裁きの極光
マルクがヴェルハルトに込めた性質は炎。受け止めた全ての衝撃、魔法、そして激情を薪に、さらに煌々と燃え上がる不倒の意思。もう決して己の運命から逃げないと決めた、マルクの決意の証であった。
「はっ……はははっ!素晴らしい!素晴らしいぞマルク君!キミの覚悟がひしひしと伝わってくるようだ!」
戦況は決して優勢ではないにも関わらず、満足げにリカルドは笑う。既に彼が持つ目的の大半は果たされている。あとはこの場でマルクがどれだけ自分の実力を示すことが出来るかだ。
「ヴェルハルトさん!お願いします!」
「シャクティ、行け!」
ほぼ同時に発せられたマルク達の声に合わせ、ヴェルハルトとシャクティもまた同時に動いた。ほぼ熱線のようなシャクティのブレスに対し、ヴェルハルトは地を蹴り跳躍すると大楯を構え、一筋の赤光となって突貫。灼熱の炎を纏う大楯は鉄を切り裂く熱線を貫き、弾丸のような速度でシャクティの鼻先に突き刺さった。
「はぁあああッ!!」
大きく上体を仰け反らせて体勢を崩すシャクティの喉元に向かって、さらに気合いと共にヴェルハルトの大楯が振り抜かれる。重低音を響かせ、シャクティの身体がぐらりと傾きかけるが、反撃の尻尾の一薙ぎがヴェルハルトを弾き飛ばした。
「ヴェルハルトさんっ!」
「問題ない。キミが私に込めた想いを示さねばならんからな」
マルクの眼前に着地したヴェルハルトは纏う炎をマントのように靡かせながら体勢を立て直す。ヴェルハルトとシャクティの力量差は拮抗していると言っていい。天秤が一度傾けば、一気に勝敗が決することだろう。
「さて……そろそろ決着といこうか、マルク君。シャクティよ、相手がマルク君とはいえ手加減は無用!お前の力を見せてやれ!」
鼓舞するリカルドの言葉に、ヴェルハルトを見下ろすシャクティの瞳に力が宿る。眼下に大楯を構えるヴェルハルトを見下ろしながら、シャクティが左右に大きく翼を広げた。
「クルルル……」
シャクティが透き通るような、それでいて威圧感を感じさせる唸り声を上げると、朱に染まる翼膜が光を帯びる。まるで周囲の光や熱を集めているかのような、眩い光を発しながら景色が歪むほどの熱気を放ち始めた。
守備に秀でたヴェルハルトを仕留めるには、彼の守りを貫くほどの威力が必要だ。今まさにシャクティが放たんとする力は、それだけの破壊力を秘めていることはマルクの目にもハッキリとわかった。
「マルク君、これが最後だ。キミの創魔がこの攻撃を凌ぎ、見事シャクティを打ち倒した時、私とキミ達の願いが叶うのだ」
「加減は無しか。たかだか創魔一体に使う火力ではないだろうが」
「マルク君が戦いを通じて私に伝えんとしているのだ。ならば、私は全力で応えねばなるまい。それに……私は大の負けず嫌いでね。いくらキミ達でも勝ちは譲れんよ」
「はっ、貴様はそういう男だったな。これではどちらが子供かわからんな」
「大丈夫ですよ、レティシアさん。僕とヴェルハルトさんで、絶対にやり遂げてみせますから。だから、ちゃんと見ていて下さいね」
「…ああ、見ているとも。一瞬たりと目を離してなるものか……」
小さな村で暮らしていたどこまでも無垢な少年が、喪失感と悲嘆、絶望を乗り越えて今この場に立っている。その姿をずっと見守り、マルクが初めて沈痛な想いを吐露した夜を知るレティシアは、自らの意思で立ち直ることが出来たマルクに対して並々ならぬ想いを覚えていた。
今この瞬間のマルクの姿を、目に焼き付けておきたい。ほんの僅かな瞬きの一瞬でさえ、彼の成長を見逃したくはなかった。守られるばかりだった少年が自身を守るために前に立つその背中を、レティシアは静かに見守っていた。
やがて、シャクティの翼に光が収束する。その煌めきが最高潮に達した瞬間、膠着していた時が動き出した。
「ヴェルハルトさんっ!」
「ああ、任せておけ!」
「シャクティ、放てェッ!」
「クルルァアアアアッ!!」
四者の声がほぼ同時に響き渡った瞬間、咆哮を上げるシャクティの両翼から魔力の奔流と共に閃光が放たれた。それはただの光ではなく、凄まじい熱量によってレーザーと貸した破壊の光。一度光に包まれれば、一瞬で蒸発することは免れない熱線である。
「さぁ、どうする!?当たれば必殺!避ければマルク君達が危ういぞ!それともダメ元で受けてみるかね!?」
リカルドの言葉通り、ヴェルハルトの背後には守るべき対象であるマルクとレティシアの姿がある。回避すれば、熱線は二人を焼き尽くすだろう。
仮にヴェルハルトが熱線を避ければ、恐らくリカルドは瞬時に熱線を消失させる。だが、それはマルクの敗北を意味している。よって、ヴェルハルトは熱線を避けることは許されないのだ。
絶大な破壊力に挑む竜楯の騎士。遂に全てを無に帰す破壊の光が、ヴェルハルトを包みーーー
「悪いが、どちらも選ばんよ。私は……こうするまでだァッ!」
その時、ヴェルハルトは大きく掲げた大楯を地面に突き立てる。直後、極光の熱線が大楯を直撃した。
「う、うわぁあああっ!?」
「くぅ……っ!まともに見るな!目を焼かれるぞ!」
迸る閃光が周囲を埋め尽くし、とっさにレティシアはマルクを抱き寄せて光から守る。舞台上は目を開けていられないほどの光に包まれ、金属を締め殺すような鼓膜をつんざく甲高い音が響き渡る。
音の正体は、熱線が大楯を焼き切らんとしているために発生しているものだろう。レティシアが微かに瞳を開けば、ヴェルハルトによって深々と突き立てられた大楯の影が照射される閃光によって浮かび上がっていた。
このような状況ではまともに身動きなど取れるはずもない。ヴェルハルトには、ただ堪えるという選択肢しか与えられてはいなかった。
「さて……マルク君、レティシア君。キミ達はよく頑張った。正直、想像以上だったよ」
攻撃の手を緩めることなく、不意にリカルドは光の向こう側にいるマルク達へ向かって声を掛ける。
「だが、どうやらここまでのようだね。立派に戦ったキミ達の実力を疑う者など、この場に誰一人いないだろう。だから、潔く降参しなさい。誰にも非難はさせないよ」
優しいリカルドらしい降伏勧告である。こんな状況でこのような言葉を掛けられれば、誰もが一二もなく白旗を掲げて降参するだろう。
返答を待つ間に、リカルドはどのような慰めの言葉を掛けたものかと思案する。マルクは悔しさから泣くだろう。レティシアに至っては烈火の如く怒り出すかもしれない。だが、それも致し方ないことである。リカルドはそれを承知の上でそのような戦法を取ったのだから。
「まだ……終わっていませんよ」
その時、リカルドの想定外の出来事が起こる。光の向こうから聞こえてきたマルクからの返事は、未だ諦めを感じさせないものであった。
「強がりはよしなさい。もはやキミ達に出来る事は何もないはずだ。これ以上続けてもーーー」
「勝手に決め付けて終わらせるな。今度は……貴様が受ける番なのだからな」
「何……っ!?」
レティシアの言葉を耳にした瞬間、ぞくりとリカルドは背筋に何か冷たいものが流れるのを感じた。
この感覚は、まだ未熟だった若かりし頃に戦場で感じたことがあった。勝利を確信した時、勝ちを手中に収めたと思ったかと思えば、たった一つの綻びから全ての流れが逆転してしまった瞬間。今まさに、リカルドは同じ感覚を覚えていた。
「ま、まさか……シャクティッ!」
不意に何かを感じ取ったかのようにリカルドが命じると、シャクティが放っていた熱線を止める。明瞭になった視界の中、目に見えるのはその場に突き立てられた大楯と、それによって守られたマルクとレティシア。そこに、ヴェルハルトの姿は何処にもなかった。
辺りを見回したところで、何かを感じ取ったかのようにリカルドは不意に頭上を見上げる。そこには、炎を纏って高々と飛び上がったヴェルハルトの姿があった。
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