【5/9コミック2巻】クラスメイトの元アイドルが、とにかく挙動不審なんです。

こりんさん@コミカライズ2巻5/9発売

プロローグ

 俺の名前は一条卓也いちじょうたくや


 なんでも無い普通の公立高校に通う、普通の高校一年生だ。


 運動が得意なわけでも無ければ、何か特技があるわけでもない俺は、高校では帰宅部として、貴重な青春時代を出来るだけ自分のための時間にあてる事にしている。


 その上でまずは、何をするにも世の中お金が無ければ始まらないという事で、俺は駅前からちょっと外れたところにあるコンビニでバイトを始める事にした。


 駅前のコンビニだと忙しそうだし、何よりうちの高校の利用者も多いだろうから、出来るだけコッソリとバイトするためにもわざと少し外れたところにあるコンビニを選んだ。


 そうして俺は、週に3日か4日、授業が終わればすぐにそこのコンビニへ行き、そして夜中までレジ打ちのバイトをする生活を送っている。




 まぁそんな、だからと言って特別何があるわけでもない、俺はそこら辺にいる普通の高校生として、青春をそれなりに謳歌しているのであった。



 だが、俺は普通でも、うちの高校には1つだけ普通じゃない点がある。


 それは、同じクラスの三枝紫音さえぐさしおんの存在に他ならない。


 容姿端麗、頭脳明晰、オマケに良いとこのお嬢様らしく、一年生ながら学校で一番の人気者である彼女の名は、実は学校を飛び越え日本中で知られている程有名だったりする。



 何故なら、彼女は国民的アイドルグループでセンターをしていた、元超売れっ子アイドルでもあるからだ。



 高校への進学を理由に突然アイドル活動を引退した事は、ニュースでやっていたぐらいだから流石の俺でも知っていたが、まさかそんな彼女と同じ学校で、しかも同じクラスになるなんて思いもしなかった。


 栗色のミディアムボブヘアーに、クリクリした大きな瞳、健康的な白い肌に背はそこまで高くないけどスラッと長い足が際立っており、正直誰が見ても美人と評するのが三枝紫音という存在だった。


 そんな訳で、超が付くほどの有名人な彼女は、当然入学初日から多くの人に囲まれており、噂によるとまだ入学して一週間ちょっとにも関わらず、既に何人もの人に告白までされているらしい。


 しかし、そんな彼女には浮いた話は何一つ聞こえて来ず、引退しても尚アイドルのように、いつも周りに分け隔てなくニコニコと笑顔を振り撒いているのであった。


 平凡な俺は、そんな彼女を中心に構成されたクラスの輪には入らなかった。


 というか、入りたくもなかった。


 否定はしないが、俺は俺のペースで周りとか気にせず生きてく方が楽だから、長いものに巻かれる彼らと俺とでは価値観が合わないというだけの話だ。


 アイドルなんて、雑誌やテレビを通して見てるだけで十分だ。

 俺達平凡な高校生にどうこう出来る相手じゃないだろって思ってしまう。

 そんな高嶺の花に期待するだけ、時間と体力の無駄だろってね。



 そんな訳で、俺は今日も学校が終わるとすぐに教室を飛び出し、いつも通りコンビニでバイトをしているのだった。



 ◇


 店内に、扉の開くメロディー音が流れる。

 そのメロディー音に合わせて、俺はいつも通り「いらっしゃいませ~」と声を発しながら入ってくるお客様を確認する。


 そこには、マスクをして縁の大きめな眼鏡をかけ、更にはキャスケットを深めに被った露骨に怪しい女性がいた。

 その女性は、顔を隠すように少し下を向きながら物凄い早歩きで店内へと入ってくる。


 店内には今そのお客様1人だけのため、俺はする事も無いし露骨に怪しいその女性の動きを目で追った。


 彼女は、買い物カゴにサラダと弁当をささっと入れると、そのまますぐに俺の待つレジへと早歩きでやってきた。


 入店からここまで、多分30秒も経っていない。

 今ちゃんと食べたい弁当選びました?と問いたいぐらいの早業だった。


 そんなかなり挙動不審で怪しい彼女だが、相手は女性だしそのぐらいで動じる俺ではないから、問い詰めたい気持ちをぐっと堪えながら至って普通に接客をする。


「お弁当、あたためま―――」

「だ、大丈夫です!」


 俺が言い終える前に食い気味に答えられる。

 何か急いでるのかな?と思い、俺は少し早めに集計を終わらせてあげる。


「以上、738円になります。」

「こ、これで!」


 彼女は財布からシュバっと千円札を取り出し渡してきた。

 小銭を出す素振りもないため、そのままその千円で精算してお釣りを手渡した。


 彼女は、お釣りを渡す俺の手を両手で包みながら大事そうに小銭を受け取ると、慌ててお弁当の入った袋を手に持ちそのまま店を出ていく―――



 ―――かと思いきや、扉の前で一度立ち止まると、ちょっと間を空けてからくるっとターンしてまた店内へと入ってくると、今度はドリンクコーナーでお茶を手にして再びレジへとやってきた。


 少し興奮しているのかその迫力に若干驚いたが、まぁ買い忘れだろうと俺は至って平静を装いながら再び精算する。


「128円になります。袋はお付けしますか?」

「必要ないです!」


 そう言うと彼女は、財布からまたシュバっと千円札を取り出すと、そのままその千円札を差し出してくる。


 ……いや、あの、さっきのお釣りで確実に今小銭あるでしょと思いながらも、俺は仕方なくその千円札で精算をする。


 お釣りを手渡す俺の手を、彼女はまた両手で包みながら大事そうにお釣りを受け取ると、小銭でパンパンになった財布と共に今度は本当に足早に去っていった。




「本当、いつも何したいんだろ―――三枝さん」


 俺は去っていく彼女の背中を眺めながらそう呟いた。


 本人は変装したつもりなのだろうが、レジを挟んで向かい合えば流石に彼女が同じクラスメイトの三枝紫音だって事ぐらい分かるんだよなぁ。




 まぁそんなわけで、



 俺のクラスのアイドル美少女が、とにかく挙動不審なんです。


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