異界に交わる、私とワタシ
海野まみず
第1章 ワタシを救うために
邂逅:異なる世界の先で
第1話 異界のワタシ
空の焼ける音がする。見上げれば、パチパチと音を上げるのは、炎だけじゃない。
空を我が物顔で飛び交うのは双頭の金色の目をしたカラス。彼らの互いを呼びあう声が空に響く。
「あれは…魔獣?いったいどこから…」
カラスの姿を認めは私ははっと我に返って走り出す。ぼうっと見てる場合じゃない。カラスの、魔獣のエサは人間だ。そして、私にはその魔を払う力がある。
「行かなきゃ・・司令官、はるひさん、本条ちゃん!こちら榊です。魔獣を確認、第五地区の方角に向かっています。先行します、増援お願いします!」
走りながら腰のトランシーバーに向かって叫び、連絡を取る。そうすればいつだって、頼れる仲間が来てくれる。
ー今日だってそのはずだった。例え、眠っていたはずの私が災禍の中にいたとしても、そこが私の守る場所ならば。
『榊…くん…か!?いm…どこに…いる…だ!何が起き…て⁉』
「司令⁉こちら榊、応答願います!司令!」
ノイズ交じりの中に途切れ途切れの声。つながったように聞こえたそれは、プツリと切れて何も聞こえてこない。つまりは…
(応援は期待できないってこと!?でも…だとしても!)
だとしても立ち止まれやしない。今だって誰かが魔獣に襲われて、命を落としているかもしれない。それを防ぐ手立ては現状、たった一つしかない。
「こちら榊、先行します!通信終わり!」
聞こえているかはわからないけど、言うべきことは言った。腰に下げた刀を鞘ごと抜き払うと、光とともに刀は杖に形を変えた。
「行きますよ、忠輝さん!!」
私の守る力。それは、400年以上の昔に建造された城塞の力だ。古来より戦いや政治の舞台であった城砦には勝利や太平を願う人々の気が込められ、その地の魔獣を封じる要石になってきた。そして、気は刀に形状を変えて、現代の開発などによって崩れたバランスの隙間からはい出した魔獣を制する力を、適合した少女に与えるという。
私に適合したのは、かつての新潟・越後の府、高田城の力。私に合わせて力を変えた名刀・『忠輝』の力で私の姿も変化していく。
天守の屋根は魔女としては風変わりな黄色いトンガリ帽子に変って頭へ、降りてくる瓦は肩や太ももに籠手のように重なっていく。そして、胸には破風の模様と白、黒のリボンが踊って、この城最大の特徴、近代の土の城であることを示すように、緑色のスカートがたなびいた。杖の先に初代城主の家紋、葵が飛び乗って変化が終わると、私は杖の小脇に加速していく。
「高田城、榊輝子。いきます!」
私、榊輝子は魔払いの組織・鉄城団の一員。そして、またの名を「輝きの魔女」という。
使える魔法は三つ。攻撃・拘束・そして回復。それにちょっとの応用。なんでも適合車の心象次第で用途は広がるとか、何とか。
あちこちから煙のあがる街をかけていく。町の人たちは魔獣が出れば、シェルターへ避難する。よって私の使命は逃げ遅れた人たちの救出と魔獣の殲滅。近くの崩れたがれきの影の声に足を止めると、二体のカラスが小さな子供とそれを覆うように立ちはだかる女性が行き場を失っている。小さな女の子の腕から血の流れるのが、見えた。
「させない!ライトニング・バインド!」
杖をかざすと光を帯びて、腿の籠手が鎖状に延びてカラスへ絡みつく。鎖を引いて強引に二人からカラスを引きはがすと、空中に放り出したそれらへ杖を向けた。
「スパークル・レイン!」
放たれた白い光弾は一瞬でそれらを消し飛ばす。周りに魔獣のいないのを確かめて、私は二人に駆け寄る。
「大丈夫ですか!?早く近くのシェルターへ!案内します」
「は、はい、私は…。でも、この子がけがを…」
母親なのだろうか。辛そうな顔をして彼女が女の子の手をさしだす。その手を私はそっと包んだ。
「大丈夫、大丈夫だよ。お姉ちゃんが治すからね」
シャイニー・ヒーリング。淡く包まれた私の手の向こうで、女の子の傷は消え去っていく。
「ありがとう、おねえちゃん」
「どういたしまして、さあ、少し急ぎましょう」
ほっとした様子の二人を連れて近くのシェルターへ。小型のカラスを退けつつ、シェルターへの大通りを走る。シェルターはもう目の前、というところで空中におおきな影が現れた。
「新手…ですか」
先の個体と同じカラス。違うのはさっきと違ってとてつもなく大きいこと。そして、脆弱な翼や頭部をカブトガニのような甲羅で守った上級種であること。立ちふさがるそいつは、もともと火力の高くない私にとっては好ましくない相手だった。誰かを守りながら立ち回るならなおさらのことだ。
「ここは私に任せてください。気を引いている間にシェルターへ、急いで!」
「は・・・はい!」
だから、私自身をおとりにして。ライトニング・バインドを鞭のように操って空中のカラスの足を狙う。カラスが気を取られたスキに二人の背中を押す。
はじかれたように駆け出した二人はそのままシェルターにたどり着く。
はずだった。
走り出した二人、シェルターへの最期の交差点。倒れた信号機の影から、出会い頭で五つ目の白いサルの群れが襲い掛かった。
「きゃああああああああ!?」
「なっ!?くっ・・・戻って・・・ぐうっ!?」
肩からも鎖を伸ばしてとっさに白ザルの手を払いのける。二人のもとへ、行かなくては。しかし、そうはさせじと鎖を振り切って空中のカブトガラスが急降下してくる。まっすぐ伸ばしてきたくちばしが、左腕に突き刺さった。
「おねえちゃん!!」
「大丈夫っ!こっちへ…!」
傷を見て女の子が悲鳴を上げる。二人を抱きかかえて大きくジャンプ、背中に二人を隠せる路地の角に立つ私を、先ずは血祭りにあげようと魔獣が咆哮を上げる。その声に、二人の震えが背に伝わってきた。
「怖い、ですよね…。でも、守ります。守って見せます!それは…絶対に絶対ですから!」
握る杖に力が入る。それを合図にとびかかってきた魔獣。それを迎え撃つべく杖をかざした
刹那、黒い影がそれらを纏めて薙ぎ払う。
ーソレは、まぎれもなく、私だった。ー
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