空と風に呼ばれて
*うみゆりぃ*
第1話 空と風に呼ばれて
真っ青な空に浮かぶ
真っ白い雲
美しいコントラストを
覆い隠すように
そびえたつ都会のビルディング
”約束は破られた”
カタカタと揺れる窓ガラス
風がわたしを呼んでいる
ラベンダー色の小さな花が咲きほこる
薄地のワンピースを纏う
少し動くだけで
ふわりと裾が大きく揺れる
こんな日はきっと歩きづらい
けど、いいの
お気に入りのハートのピアスを両耳へ
「泣かないで。いつものように明るくいて」
そう励まされる
一度は手元から離れていったはずなのに
また戻ってきてくれたのは
わたしがそばに居たいから
だから
”わたしからあなたに逢いに行く”
JRから地下鉄へ乗り換える
わずかな距離
こわくてずっと好きになれなかった
人々は縦横無尽に
笑みもなく、機械のように
一定の速度で奇妙に動き続ける
自分もその中の一部だと思うと
吐き気がする
目を伏せて
見ないように
存在しないように
通り抜けた
でも今は違うの
顔を上げて
前を真っすぐ向いて
背中を伸ばし胸を張り
足首を軽くクロスさせて
ヒールを鳴らしながら
通り過ぎる
すれ違う人々の顔を、目を、
しっかり見つめてやる
視線が合う人に
微笑み返す余裕も生まれたら
地下の澱んだ空気も
少しは清々しく感じるかしら
わたしだけじゃない
みんなちゃんと生きている
地下から階段を上がり
出口からもれる強い夏の日差し
つばの広い帽子を
目深にかぶり
スクランブル交差点を渡るの
大好きなあなたの元へはあと少し
ビルとビルの合間から
白い雲の塊が
次から次へと
流れ去ってゆく
まるで移ろいゆく恋心のよう
わたしの心も
そのスピードで変わってゆけたのなら
きっと今ここには居ない
予想以上の強風が吹き荒れ
ワンピースの裾を巻き上げ
膝から下すべてが露わになる
もう、そんなことも
誰に咎められる事はない
だって、あなたに逢えるのだから
ガラス越しに見えた
文字となったあなた
わたしへの想いがあふれ
胸が締め付けられる
独りでも
ちゃんと来られるようになったよ
強くなったと思う、わたし
日が陰るまで
ワンピースの裾を押さえながら
ずっとずっと待ち続けていたけれど
あなたは
来なかった
~END
空と風に呼ばれて *うみゆりぃ* @Sealily
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