8. かなしばり
一人暮らしを始めたばかりの頃。
夏の夜、ベッドでゴロゴロしながらTVを観ていたわたしは、いつの間にか眠っていたようだった。
ベッドに仰向けになっていると、突然の息苦しさに襲われた。
誰かに首を絞められているような感覚。
抵抗しようにも体が動かない。
指の一本すらピクリともしない。
これが金縛りというものだろうか。
頭は起きているのに体が眠っているような、半覚醒の状態とは言うけれど。
苦しい、助けて。
そこでハッと目が覚めた。
夢、だったのだろうか。
息を整えようとするが、まだ苦しい。
違和感を覚えて首元に手をやると、タオルケットが全て手繰り寄せられた状態で首の上に乗っていた。
まるで誰かがタオルケットでわたしの首を絞めようとしていたかのように。
おぞましい物を振り払うように、慌ててタオルケットを払いのけて体を起こす。
時間は深夜2時過ぎ。
息を整えながらつけっぱなしのTVに目をやると、稲川淳二氏が怪談の真っ最中だった。
タオルケットが偶然首に集中し、更に怪談が無意識下に働きかけたせいで妙な夢を見せたのか。
それとも深夜の怪談が何かを呼び寄せてしまったのか。
完全な八つ当たりだと分かっていても、稲川淳二に腹が立った。
怖さが7割、苛立ち3割。リモコンを乱暴に鷲掴みにして、できるだけ明るいバラエティ番組にチャンネルを変えた。
わたしが金縛りらしき経験をしたのは、この時一度きりである。
―終―
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