44話「どっち派?」

 次の日。


 今度の土曜日に、一緒に公園へ遊びに行く事を約束している俺と三枝さん。

 朝登校した際は、やっぱりお互いその事を意識してしまい若干ぎこちなくなってしまったのだが、帰る頃にはいつも通りの感じに戻っていた。


 そんな三枝さんだが、今日はテスト結果の返却をされたのだが、案の定三枝さんは学年トップの座を獲得していた。


 対して俺は学年7位。

 当然、三枝さんには及ばないものの、我ながら一桁の順位を取れた事にとても驚いた。


 これも全部、勉強会という名目のもと三枝さんに勉強を教えて貰ったおかげだなと感謝すると共に、改めて三枝さんの才色兼備なところに惚れてしまっている俺がいた。


 ちなみに、孝之は15位で清水さんは18位だった。

 俺と同じように、自分の想定よりもかなり高い順位を取れた事に二人とも喜んでいた。


 そして、好成績を収める事が出来たことを喜ぶ俺達に「おめでとう」と微笑んでくれた三枝さんは、マジで天使だった。





 ◇



 そんなわけで、今日の俺は学校終わりのコンビニバイトに勤しんでいる。


 客のいない店内をぼーっと眺めながらも、俺はテストで好成績を収める事が出来た喜びと、土曜日は三枝さんと公園に出掛ける約束がある喜びで、俺の心は今絶賛ルンルン状態だった。



 ピロリロリーン


 店の扉が開くメロディーが店内に流れる。

 俺はそのメロディーに反応して、「いらっしゃいませ~」と挨拶をしながら、入店してきたお客様の姿を確認する。


 すると、マスクをして、縁の太い眼鏡をかけ、そしてキャスケットを深く被った不審者スタイルの三枝さんの姿がそこにはあった。


 改めて見るとやっぱり怪しい格好をしている三枝さん。


 しかし、どんな格好してようが今さっきまで考えていた相手が目の前に現れた事で、俺の心はドキッと跳ね上がってしまう。


 まぁ何はともあれ、今日も始めるとしよう。


 お待ちかねの『三枝さんウォッチング』の時間だ。



 入店してきた三枝さんは、今日も初手は雑誌コーナーへと向かった。


 前回のカフェデッキを思い出した俺は、もうこのタイミングから三枝さんの出る行動を注視した。


 次また会計の時にカフェデッキのような不意打ちを食らったら、俺は次こそは笑いを堪えきれる自信は無いのだ。


 だからこれはある種の戦いなのだと、俺は三枝さんの一挙手一投足に集中する。



 三枝さんは、いつも通り雑誌を手にする。


 あの雑誌は――たしか料理雑誌だ。


 今回は流石にただの立ち読みだろうか……?とも思ったが、相手はあの三枝さんだから油断大敵だ。


 だが三枝さんは雑誌のページを捲りながら、暫くその雑誌を普通に立ち読みをしている。


 やっぱり流石に考え過ぎだったか?と思っていると、雑誌を読み終えた三枝さんは次の雑誌へと手を伸ばした。


 そして俺は、次に手にした雑誌を見て確信した。



 ――また料理雑誌だ、これは絶対に何かある。



 そこからは、俺と三枝さんの戦いだった。

 俺は必死に料理雑誌と直近の三枝さんとの関連性を推理する。


 真実はいつも一つ!

 そんなワードを思い浮かべながら、俺は三枝さんの様子を注意深くチェックするが、中々答えに辿り着く事が出来なかった。


 そして三枝さんは、雑誌を読み終えると満足したのか、そのまま普通に買い物カゴを手にすると店内を物色し始めた。


 流石にレジからでは見える限界もあり、結局今日の三枝さんのデッキは分からず仕舞いに終ってしまった。


 それから暫くして、レジへとやってきた三枝さんが「お願いします」と買い物カゴを置いてきた事で、タイムオーバーとなった。


 覚悟を決めた俺は、恐る恐るカゴの中の商品の集計を始める。


 緑茶、ヨーグルト、サラダ、小さめの弁当……駄目だ、さっぱり何のデッキか分からない。


 というか、やっぱり流石に俺の考えすぎだったかなと、今日は本当に普通だった三枝さんに安堵しながら金額を伝える。



「以上、786円になりま――」

「はいっ!!」


 おっと、そうだったね、今日も俺が言い終える前に財布から取り出した千円札をシュバッと差し出してくる三枝さん。


 俺はその千円札を受け取ると、そのままお会計を済ませてお釣りを手渡す。


 そしたら案の定、今日も三枝さんは大事そうに両手で俺の手を包みながらお釣りを受け取ると、お釣りを財布にしまいそのまま買い物袋を手にした。



「あ、あのっ!!」


 すると、今日は本当に何事も無かったなと少し拍子抜けな気持ちになってしまっていた俺に、突然三枝さんから話しかけてきた。



「は、はい、なんでしょう?」


 俺はあくまで相手が三枝さんだと気付いてないフリをしながら、店員として普通を装いながら返事をする。





「店員さんは……パン派ですか!?それともゴハン派ですか!?」





 思いきった様子で、三枝さんは突然そんな質問をしてきた。


 え、何!?と、突然そんな謎の質問をされた俺は理解が追い付かず、思わず固まってしまった。


 いきなりコンビニの店員に向かって、パン派かゴハン派かを確認してくる三枝さんは、今日も今日とて安心の挙動不審だった。



「え、えーっと……ゴハン派、ですかね」

「ありがとうございますっ!!」


 とりあえず俺は、恐る恐る素直にゴハン派と回答した。


 すると三枝さんは、俺の返事を聞けた事が嬉しいのか、鼻息をフンスと鳴らしながら元気よく返事をすると、そのままご機嫌な様子でコンビニから出て行ってしまった。


 俺はそんな意味不明な三枝さんの背中を見送りながら、一体なんだったんだろうと少し呆気に取られてしまった。


 俺がパン派かゴハン派か知ったところで何になるんだよ……と、やっぱり今日も安心の挙動不審だった三枝さんが可笑しくて、残された俺は思わず吹き出してしまったのであった。


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