ふたりはうさぎさん
*うみゆりぃ*
第1話 ふたりはうさぎさん
閉ざされた空間
文字だけの世界
ふたりは何時間と
閉じ込められている
延々と続く川の如く
流れ続ける文字列
<< もういかなきゃ
戻るべき世界がある
わたしはいつまでも
”ここ” にいるわけにはいかない
>> さびしくてしんじゃう
あなたにしてはめずらしく弱気ね
<< いくの
>> どうせさびしくて戻るだろう
<< そう言われると戻りたくなくなる
>> 天の邪鬼か
わたしはアマノジャク
悪鬼になることで
あなたの心を探っている
>> 引き止めると逆効果になりそうだ
<< 明日考えるわ
いつものように画面を閉じて
わたしは眠りにつくの
また太陽が昇れば
閉ざされた空間が開かれる
躊躇なく今日も
文字だけの世界へと旅立つ
>> あらためて君を大事にしなければと認識した
<< 言葉ひとつひとつ、大事にしてもらっています
>> どんな ”形” であれ 俺は君が好きだから
文字のせせらぐ音は
なおも絶えず心地よく耳に残る
>> この関係が続くように努力するだけだ
<< ピュアね、恥ずかしすぎる
>> 純愛っていいだろ?
<< ほんとね、初めてかもしれない
>> ?
<< 純愛?
愛しい想いを
文字だけで綴り合うことは
純愛以外の何物でもない
違うのかしら
>> 君をもっと深く知る必要がありそうだ
きっとあなたは苦い顔をして
微笑んでいる
どんな顔をしているのかは
知ることはないけれど
>> 俺の人生はただ日々平和に生きてのんびりできればいい
せわしない世の中で今一番不足しているものだ
<< わたしには共感できないわ
>> ウッドデッキで椅子に腰かけながら紅茶を飲む
<< ふふ、縁側で緑茶じゃないのね
ドラマのワンシーンのような映像
優しい太陽の光に照らされて
ぽかぽかと心が温められてゆく
>> ただ、その風景は一人だったり二人だったりする
<< どういうこと、奥さんってことかしら?
>> そう
<< 一人でもいいの?
>> うん
温かい日差しは一気に陰り
モノクロの世界へと戻ってゆく
<< さびしくないの?
>> さびしいかもね
<< わたし、一人は無理ね
>> 最終的にいなかったら連れていくか
<< あの世に、連れていってくれる?
>> あの世ってなんだよ
わたしの心の鬼が
再び顔をのぞかせる
<< 孤独になるくらいなら、早く閉じるの
>> それはないな
<< 孤独を ”楽しめる” 人?
>> それなりにな
悪鬼はほくそ笑んで満足すると
飛び跳ねるようにして
心に消えた
>> ゆりさんは、うさぎさんか
<< うさぎさん?
>> 「さびしくてしんじゃう」
<< あら、そのセリフ、どこかで聞いたような
>> はて?
<< うさぎさんがもう一匹
>> だれでしょうね
ここには
わたし以外に
あなたしかいない
ふたりきりの空間
今日もよどみなく
川は流れてゆく
~END
ふたりはうさぎさん *うみゆりぃ* @Sealily
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