Page.2 『本の中身』

 高校二年生の「日野将吾ひのしょうご」は学校の図書室で謎多き本と出会った。

 その本の中身とは一体……。


 翌朝、将吾が学校の支度をしている時に机の上に置いていた昨日の本が手にあたって床に落ちた。その衝撃で本が開いた。


「あ、落ちちゃった。……ん?」


 本を拾おうとしゃがんだ際に、将吾は本の内容がまた変わっていることに気がついた。昨日は一ページ目にしか書かれていなかったのに、二ページ目にも字が増えていた。将吾はその新しい内容に目を通して驚いた。

 そして学校へ急ぎ、二人に知らせた。


「増えてるってマジ?」

「内容は?」


 将吾は周りの人には見えないようにこっそり二人に見せる。


畑塚英吉はたづかえいきちの秘密』


 そこには担任の過去の秘密が事細かに記されていた。


「畑塚英吉ってウチの担任だよ、ね?」

「あいつ、こんなヤバい奴だったのか?」

「いやこれ本当だったらヤバくない?」


 その日から毎日その本には一ページずつ彼らの周りの人達の『秘密』が記されていった。


篠村金江しのむらかなえの秘密』


「コイツ、隣のクラスの担任だ!」

「元キャバ嬢ってホントに? 大人しそうな雰囲気だけど」

「教師の顔は表の顔に過ぎない、だって」


 次の日も


森本善弘もりもとよしひろの秘密』


「この人はC組の担任だね」

「コイツとんだ悪だな!」

「教え子からお金巻き上げてるとかサイテーね」


 次の日も


東島登とうしまのぼるの秘密』


「コイツもこうゆう系かよ」

「トラブルメーカーってことね。いろんなところで問題起こしてるっぽいし」

「学校が庇ってるってことか」


 次の日も


橋本智和はしもとともかずの秘密』

「よく学年主任とか務めてるよね」

「ていうかさ、この本もおかしいと思うけど、俺らの周りこういう人達集まりすぎじゃない?」

「まあたしかに、偶然がすぎるよなぁ」

「うん、話が出来すぎてる気がする」

「それに俺らの名前も載ってて、著者とか出版社書いてないし。第一司書の先生もわからないってもう誰かのイタズラとしか思えないんだけど」


 将吾が改めてこの不可解な出来事に対して確認すると、渉が答える。


「でもよ、勝手に字が増えるって無理じゃね?」


 渉の正論に将吾が納得しかけていると、自慢げに楓が口を開く。


「出来ないこともないのかも」

「なんでだよ」

「このペン知ってる?」


 そう言って楓は将吾の筆箱から赤いペンを取り出した。


「消せるボールペン。これはこの部分で擦ることによって摩擦で字を消してるの。まあ厳密に言えば、鉛筆やシャーペンで書いた字を消しゴムで消すのとは違う。このインクは特殊なインクで温度変化で60℃以上になると透明になって消すことができる。逆にマイナス10℃以下になると、元の色が復元する。これ使ったらなんとか出来そうじゃない?」


 楓が実演しながら話す。


「でもマイナス10℃って相当だぞ?」

「そこは夜ってほら冷えるし、それに今は夏なんだから将吾が部屋に冷房かけてたんじゃない?」


 肝心なところが抜けている楓。しかし将吾が至って真面目に続く。


「ああ、それなら有り得る。俺暑がりだし」

「え、有り得んの!? マイナスだぞ?マイナス!」


 渉は衝撃の一言に耳を疑う。


「ちょうどエアコン当たるところに本置いてたし」

「可能性はゼロじゃないでしょ。別の方法かもしれないし。ってだけよ」

「そう……か。じゃあ、この本について誰かなんか知ってるかもしれねえし、聞いてみようぜ」


渉が上手く丸め込まれた後、クラスの人や同級生たちに話を聞いてみたがなにも情報は得られなかった。その日帰宅した後、将吾はふと思った。


「あ、そうだ。消えるインクならもう一回消せるか試せばいいじゃん」


 将吾はすぐに机の上に本を広げ、筆箱からペンを取り出して字を擦ってみた。

しかし、どれだけ擦っても字は消えなかった。


「そうだよ、温度変化で字が浮き出るんだったら他のページにも字が増えるはずなのに一ページだけしか増えてないってことは温度じゃないってこと?」


ただ謎が深まっただけだった。将吾は疑問を抱いたまま本を閉じた。


この時、残りページが空白の状態だった。

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