終わるのを待つ事にした。
ちなみに、選ぶときは流石に二人ともサングラスを外している事もあり、そんな二人の正体に気が付いた店員さんはとても驚いていた。
◇
「じゃあ、せーので出るよ!良い?せーのっ!」
パシャ―。
更衣室から、着替え終えた二人が出てくる。
二人とも慣れたもので、まるで雑誌から飛び出してきたようなポーズを取る。
「「どうかな?」」
そして出てくるや否や、見事にシンクロしながら感想を求めてくる二人。
そんな二人の勢い、そして着ている服装のその完璧さを前に、俺は何て答えたら良いのか分からなくなった。
しーちゃんは白地のボタニカル柄のワンピース、そしてあかりんは青地のストライプシャツに白のスキニーパンツという、二人とも自分の持ち味をよく分かっており似合うなんて言葉では片付けられない程様になっていた。
完全なる解釈一致ってやつだ。
だからこそ、俺にはそんな二人に対して評価する事なんて出来なかった。
天使のように可愛いしーちゃん、そして同年代とは思えない大人びた美しさを持つあかりん。
この二人に優劣を付けれる人がいるなら、是非とも今すぐに出てきて欲しいぐらいだ。
「――二人とも、よく似合ってるよ」
結果俺は、評価ではなく当たり障りのない感想を返す。
しかしこれでは、せっかくの勝負が消化不良に終わってしまうため二人が納得するはずも無かった。
だから困った俺は、もう一言付け足した。
「それに、完璧に着こなしてる二人に優劣を付けちゃったら、あとは洋服の良し悪しにならない?そしたら、お店にも悪いでしょ?」
そう、ここはその洋服を販売しているお店の中なのだ。
そんなところで、置かれてる商品に優劣なんて付ける行為はマナー的に多分宜しくない。
だから俺は、勝負に対して白黒付けないのは申し訳ないが、ここはそう言い逃れをした。
「ま、まぁそれはそうかもね」
「うん、そうだね反省」
「でも、二人とも本当によく似合ってるよ。モデルみたいだし、完璧だよ」
俺の言葉に、反省する二人。
でも別に咎めたかったわけではないため、俺は慌ててフォローに回る。
まぁフォローと言っても、思った事をただ口にしただけだけど。
すると、俺の言葉に納得してくれたのか、居合わせた店員さんもちょっと興奮気味にうんうんと力強く頷いていた。
そんな俺の言葉、それから店員さんの反応に満足してくれたのか、そのまま二人は試着した洋服を購入すると満足そうに店をあとにした。
「まぁ、勝負はお預けになっちゃったけど、たっくんの言葉に免じて良しとしましょう」
「あはは、そうだね。――ねぇ、たっくん」
「ん、どうかした?」
「今度これ着て、一緒にどこか出かけたいなっ!」
ショッパーは掲げながら、嬉しそうに微笑むしーちゃん。
その仕草とその言葉に、俺はまたドキドキさせられてしまう。
「――あーあ、紫音はいいなぁ。わたしもそういう事言える彼氏欲しいー」
「もう、あかりんが彼氏作ったら大変でしょ」
「それ紫音が言う?わたしもアイドル辞めちゃおうかなー」
冗談だろうけど、あっけらかんととんでもない発言をするあかりん。
しかし、そんな冗談を言いつつも完全にオフを満喫してくれている事が俺は嬉しかった。
「あ、そうだ。今日だけたっくんがわたしの彼氏役ってことに――」
「それだけは駄目です」
そして閃いたとばかりに提案されたあかりんの案を、しーちゃんは食い気味に却下する。
俺の腕に抱きついて、あかりんに向かって「べー!」と舌を出すしーちゃんは、言うまでもなく可愛かった。
そして何より、そうやって俺の事を離すまいとしてくれている事が嬉しかった。
「あはは、冗談だっての。ねぇ、まだ時間あるしこれから映画でも観に行かない?」
「映画?いいけど、たっくんは?」
「うん、俺も大丈夫だよ」
「よし、じゃあ決まりね!丁度観たい映画があるのよ、行きましょ!」
こうしてあかりんの提案により、次は映画を観に行く事になった。
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