もはや、灰か青か

大統領の一番の使命は戦いになることを避けることである。

決して戦いを煽るようなことをしてはならない。

また憎しみを煽るようなことをしてはならない。

-ハーバード・フーヴァー-


1936年5月、オクラホマ州(正確には南部オクラホマ州)


午前1時ちょうど、ウィチタとカンザスシティ地域の合衆国軍無線交信と電波発信が活発化して突如沈黙してから10分、合衆国軍駐屯地はその部隊を吐き出した。

灯火及び無線電波管制下で進撃を開始した合衆国軍は、所定の地点に到達した。

そして彼らは工兵隊の支援で地雷原を啓開させて隊を二分、その後四日前に少数に分かれて持ち込まれた76mm榴弾砲の火力援護の下攻勢を開始した。


「き、き、きた!ヤンキーども本当にきやがった!!」


国境警備隊の若い黒人系隊員が砲撃に驚き塹壕に飛び込んで叫んだ。

黒人系隊員が頭を片手で抑えながら、同じ部隊のレッドネックの白人系隊員から弾薬を渡される。


「雪解けした農繁期くらい大人しくしてろバカヤローッ!!」


憤激したその白人系隊員が中指を立てて吠え、砲撃が止んだのを確認する。

そして全員がローズ小銃や軽機関銃、水冷式機関銃の用意をする。

警備隊小隊指揮官や下士官が声をあげている。


「各班生きてるか!損害報告!」

「負傷者!後送してやれ!!」

「機関銃異常なぁしッ!!」

「軽迫撃砲用意ヨシ!」


そして、道路を渡って合衆国軍は前進してくる。

警備小隊指揮官のヒスパニック系将校、モンテ3等警備士サードセキュリティルテナントは片手を上げて双眼鏡を覗き込む。

合衆国軍の姿がよく見えた、なんというか、動きにムラというか、無駄を感じた。

ただそれでも、多分戦車--実の所それは戦車ではなく歩兵直協の装甲車--を伴って前進してくるのは恐ろしい。


「合図したら全力射撃、迫撃砲で戦車を吹っ飛ばしてやれ」


モンテは相手の武装を品定めするように見た。

スプリングフィールドのM1903にM1918支援火器、下士官と士官らしき奴らがM1928トンプソン・・・連中もあんまり武器に金がかけれんのかな?

あるいは我々を舐め腐っているのか。

彼の視界は敵の装甲車を視界に捉えた、多分37mm砲が載った見たことない豆戦車っぽいヤツ・・・。

合衆国の物じゃないなあと感じた、履帯の幅が狭いし、構造が違う。

彼の記憶は、一つの適合する物を思い起こさせた。


「・・・カーデンロイドか?」


カーデンロイド、もしくはUEトラクターは連合国軍も愛用する装軌車両で、協商で広く売られている。

どっかから流れたかな、モンテはそう考えた。

実の所あれはカーデンロイドではなく、ドイツの1号戦車を改造したものだった。

合衆国がドイツの要請で作っていた工場から対価でライセンスが渡されているのだ。


「距離750。まだですか」


黒人系隊員が銃を構えて汗を流しながら言う。


「ダメだ。よーく引き寄せろ」


モンテの言葉が終わると同時に米兵たちが陣形を変えて早足になり出す。

となりの黒人系隊員がさらに尋ねる、彼の呼吸がだんだん荒くなってきた。


「距離700!いいですか!」

「まだだ!」


米兵の士官らしき男がM1911拳銃を上に掲げた、遠くからはっきり聞こえる「前進!」の声。

黒人系隊員が時が近づくのを理解して照星を喰い入るように覗き見る。


「650!!」

「まだ!」


米兵たちがさらに速度を上げて走り始めた。

先頭を走る下士官たちと分隊が、こっちのボーダーを超えた! 


「距離600!!」

「全力射撃!!ヤンキーゴーホーム!!」


モンテの手が振り下ろされて信号拳銃が照明弾を打ち上げ、軽迫撃砲が砲弾を撃ち出す。

同時に小銃班が一斉に火を吹いて各自の蛸壺が硝煙を立ち上らせる。

機関銃はその絶叫を高らかに連射を開始し、モンテも自身の短機関銃を射撃する。

火点が制圧出来たと思い込んでいた米兵たちは突如の一斉射撃を遮蔽もないままモロに食らい、瞬く間に最先頭の分隊が皆殺しにされていく。

さらに降ってきた60mm迫撃砲弾がモロに人間の精神を破壊する、炸裂と轟音と衝撃こそ人間の恐怖の根源である。


「FUCK!!制圧出来てねぇぞ!!」

「わあああぁぁぁ!!」

「サージが死んだぞオイ!どうするんだ!!」

「隠れろ!!」

「伏せろ伏せろ!!」


ものの二十秒で20人近い死傷者を出して、先頭を進んでいた1号戦車改造のM1装甲車は脆い天板に60mm砲弾がクリーンヒットした。

ピカッと光ると同時に弾薬庫を弾けさせたM1装甲車の上半身と呼ぶべき部分が飛び散り、衝撃と破片で後方にいた米兵たちを切り刻む。


「これじゃ虐殺だ・・・」


若い黒人系隊員が必死にボルトアクションをしながら呟いた。

モンテは敵の動きをよく見てみる事にしたが、すぐに止めた、自分が命じた殺戮の詳細を知りたくなかった。

憎いヤンキーが死ぬのは良いが、虚な目で脳みそを飛び散らせて倒れている若者達をどうもそう思えなかった。

一瞬、双眼鏡に眼鏡をした若いアイルランド系らしい青年が見えた。

知的で気弱そうな印象で、モンテはなんとはなしに、アイツと話したら多分仲良くなれそうだなと思った。

だが数秒しないうちに、その青年は右腕だけになった。

迫撃砲が直撃し、彼の右腕は空へ空へと舞い上がって、有機的なゴミとして地雷原の中にぼとんと落ちた。


「助けてくれ!!」


彼の耳に何か聞こえた気がした、そっと片腕を上げて叫ぶ。


「射撃待て!!」


まだ銃声が聞こえる。


「射撃待て!!撃ち方やめ!!」


銃声がほとんど止んだ、となりの黒人系隊員が取り憑かれた様に装填と射撃を繰り返していた。


「撃ち方やめ!!やめろ!!やめんか!!」


装填中にぶん殴って、モンテはその隊員に水でも飲めと水筒を投げた。

水筒を抱き締めながら、今も生きていると実感から泣き出す隊員にモンテはボソッと呟いた。


「俺だって泣きたいよ・・・」


射撃が止むと向こうからカーキ色のジャンパーなどを着けた米兵達が両手を上げた。


「撃つなァ・・・降伏する!仲間が怪我しているんだ・・・」


戦意を打ちひしがられた兵士、こうなると知っていれば彼らは来たのだろうか。

モンテはわからなかった、彼は捕虜達を小隊の半分をつけて後送し、道路を地雷と対戦車障害物で封鎖して自身達も撤収した。

撤収する前に、米兵たちの遺体をどうするかみんな迷ったが、5分も有れば済むと言って埋めることを決断した。

認識票と手帳は回収して、警備隊に提出した。


あれは自己陶酔だったのだろうか、同情なんだろうか。

モンテは一生答えの出ない問いかけを抱える事になった。


同日午前3時40分、ポンカ・シティ郊外


スタンレイ大佐は出動命令に静かに同意し、状況の確認をまず命じた。

展開する地域をどうするか考えるためだ。

そしてモンテたちの交戦を聞いた時彼らはすでにオクラホマシティを超えていた。

先遣をまず潰してポンカ・シティに後退し再編している国境警備隊の中隊を救い、彼らに市民の避難を支援させる。

スタンレイ大佐は極めて常識的で理知的に理論を組み立てた、相手が自分たちより多くても市民のいない市街地なら時間を稼げるし、機械化された我が軍と市街地の防御の有利さは一筋縄ではない。

それに分裂以前の大通りを容易くにらめて、テキサスへの侵入も抑止できる。

オクラホマシティには州防衛軍が展開し、連合国軍の歩兵部隊がすでに展開しつつある。


「スタンレイ大佐、国境警備隊の中隊からの報告では住民疎開が完了したとのことです」

「早かったな・・・」


スタンレイは副官のオリスカニーからの報告に意外な感想を得た、土地に根付いている農民が逃げるのを決断するとは。

オクラホマは南北ともに農民が多数派だ、当然地元民は疎開を嫌がるだろうに。


「オクラホマ州やカンザス州はホットスポットですからね、戦闘事態に巻き込まれて死ぬより避難するほうが良いと考えているんでしょう、種籾とかを抱えて逃げて行きましたよ」

「・・・戦争が身近なところで農民になるのは、かなしいなあ」


避難民防衛のためにスタンレイ大佐は保有する4個大隊の内2個大隊を市の郊外へ、機械化歩兵大隊をハイウェイ大通り方面に回した。

予備戦力として自動車化歩兵一個大隊と戦車2個中隊を待機させて、騎兵斥候キャバルリースカウトやバイク隊が何隊も編成されて警らをしていた。

合衆国軍が連合国軍の警戒線に入ったのは4時27分、夜が明け始めた頃合いである。

国境警備隊に出鼻を挫かれた合衆国軍は強力な敵の存在を誤認して、その奇襲効果を殺してしまう愚かな警戒前進を選んだのだ。


「・・・まさか、ヤンキーどもは本当に何も考えていないのか!?」


スタンレイ大佐にはそれが理解の枠の外にあった、国境警備隊が話を盛ってないのなら、奴らはある程度の火力がある陣地に歩兵二個小隊と豆戦車らしきもの一両で潰せると信じていたという。

なんて愚かな!戦車小隊と砲兵との連絡をしっかりしながら前進してれば、国境警備隊の陣地など20分か15分で制圧出来たろうに!

やや機動戦主義的感想はともかく、この怒りは当然合衆国軍も抱いていた。

そもそもとして、この攻撃が何を目的にしているか、それは簡単な事である。

官製選挙のお膳立てだ・・・。

ペリー政権はその公共事業としての軍拡を乱発していたが、それで作った軍隊はだんだんと持て余されていたのだ。

兵士たちは軍隊を餓えから逃れる為の場所と考え、将校たちは戦場を冒険の舞台のように考えていた。

だが一番の問題点は、ダストボウルだった。

過剰な漉き込みと資本主義の暴利で過剰生産を強制され、農地が次々と土壌流出を起こした事で暗雲となったのだ。

しかも35年よりこれはなお一層深刻化しており、合衆国は食糧問題を深刻化させていたのである。

結局、思想や信条ではなく、こうした理由から軍事的衝突が行われるのだ。


4時45分、オクラホマ近郊飛行場


連合国の青地に赤い縁、そして白い星の国籍記章をあしらったブラックバーン社製の複葉機、シャークがゆっくりと空へと舞い上がる。

この機体は二十年代中盤の艦上雷撃機として製作されたが、雷撃能力を取り替えて汎用性を確保したり、通信機を積んだりするのに使えるので連合国軍はこう言う機体が好きなのだ。

連合国軍は航空戦力と言う認識について、変わった認識をしていた。

すなわち情報を先取りしたりするにはかなり使い勝手が良いだろうという事に。

そのため戦闘機不要論などには懐疑的で、この時代にしては先進的認識を持っていた。


《マザーグース。マザーグース。こちらローカスト11。現在オーキー離陸。》


飛行場上空を旋回しながら高度を稼ぎながら、ローカスト11というコードの偵察機は連絡を取る。

マザーグースとは航空管制、すなわち陸軍航空隊の管制官のことである。

こうした航空戦力の統括と管制の概念は優れた認識である。


《ローカスト11。こちらマザーグース。針路を北に取りポンカ・シティ近郊に展開して現地部隊と連絡を確保せよ。

作戦地域の雲量は極めて小、風速も問題なし。

現地部隊のコールは周波数規定4号でモイラを呼び出すこと。》

「了解。・・・実戦になっちまったぜご主人」


ローカスト11の操縦士が後ろの偵察士に声をかける。

基本的に偵察士が一番階級が上である、退くか進むかの判断の都合上というものだ。


「あぁ、徒歩偵察じゃサマになんねえから頼むよ」


双眼鏡を取り出して偵察士が言い、旧式ゆえに低速だがしっかりとローカスト11は目標に到達した。

散発的戦闘が起こってるらしく、ちらちらと火線が見える。


《モイラ。こちらローカスト。目的地到達。指示を待つ。》

《モイラよりローカストへ。そこからさらに15キロ北進して敵の動向を確認してほしい。》

《ローカスト、了解。》


操縦士は内心気が気でなかった、彼は実戦に出るのを覚悟していたが、この州は住んでて気持ちが良かった。

だからここが戦場になるのを無意識に意識の外に避けていたのを無理やり自覚させられたのだ。


「ご主人。なんか見えるか?」


偵察士は双眼鏡を覗き込んだまま、何も答えない。


「位置変えるか?」


やはり答えない。

操縦士はやや機嫌を悪くして大声で怒鳴った。

偵察士は怪訝な顔で、操縦士に言った。


「・・・なんで行軍してるヤンキーが俺たちに手を振ってんだ?」


操縦士の顔も、怪訝になった。

彼は自身の双眼鏡を取り出して、偵察士に言われた方位を見た。

緑の軍服を着たヤンキーがぞろぞろと道を歩いていて、我々を指差して手を振っていた。


《ローカスト11からモイラへ。敵大隊規模のヤンキーがワインシティ方面より行軍中。

警戒極めて杜撰、我々に対して手を振ってます。》

《あー・・・モイラからローカスト。本当なんだな?》

《理由は分かりませんが、本当です。》


本当、理由がわからんけどな。

操縦士と偵察士はそういうと別の地点への移動命令を受ける事になった。


5時16分、ポンカシティ、機械化連隊戦闘団本部


スタンレイはこの世が意味不明で成り立ってることを思い知った。

奴らはろくな計画なく越境したらしいという事実を。

現在展開している三個大隊中2個大隊は敵と触接を受けて散発的戦闘中、後衛の州兵と増援が合わせて2個大隊取り敢えず到着した。

アイゼンハワー将軍の命令で臨時でコイツらも編入して良いと言われているので定点防御として活用する。

その為機械化一個大隊、自動車化一個大隊が完全に行動の自由を得た、そして敵の警戒線はかなり杜撰だ。


「・・・敵を分断し、撃滅し、侵略の意図を挫くぞ」


スタンレイは決断し、オリスカニーは司令部と確認を取った。

アイゼンハワーもパットンも同意したが、両者ともにこちらからの北進は避けろと指示された。

当然の事ではあった、何せ北進して維持する兵站なんかないからである。


「敵の主攻撃線はニューカークからブラックウェルにかけての線、おおよそ歩兵連隊規模でまちまちな交戦を現在しています。」


オリスカニーは参謀たちが集めた情報を載せた地図に指揮棒を向けて、再整理を行う。

地形的にニューカーク方面から反撃するのは論外、高地や山がある環境で投入するものではない。

従い反撃するならブラックウェル方面だ、こっちなら平地を中心としており機甲部隊などに適している。


「航空支援の用意を、それと師団砲兵の火力支援も願おう」

「呼びすぎでは?大事な時に使えなくなりそうですが」

「初撃で思い切り殴って主導権を得る方が大事だろう」


オリスカニーたちの意見は分からなくはなかったが、スタンレイはそれに同意できなかった。

彼としては反撃が成功するよりもこれでびびって相手が帰ってくれる方を期待していたのだ。

下手に加減すると北軍が本気になるかもしれない、そうなったら連合国軍は非常にまずい。

そう言った理由から彼は思い切りガツンと頭突きをかましてノックダウンさせてやる事にした。

騎兵斥候分隊の幾つかが展開し、敵の軸と線が確認され、叩く点を選ぶ。

簡単なことだった。


6時43分、ブラックウェル方面


米軍の散兵線はあまり凝っていなかった。

無人のままブラマン、ブラックウェルを陥落させた米軍は警戒心を強くするのに疲れており、これまでに数回友軍誤射が起こっていた。

南軍騎兵斥候と警戒分隊が突発的小競り合いをすることも少しあったが、それは士官たちに気にされなかった。


「分隊長、飛行機の音がします」


最初それに気づいたのは元猟師の米兵だった。

空から音が聞こえてきたのだ。


「双発の音だァ、偵察機じゃないなあ」


その音源は、ゆっくりと近づいていた。

よく見るとさっきの偵察機が先導している、そしてその先導機は赤いカラースモークを市街外苑に投下して反転し距離を取る。


「何してんだろ」


そんな中で古参の下士官が叫んだ。


「爆撃だ!!」


それと時を同じくして、少し離れた前哨陣地に砲弾が降り注ぐ。

彼らがちゃんと練兵され、緻密な計画を有し、訓練された下士官と幕僚達がいればこれがどう言う意味かわかった。

敵が前哨陣地を所在を把握して砲弾を降らせてきているのは大概攻勢開始を意味する。


「砲撃だァ」

「前哨線の連中だな・・・」

「せんとォー配置ぃー!」


手回しサイレンを鳴らして軍曹が叫び、いそいそとスプリングフィールドを取り出す。

そんな中、頭上には既にボーリングブローク高速爆撃機が存在していた。

誰もそれを敵機と考えておらず、

30キロ爆弾をたっぷりと抱えた高速爆撃機が、有りったけを叩きつけた時、彼らは何が起きたか分からなかった。

30キロ爆弾は爆弾の中でも極めて小型で、破壊力に乏しい。

しかし数と、突然の奇襲は一トン爆弾の絨毯爆撃並みに火力を生み出す。


しかも、最悪な事に飛び散った小石や枝切れは容易に音速を超えて拡散し、半円形の加害半径にいる全ての物を傷つける。

不運なヤンキー達が医者を求めたり、立ち上がれず苦しむ中、無事なものは状況を把握しようとした。

無事だったり軽傷の士官たちも急いで確認しようとしたが、彼らが動くのは遅すぎた。

彼らの耳には、ガタガタと小うるさい重い金具達が鳴り立てる音と、怪物の咆哮のようなエンジン音が轟いていた。

それは二種類の怪物が叫んでいた。


水冷機関銃を銃塔に装備し、車体に57mm砲を搭載するM2A1ボーレガード戦車と、主砲を砲塔に積んだM2A2だ。

区切り区切りで機関銃を撃ちながら、榴弾を主砲で叩き込む。

戦車後方からUEキャリアー改造の兵員輸送車に乗った連合国兵が展開し、機械化された突撃歩兵たちが短機関銃を握りしめる。

フランス軍式ヘルメットに厚めに加工された胸甲を身につけた彼らは、ついに本物の敵への引き金を引いた。


「うおおおぉぉぉ!!」


彼らは遮二無二で銃撃した。

敵の塹壕に飛び込んで、腰だめで銃撃し、ヤンキー達を薙ぎ倒す。

戦車が敵のいる家屋を銃撃して制圧し、突撃歩兵がダイナマイトの束を叩き込んで離れる。

どんっ!と大きな音と衝撃波が起こり、下士官率いる班が突入する。

大半の場合、衝撃波と叩きつけられた事で既に死んでいた。


数軒の家を制圧し、ブラックウェル市の教会に戦車が機関銃を撃ち込み、突撃歩兵が展開し出した時。

彼らは白旗を掲げ、武器を捨てて両手を上げた。

彼らが大通りを歩いて市街中央で一塊になって20分、捕虜達はトラックに乗って進んでいく連合国軍の兵士たちの憐れみの視線で敗北という事実を実感した。

ただ前哨陣地よりはずっと当たりと言えた、前哨陣地では指揮官たちがフランス製76mmでちぎれ飛び、降伏を選択する権限があるものがあっという間に死んだ為に、戦車中隊と自動車化歩兵大隊の攻撃をもろに食らって捻り潰され、皆殺しにされてしまった。

良い士官に恵まれない兵隊は悲惨であり、良い政府に恵まれない士官は悲劇で、良い事しか考えない政府は喜劇である。

しかし合衆国をこんなにした責任を有しているのは国民である、結局自分に返ってくるだけだ。


連合国軍の反撃は、正確には反撃と呼ぶのが躊躇われるものだった。

手薄だから殴り、戦線を躍進し、叩き潰し、戦意をへし折る。

それだけである。

組織化された機甲部隊や機動戦力による後方への躍進、スタンレイ大佐は全くそんな事を願ったりしてなかったが、ポーランドのフサリア達と同じ立場になってしまった。

そして現地指揮官達は苦境に立たされる、賢明な、または凡庸な指揮官が遣るべき事は戦線からの後退と退路の確保である。


本来ならその為に合衆国軍はある程度の機動予備を置く、それが道理である。

しかし、この時そんなものは全く存在してなかった。

「こうあるべき」「こうなってほしい」「かくあるべし」、夢見がちな妄想的戦争計画は現実を否定してしまった。

そして、機械化部隊は徒歩の歩兵より早いのである。

さらに、前線兵力は現在州防衛軍と後方から駆けつけた連合国軍の歩兵に触接を受けている。

スタンレイ大佐の自動車化大隊も彼らの後方を脅かしている中で退却や兵力の引き抜きは不可能だった。


情けないレコンキスタの末路であった。

十字軍はどうしたって?アッコンで骨になって転がってるよ。


しかし、ここで合衆国に救いの手が入る。

軍事顧問兼義勇軍のドイツ軍である。

合衆国国境内部で越境準備中のドイツ軍は規模は概ね三個連隊、しかし一個連隊は退路の確保で残るしかないし、もう一個連隊は合衆国兵たちを助ける仕事がある。

さらに残る一個連隊はアイゼンハワーの逆襲にも備える必要がある。

ドイツ軍義勇戦闘団は。ヘルマン・フォン・オッペルン=ブロニコフスキー中尉の戦車隊に進出する連合国軍の部隊への反撃を命じた。






















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