第6話 歩き出した男2
忙しい時期が終わって、夏が近づいてきた。繁忙期でないときは、事務所の全員が暇ではないが脳みそのリソースを取られないような仕事を行っている。平戸さんと城之内は日々の管理業務を幾つかと、顧客からの請けた細かいデザイン修正を行っている。その合間には降って沸いたようなイベントやキャンペーンの、一枚きりの広告ウェブページを制作したりしているようだ。
佐々木と俺は、この頃以前から付き合いのある顧客に呼ばれてあちこち回ったり、事務所の名前を世に知らしめるため情報を仕入れたりしている。その他にも、当然日々の書類仕事がある。
佐々木はWebマーケティングに一見あるようだ。
「広告は今の時代、断然SNSですからね」
「ふーん、そうなの」
彼女は早口でSNS広告の利点をしゃべり始めた。コスパが良いだの、ターゲティングだの、小さいとこからコツコツとだの、そういうことだ。しゃべり終えて、
「広告は今の時代、断然SNSですからね」と念を押すように同じことを言った。
大学時代にマーケティングを勉強していたそうなのだ。
「宮本さんってやってます? SNS」
「俺はやってないよ」
「うわ、遅れてますよそれえ」
「なんか、知らない大陸のジャングルみたいで怖くないか?」
彼女はさっさっとスマートフォンを操作して俺に見せびらかした。事務所近くの定食屋の、とんかつ定食が写っている。
「これ、城之内さんのアカウント。毎日昼と夜にごはんの写真載せてる。無言で」
「よくやるな……」
「それ以外なんーも投稿しないんですよねえ。私ちょっと尊敬してます、城之内さん」
「……ちょっと分かるわ、その気持ち」
客先を二、三回ってその日の業務を終え事務所に戻る途中、ちょっと神保町の本屋を見て回ろうかな、と言うと同じく仕事が残っていない佐々木が付いてきた。目当てはマーケティングというか、広告に関する知識を仕入れるための実用書だった。前に勤めていた会社では全く手を付けていない分野だった。勝手に見て回っていると、頼みもしないのに佐々木は本屋の中のあちこちを回ってそういった本を探し出して来たりした。だが、それらの本をぺらぺらめくってみると確かに分かりやすい内容のようだった。
結果、五冊の古本を買った。
企業広告のことに関して色々本を読んで、雑誌で広告するという手があることを知った。そこで、そういえば千里が雑誌のライターをやっていることを思い出した。
千里とは久しぶりに会った。夜だが、彼は街頭の当たらないビルの壁際で待っていて、ジーパンと黒いTシャツというスタイルだった。伸び続けている髪は、切る暇が無いのか後ろで縛っている。その割に髭はきちんと剃っているのか、もともと体毛が薄いのか分からないが、顔は綺麗だった。腕を組んで、疲れ切ったように汚い壁に寄りかかっていた。彼は俺を見つけると、顔を向けて薄く微笑んだ。
「最近、全然眠れなくってさー。凄いでしょ、目の下の隈」
神田のスーパーの青果コーナーでキャベツを持って見ながら言った。
俺は酒を入れた買い物籠を持っている。千里は俺が持っている籠にキャベツを入れた。「お前もう病院行った方がいいよ」
「いや、こういうので病院行ったら医療保険入れないって聞いてさー」
「え、そうなのかよ?」
「そう聞きますよー、なんか」
それから、夕食に食べるものをロールキャベツや餃子なんかと適当に決めて、それらの材料を籠に入れていた。それで駅へ向かっているとばったり佐々木と出会った。佐々木は城之内と例の居酒屋、〈焼き串本能寺〉から出てきたところで、俺を見てまず驚いて、次に連れ添ってる千里を見ると顔色を変えた。それから、会計を済ませたらしい城之内が出てきた。
「あら、宮本さんじゃないですか」と城之内が言った。そして、スーパーのレジ袋を下げた千里に気が付いて、「……そちらの方は?」と聞いた。
「こいつは東。まあ、ただの知り合いなんだけど」
千里の方を見ると、顔が真っ青になって、所在なさげに両手で袋を持って立っていた。
佐々木が俺に近づいて来て、「……芸能人ですかっ」と顔を真っ赤にして、小声で聞いた。
「ちげーよ」
「宮本さんにこんなイケメンな知り合いがいるなんてっ」
「……」
「紹介して紹介、ね。ね。宮本さああん」
佐々木はそうまくし立てて、大袈裟に手を擦り合わせる。
千里は不安そうにしばらく突っ立っていたが、佐々木にしつこく絡まれている俺を見かねてか、控えめに自己紹介をした。彼は自分のことを、一応ライターと言うのだった。
……そうだ、実態はともかくこいつは一応ライターだ。どうでもいいが、名前がカタカナの職業は女にモテる気がする。俺は零細の一応事務職だから、余計そう思うのか……。
河岸を変えるという城之内たちと、路上で別れてから聞いた。
「お前って、人見知りだっけか」
「え、なんで?」
彼は幾らか顔色が良くなっていた。
「なんか挙動不審だったけど」
「ふんっ」
彼は取り合わず、鼻を鳴らしてずんずん歩き始めてしまった。
そんなことがあってから、事務所で佐々木と面を突き合わせるたびに、千里との食事の機会を設けるように催促されるようになった。その日は突っぱねても、次の日、次の日としつこく絡まれる。なんとかオブラートに包んで、千里の稼ぎは少ないということも伝えたのだが、一目でピンと来た、とか運命としか思えない、とか頭の悪い女子高生みたいなことを言って気にもしない。
事務所近くの定食屋で、
「宮本さん、ずるいですよお。自分はちゃっかり社長と付き合ってる癖してさあ」と前ぶりもなく言われたので俺は結構動揺した。
「……なんで知ってるんだよ?」
すると、佐々木は俺を変なものを見るような目で見る。
「ンなもん社長が宮本さんを見る目でわかりますよねえ」
「えっ?……なんか変かな」
「宮本さんて女を全然わかってない」と、声を裏返して言う。
……わからんもんは、わからん。
それぞれ定食を食べ終えてから、オリンピックによって生まれる経済効果と事務所に入る仕事の量の話をした。来年は景気が冷え込むというが、どうなんだろうという話をすると、佐々木は意外と楽観視していた。
「ウチの会社は書き入れ時以外は、以前から付き合いのあるクライアントばかり相手にしてますからねえ。ただ、デザインのお仕事ってAIじゃ代替できないものですから。需要の心配があるとするなら……」
それから話がだんだん専門的になっていって珍紛漢紛になってしまった。ただ、彼女は彼女なりに今後の景気を見込んで、大手ではないこの事務所に入ってきたらしいことを、その時初めて聞いたのだった。
そのうち、今年開催されるというオリンピックが近づいて都内のあちこちは人でごみごみするようになったころ、俺はとうとう観念して、来週の土曜に食事の機会を取り付けてしまった。
*
以前から、佐々木のことは折に触れて千里に話していたが、彼は実際に会うとなると渋い態度を取った。
仕事から帰って、中野のアパートの部屋から彼に電話を掛けていた。
電話口から、「勝手に決められても困るよー……」という情けない声が聞こえてきた。 俺は冷蔵庫からビールを一本取った。
「俺と飲みに行く約束が女と食事に行く約束に変わったんだぞ。少しは幸運に思ったらどうなんだよ」
「いや、……」少し間があって、「お金がないんだよ」と言った。
まあ、たしかに女と飲むとなると男同士で飲むよりは金が掛かるか。それは盲点だ。
「……。貸すよ」
「そんな、悪いよー」
俺はスマートフォンを持っていない方の左手だけでプルトップを起こして、ビールを煽った。
「いいだろ、別に女と食事するくらい。俺たちだって行くんだから。しかも、佐々木は東大出てんだぞ」
明日は、平戸さんとの予定も付けて男二人、女二人で店の予約を取っている。
「いや、学歴は関係ないでしょ。……それくらいしか褒めるところがないってことかな」
俺は缶ビールを片手にベッドに腰かけた。
「仕事が早いよ、佐々木は。書類整理もこまめにこなす」
言いながら、これは女を褒める言葉じゃないな、と自分が言ったことながら苦笑した。千里の方も同じようなことを考えたのか、スピーカーからくぐもった笑い声が聞こえてきた。
「……ともかく、あいつは気が利くし、頭も良いし、良い奴だよ」
それは彼女に対する正直な感想だった。相変わらずクレームが来たときにはパニックを起こすものの、忙しい時期を抜けて今、改めて彼女の仕事ぶりや人柄を評価するとそういうことになる。人は、第一印象に依らないのかもしれないと思った。
電話の向こうは何かを考えこんでいるように沈黙した。俺は彼が結論を出すまで何も言わずに缶ビールを飲みながら、電源が消えている真っ暗なテレビの画面を見つめて待っていた。そしてたっぷり間をとった後に、
「分かったよ。宮本さんがそこまで言うんなら」と観念したように言って、「会ってみるよー」と、それでも心底困ったような声を出した。
「良かった。……こういうのはなんだけど、本当に助かるよ。あいつマジでうるせーから」
俺は安心して、リモコンでテレビの電源を点けた。毎週この時間から始まる映画番組の冒頭のイントロダクションが流れていた。
「でも、お金無いのは本当だから。頼みますね」
「うん、分かった分かった。じゃ、明日頼むな」
それでスマートフォンを耳から離そうとしたときに、
「はい、あ。宮本さん」と、彼は付け加えた。
「あ?」
「部屋片付けてます?」
俺はベッドに腰かけたまま、じっくり部屋を見渡した。
実は、片付けている。
脱ぎ散らかしていた下着やシャツはきっちり棚に仕舞っているし、書類や本は本棚に押し込んでいる。掃除機もかけているから、フローリングにも髪の毛は落ちていない。
それというのも、平戸さんがそのうち、この部屋に来るかもしれないからだ。だが、理由を言うのは憚られた。
恥ずかしいのだった。恋人が部屋に来るかもしれないから、今まで散々に言われていた部屋の片付けをした。この事実はとても恥ずかしい。
黙りこくっている俺を訝しむような声で彼は、
「なんかやらしいこと考えてます?」と言った。
「うるせ」
それで通話を切った。話を終えてから、そういえば千里から女の話を聞いたことがないことに気が付いた。佐々木の言葉を借りれば、女を分かっているような感じだったので、ちょくちょく平戸さんとのことで相談していたのだが。まさか童貞ということはないだろうが。
心配しなくても、千里ならきっと上手くやるだろう。彼女の行為を拒絶するにしても受け入れるにしても。俺としては、佐々木と千里は案外相応しいんじゃないかと思うのだが、どうだろうか。相応しいといえば、確か平戸さんも俺と佐々木に関して同じようなことを言っていた。
若さか……。確かに、自分より若い人間同士なら誰と誰でも「相応しい」と思えるかもしれない。もしかすれば、去年の春ごろの俺と田村も、相応しかったと思える日が来るのかもしれない。過去の自分を、若かったと笑える日は、一体何度の明日を迎えれば訪れるのか……。
今の恋人、平戸さんと向かい合ってるときにも、ふとした瞬間に田村のことを思い出して驚くことがある。既に終わった関係に対して、こうも女々しい部分が自分の中にあったのか、……。ただ、それによって平戸さんに対しての思いに陰が刺すようなことは無いのだ。ただ、去年に観て感動した映画の内容を思い出すような気分になることが……。
缶を空かして、寝転がって天井を見上げる。
結局、俺が心から求めているのは、あの瞬間なのかもしれない。周りを顧みず、無我夢中でいられた、あの夜の……。そうしなければ一生後悔するだろうという確信を抱いていた。あの時、俺はその衝動をなんと呼んだのか。
そう、今更ながら思った。ともかく、彼らのことは明日結果が分かる筈だ。歯を磨いて、もう寝よう。
*
少し寝坊した。手早く身支度を済ませて家を出て、新宿へ向かうために中央線に乗り込んだ。今日は昼過ぎから平戸さんと映画館で時間を潰してから、そのまま店へ向かう予定だ。改札を出たところで彼女と落ち合った。彼女は職場でも私服なので新鮮に感じることは無かったが、何故かいつもより若く見えた。詳しくはないが、化粧の仕方が違うのかもしれない。
「宮本君の私服を見るの、すごく久しぶりに感じる」
よく見たら、普段は見ないピアスを付けている。
「そういえば、最近……というか、ここ半年くらいはスーツばかりでした」
「いっつも忙しそうに、都内をあちこち周ってるね」
「そうですね。とはいっても、実は大して忙しくないんですよ。この頃は」
「あはは!」
大して愉快な話題でもないのに彼女が爆笑したので、ちょっと驚いてしまった。彼女は、今日はすこぶる機嫌が良い様に見えた。
「あの、今日会うっていう人……千里さん? ってどういう人なんですか?」
そういえば、こないだばったり会った夜は佐々木と城之内だけだったか。
「あいつは、一応フリーライターですよ」
「一応って?」
「インターネットで、男向けのコスメとか食べ物とかのレビューを書いてるみたいですね。給料は少ないみたいなんですよ」
「へーえ……」
新宿の映画館は、週末らしい混みようだった。予め端の席を予約しておいたので、チケットの発券はスムーズに済んだ。館内に入ると、もう前の方の席は埋まっていて後ろの方には、席が取れなかったらしい立ち見の客もいた。平戸さんのリクエストなのだが、なんでも国際的な映画の賞を受賞した監督の作品らしい。お互い、あまり映画に詳しい知識はないが、なんか凄そうだ……と考えていたら、場内の明かりが落ちて近々公開される映画の幕間映像が始まった。
場内の雰囲気で、去年の春の終わりごろ、二人でジャズのコンサートに行ったことを急に思い出した。そのことを小声で彼女に話すと、「ああ……」と懐かしそうに嘆息した。
「そういえば、この間大事なことを言い忘れていたんですよ」
彼女は脇に置いたバッグにスマートフォンをしまって、「え?」という顔を作った。
「結婚は、前提としましょう」
おかしな言い回しになったが、とにかく、そういうことを言っておこうとは思っていた。城之内に言われたから、というわけでもないのだが、確かに彼女はもうそういう年齢なのかな、とは考えていた。
「えっ?」と、彼女は声に出してそれから、ははぁ……と感心したような顔でスクリーンの方に向き直った。
「平戸さんが良かったらなんですが、」と、そこで映画の本編が始まったので会話は切れた。
映画の中盤に差し掛かったところで、右隣に座っている彼女がしきりに頬をぺたぺた触っていることに気が付いた。そちらに意識を向けると鼻を啜る音も聞こえて、彼女が泣いていることが分かった。特に泣けるシーンでも無かったので、不審に思い彼女に小さく声をかけると、「……凄く嬉しい……」と声を震わせた。
また鼻を啜った。
「……全然映画に集中できないわ……。なんでこの人捕まってるんだろう」
俺はというと、結構集中して見ていたのだったが。
「俺にもわかりません……」
「うーん」
佐々木に予約させていた店は、デザートの種類が豊富な、ホテルに入っているイタリアンレストランだった。店先にあるメニューを見ると、今日出ている料理の名前が出ていたが、値段は書いていなかったので、高級なのではないかとヒヤリとした。だが、佐々木には千里がとにかく貧乏であると伝えておいたので心配はいらないかとすぐに思い直した。
案内された個室には既に佐々木が座っていた。俺たちが個室に入るなり、素早く立ち上がって「お疲れ様です」と挨拶してから、平戸さんを見て「うわー、社長可愛いじゃないですかあ、宮本さん」と言うのだが、一回り年下の佐々木に可愛いと言われた当人は喜びきれないような、微妙な表情をしていた。取材を一件済ませてからこちらへ来るという千里は、まだいなかった。店内はほどほどに混んでいるが、このくらいなら人込みが駄目な彼でも大丈夫だろう。
しばらくして、俺のスマートフォンに千里から連絡が入った。もう店の前に来ているというのだが、誰の名前で予約を取ったのか分からないというのだった。俺は佐々木の名前で予約を入れていたことを伝えると、間もなくウェイターに連れられて彼が個室に入ってきた。彼は俺と佐々木に「お久しぶりです」と言い、平戸さんに対しては、「初めまして……」とそれからこの間の夜のような自己紹介をした。取材で初対面の人間とよく顔を突き合わせているそうだから、ここら辺のルーチンはもう体が覚えているのだろう。
平戸さんは、やはり千里の気味の悪いほど整った顔を見て驚いているのか運ばれてきた料理を突きながらもちらちらと彼の顔を不思議そうに見ている。佐々木は料理なんかお構いなしという感じで彼に話を振ったり、時には俺と平戸さんも参加できる話題の口火を切る。だが、何れの話題でも彼の反応は鈍かった。食事が出そろい、アルコールもそれぞれ行き渡ったころに佐々木に助け舟を出してやろうと、そういえば、と佐々木が凄い大学を出ているのだ、ということを改めて話題に挙げた。
「こういっちゃなんだけど、お前ってよくあんな頭の良い大学卒業できたよな?」
ちょっと馬鹿にしたような感じで言うと、彼女は期待通りの反応で、「宮本さんひどおい!」と笑って受けた。それで場の雰囲気は少し柔らかくなった気がした。
「東大卒業か……。中退したオレからすると、雲の上みたいな存在だよー」
「そうなんだ。でも、入るのは難しいけど出るのは楽って結構よく言われているんですよ」
佐々木が当然のように大学の話をしているのが何か不思議な感じがする。
「どうして卒業できなかったんですかあ?」
「いやー、もうただの怠けだよー。サボりサボり」と、彼は寂しく自嘲した。
こうして二人が話しているのを見ていると、似ているんじゃないか? と思えてくる。
佐々木と大知だ。どこか雰囲気が似ている気がする。
「いや、中退したって言ったって、今は立派なライターなんじゃ……ちょっと社長!」
不意に佐々木が平戸さんを呼んだ。彼女の方を見ると夢を見るような目で、頬杖をついて二人を見ていた。いかにも「若いっていいなあ……」とでも言いそうな顔をしていたので、少し愉快だった。俺たちが笑うと、平戸さんも居住まいを正して照れ臭そうに笑った。
「なんか二人を見てると、自分まで若返ってくるみたい」と平戸さんは俺に言った。
「本能でしたっけ? またですか」と俺は突っ込んだ。
二人の間の話題だったのだが、「え、なんですかそれ?」と佐々木が首を突っ込んできた。
「人間の本能って、壊れているんだってさ。という話だよ」と、わざと平戸さんに言い聞かせるように言った。言ってから、そういえばこの話も誰かから聞いたのだった、ということを思い出した。誰が言ったかはすぐには思い出せない。「若さを求めるのが、人間の本能なんだと」
「ヒトの本能? そんなの見方に依りますよお」
「どういうことだ?」
「動物の本能っていうのは、色々な学問の領域で定義が違うんですよ。例えば社会学や心理学では種に特有の絶対的な行動パターンと定義されていますよね」
よね、と言われてもわからない。彼女は解説を続ける。
「でも、一方で、人間生物学ではヒトの本能って、あるとされているんですよ。まあ、本能というものの言い方は様々なんですけどね、とにかく、ヒトの本能っていうのは見方によるんです」と解説を占めた。
平戸さんは感心したように、「佐々木さん、すごーい!」と言う。確かに専門外であろう領域でここまで喋れるのはすごいかもしれない。が、
「……って、インターネットに書いてあったんですけどね」と机の下に忍ばせたスマートフォンを見せて種明かしをしたから、笑った。
「私には人間の本能なんてわかんないですよ。だって、今の日本って取り合えず命の危険がないですもおん」
「そうかな、」と口を挟んだのは千里だった。「オレは、あると思うけどなー」
「え、え、どんな?」佐々木はすかさず食いついた
「どんなって、そう聞かれても困るんだけどなー……。ただ、普段の生活では当たり前すぎて、気がつかないような部分に……」
三人の視線が千里に集まっていた。彼はそれに気が付いて、照れくさいように笑った。
「いやー、オレにもよくわからんです。やっぱり。なんかすいません。ははは……」
ちょっと手洗い、と照れを引きずったまま千里は個室から出て行った。じゃ、私もお……とそれに佐々木が続く。
二人が帰るまで、平戸さんと適当に喋っていると、佐々木だけが青い顔で個室に戻ってきた。彼女は、私はまずいことをしました……というような、クレームを受けたときと同じ顔で、不安げに右手で顎を擦っている。それで立ったまま言った。
「東さん、怒って帰っちゃったかも……」
「はあっ?」
「宮本さああん、どうしよおお」と祈るようなポーズで小刻みに上下に揺れ始めた。
平戸さんが立ち上がって、「佐々木さん、落ち着いて……」と佐々木の肩を優しく叩いた。「ううう、しゃちょおお」と、それでも体の揺れは止まらない。
「……宮本君、ここは私に任せて東さんを探して?」
「ええ」
頷いて、俺は立ち上がった。
男子トイレへ行く道すがら、俺はさっきの佐々木の様子を見て大知を思い出していた。そういえば、あいつも自分の想像に無い出来事が起こるとこちらの想像も付かないような行動をすることがあった……。衝動的にとんでもないことをする。
「ちっ」
そこまで考えて、気が付いた。
……発達障害か……。今の今まで思いも寄らなかった。もし本当に彼らがそうだとしたら、気の毒なことをしていたかもしれない。
男子トイレに彼の姿は無かった。俺は混み合っている店内を早足で抜けて、店の外に出た。彼はホテルの入り口から出たところの階段に座り込んでいた。佐々木よりも青い顔をしている。気まずそうに俺を見上げた。スニーカーはスリッパ履きをしている。
「顔色悪いぞ、お前」と声を掛けた。
「ああ、うん」
「人混みか? 店、込んでたもんな」
彼は顔を伏せて、頭を振った。
「いや、違くてさー……」
立ち上がって、俺に向かい合う。
「オレ駄目なんだよ。人混みじゃなくて、……女性がさー」
「何だと?」
そういえば、こいつが雑貨屋で顔を青くしたとき、店内は女性で溢れていた。
「……お前、そういうことは先に言えよ!」
自分の怒鳴り声が路上に響いて、一瞬で我に返った。千里は店の明かりが眩しそうに、左手で目許に影を作っている。それでも怯えたように見えて、「怒らないでよー」と呟いた。
「自分でも、なんとかしないとと思ってるんだよ。取材とかで女性と喋っても物凄く疲れるし、その日は眠れなくなる。だから、宮本さんの知り合いならって、今日は来たんだけど」
目許の隈は、余計深くなっていた気がした。
「……佐々木は一体何したんだ?」
「あの子はなんにもしてないよ。ただ、急に腕を掴まれて、驚いて突き飛ばしちゃった」
彼は心底疲れたような顔をして、溜息を吐いた。
「……わっかんねえなあ……」
俺は無性に煙草を吸いたくなった。とにかく、今日はもう駄目そうだ。
俺は一度店に戻って、個室に残っていた平戸さんと佐々木にある程度の事情を伝えた。彼には女性に対する恐怖症があるようだ、ということを説明したのだが、どちらもピンと来ていない様子だった。俺もそんなことは知らなかったので、当然だと思う。
千里が帰って、俺たちで食事を続けるのも妙だった。そこで、佐々木のことは平戸さんに任せてしまって、俺は外で待たせていた千里とタクシーに乗って帰ることにした。
俺は後部座席の左、千里は右に乗った。タクシーが走り始めてから気が付いて、「あっ」と頭を抱えた。
「えっ、なに?」
「……店の金払うの忘れてた。くそっ」
「あー……」
「悪いことしちまったな」
「ほんと、そうだよね」
俺は彼の頭を軽くぶった。
「他人事みたいに言うなよ馬鹿。おめーのせいだろーがよ」
彼は大して痛くなさそうに頭を擦りながら、「ほんと、そうだよねー」と言った。
「どうしてなんだ」
「んー?」
「いや、女が怖いって話」
「あー」
彼は車のウィンドウの方へ顔を背けた。窓の向こうには、見慣れた中野の大通りが映っている。勝手に駐車されている自転車や飲食店の明かり、疎らに歩く人々が見える。
「この話は、宮本さんに言ったことなかったかなー」
「何の話だよ」
「オレが、呪われているって話」
俺は呆れた。
「なあに言ってるんだよ、ほんと……」
窓を向いている彼の表情は見えない。俺はスマートフォンをポケットから取り出して画面を見た。特に平戸さんからのメッセージは入っていない。短く、金は後で払う旨を送信してから、まだ七時半を回ったばかりだということに気が付いた。俺はスマートフォンをポケットにしまった。今日は土曜日だ。
「久しぶりに、うちで飲むか」
「ああー、いいね」彼は背中を伸ばして言った。
階段を上がって部屋に入るなり彼は、「やっぱり部屋汚くなってんなー」と嬉しそうに言うので俺は驚愕した。衣服も棚にしまっているし、カーペットにはゴミも落ちていないのに、彼の中では今の部屋の状態は「汚い」らしい。
「お前、神経質じゃねえのか?」
彼は部屋の隅の本棚の前で身を屈めている。
「気にならないのかなー。こういうとこにさ、埃たまってんでしょ」
「そんなことだから、夜も眠れねーんだよ」
「はあ……」うなだれて、彼は溜息を吐いた。それで立ち上がって、「かもねー」と言った。
彼のそんな様子が、なんだか哀れに見えた。俺は買ってきた酒の缶を冷蔵庫に入れてから、元々入れていた冷えているビールを彼に寄越した。受け取って、そのまま本棚の前で飲み始めた。
「そう。……シリアスに受け止めすぎてんだよ、お前は。女のこととかさ」
「あー。女性ねー、そうねー……」
彼は缶ビールを指で掴んでゆらゆら揺らしていた。
「そういえば、あの人。平戸さんだっけ? 優しそうで良い人じゃん」
「ああ、……いや、平戸さんより佐々木だろ」
「佐々木さん?……まあ、あの子は元気っていうか、落ち着きがないっていうか……。悪い人ではないんだろうけど」
「あいつ、発達障害かもな……」
何気なく言うと、彼はギョッとした顔で俺を見た。
「……ちょっとひどいよ、宮本さん。そんなこと、本人には絶対言っちゃ駄目だよ」
「ンなこと分かってるよ。俺もさっきのことで不意に思ったんだ。で、大知思い出した」
「……何で大知?」
「あいつもそうなんじゃないかな、って。佐々木を見てたら思った」
「……」
彼は考え込むように自分の髪を掻き上げた。
「それにしても発達障害は、ひどいよ。……今日のことは、佐々木さんは本当に悪気があったわけじゃないんだから……。それに、大知がやったことだって」
「怒ってんのか?」
ゆらゆら揺らしていたビールを煽って、煩わしそうに息を吸った。もう随分酔っ払っているように見えた。
「大知は、子供を探しに行ったんだよ」
「子供、って……」
大知が押し入った部屋には親が遺棄していた子供の死体があった、と聞いた。
「俺が大知に言ったんだ。虐待されている子供がいるって」
「……お前が……?」
「りょうは、……子供は俺が見つけてやるべきだったなー……」
「お前知ってたのかよ、その子供」
「知ってた。……」彼は心底悔いるような顔を一瞬見せた。すぐに額を右手で擦って表情が見えなくなった。「虐待されてたことも、知ってた。そのうち、勝手に解決するだろと思ってた。俺は何もしなかった。……たまに、一緒に遊んでただけ。それでなんかした気分になって……」
「……」
俺は溜息を吐いた。目の前の、本棚の前で蹲っている男に何と言えばいいのか、見当も付かなかった。空気を紛らわせるために、テレビを付けた。バラエティ番組の賑やかな笑い声が、空間にじんと響いた。
千里の持っている缶が空いていたようなので、また冷蔵庫から、さっき買った新しい酒を持ってきた。彼は顔をぐにぐに左手で揉みながら、「ありがと」と言って受け取った。
それから空腹を感じて、夕食を食べ切れていないままだったことを思い出した。食器棚からとある客先で貰った洋菓子を取り出して消費期限を確認した。まだ食べても大丈夫そうだ。台所で菓子箱の開けにくい包装をガリガリ引っ掻いていると、スマートフォンに平戸さんからの着信が入った。あの後佐々木は落ち着きを取り戻したと言う。テーブルに残っていた料理は食べきれなかったが、そのまま二人で結構長い間飲み物を飲んでいて、さっき別れたところらしい。それから、再来週の平戸さんとの予定を軽く打ち合わせた。打ち合わせと言っても、あそこに行ってみたいだとか、あれをしたい、だとかそんな雑談のようなことだ。大っぴらには言わないのだが、彼女は再来週に誕生日を控えている。
部屋に戻った。酒を飲んでいるからか、千里の顔は少し赤くなっていた。ベッドに仰向けになって、空き缶を口で挟んでくらくら揺らしていた。
「平戸さんと電話?」口で缶を挟んだまま器用に喋り出した。
「ああ」
「どうせやらしい話してたんだろ」
「しねーよ。今後のことを話してただけ」
「こんごのことねー」
彼は缶をベッドの横のラック置いて、にやにや俺を見つめ始めた。並の男がやれば下品な仕種だが、何故か彼に限っては妙な色気があった。そう思って見ると、この彼が、自分
の部屋のベッドに寝転んでいることが不思議に思えてくる。それどころか、こんな男が自分の知り合いになったことこそが不可解だ。一体彼は、いままでどうやって生きてきたのだろうか?……俺は、千里が出会う前の話を聞いたことが無かった。実家とは折り合いが悪い、ということを何かのついでのように聞いたのみだ。
「宮本さんには未来があって良いよなー。立派に働いてるし」
「何言ってんだよ。俺より若いくせしてよ」
「若さがなんだってのさ。俺には明日なんてねーよ」
「え?」
「宮本さん、世の中には明日が無い人間なんてたくさんいるんだよ」
彼はベッドから気怠そうに立ち上がって、俺に向かってのろのろ歩いて来た。相当酔っているらしい。
「お前、もう帰って寝ろ」
「俺たちは、……」息を吸って、赤い顔のまま俺と向かい合った。「夜に眠るときは、死んでいるんだよ。毎日毎日死んで、それで、毎朝毎朝息を吹き返している、それだけなんだよ。宮本さんに分かるかな……」
田村の救いがたさを思い出して、俺は切ない気分になった。千里は「俺たち」という言葉を使う。彼は俺と彼らを隔たっているものが、絶対であることを分かっているようだった。そこが、彼と田村の違う所だ。
千里は分を弁えているのだった。
そう思って気付くと、千里はまだ俺を見つめていた。薄く開いた唇から白い歯が少し見えた。ゆっくりゆっくり俺に近づいて、両切りの煙草を吸うときくらいの柔らかさで触れた。
一瞬置いて、それがキスだと分かった。
呆然としている内に、彼は俯いて両手で俺の右手を掴んでいた。手の内は汗ばんでいる。
「気持ち悪っ」
俺は反射的に腕を払った。
「あっ……」
千里は後悔と恥が綯い交ぜになったような顔をしたが、どうでも良かった。彼は払われた両手を擦り合わせた。それが祈りを捧げるような、女性的な仕種に見えて腹が立った。俺は口元を擦った。
「気持ち悪っ。……てめえ……」
もう彼は俺と目を合わせない。顔が赤いのは、多分酔っているだけではない。気まずそうに俯いている。嫌な想像が俺の頭を過った。
「てめえ、まさか大知と……」
慌てたように顔を上げて、「違う。大知とは何もしてないよ」と言う。
「じゃあ、なんでだよ。何で俺に……。説明しろよ!」
「それは、」彼は苦しそうに喉元を抑えた。「……本能としか……」
「またそれか。それ、その本能っての。意味分からねえ」
「……」
彼は額の汗を手で拭った。
「本能なんてのはな、取り返しの付かねえ連中しかそう言わねえんだよ!」
俺は突っ立っている彼の背中を無理に押して、玄関の方へ押し込んだ。
「み、宮本さん、ごめん。オレ……」
「消えろ。二度と面見せんなよ、てめえ」
そのまま外まで押し込んで、扉を閉めた。たたきに彼の靴が残ったままだということにすぐ気が付いて、扉を一瞬開いて外へぶん投げた。そのまま扉を勢いよく閉めたときに、何かを挟んだ感触があって外から短い悲鳴が聞こえた。見ると、ドアの隙間から細長い指が突き出ていて、震えていた。慌てて扉を開いて、すぐにしまった、と思った。しかし、彼は中に押し入ってくるようなこともせずに、玄関先で挟んだ右手の指を腹の辺りで抑えていた。
「宮本さん……ごめん……オレ酔っていたから……」
彼は額に脂汗を浮かべている。
「ンなことより、指! 見せろ!」
抑えていた右手を彼の腹から無理矢理引っ張って見た。皮膚が裂けて、べっとり血が付いている。人差し指から薬指の根元が赤黒く腫れ始めている。……折れている……ような気がする……。とにかく、急いで病院へ行ったほうが良さそうだ。俺は靴を突っかけて外へ出た。
「病院行くぞ。まだタクシーあるだろ」
「ごめん……宮本さん……」
「うるせーから」
彼は痛みのせいなのか何なのか分からないが、泣いている。
「ごめん……」
「……もう、いいから」
通りへ出る道すがら、麻痺していた指が痛んで来たのか、千里の足取りは覚束なかった。俺は左手を掴んで、泣いている彼を引っ張って歩いた。どこからか、煙草の臭いが空気に混じって鼻に来ていた。
*
平戸さんの誕生日は水曜日だったので、金曜の夜に事務所からそのまま食事へ向かった。新宿にあるホテルの上層階にあるレストランを予約していたので、その日は晴れてほっとした。記念日に高層ビルのレストランとは、お互い如何にもに感じていたようで、笑い合った。そんなレストランだから、周囲には感じの良さそうな高齢のカップルだとか、金は持ってるが恋人はいないのか着飾った女性二人だとかがそれぞれ独自の世界をテーブルの上に作っていた。
「そのうち、泊まり掛けで温泉にでも行きたいね」
「ああ、良いですね」
そんなようなありきたりな話をするが、各自がムードを作ろうと静かに一生懸命だったような気もする。食事を終えた後はそのままホテルの中の一室に向かう。タイミングは今かと思って、二人きりのエレベータの中で、途中から人が乗り込んでくるまでキスをした。彼女とのキスはそれが初めてだった。……そう思えば、長かった。他人がエレベータに入ってからはお互い何も喋らず、何故か他人同士のように振る舞ってそのまま取っている部屋がある階に到着した。部屋に入ってからは、仕切り直すようにゆっくり二人の時間を過ごしたのだが、翌朝部屋で起きてみるとただセックスした記憶しか無かった。それくらい平戸さんの体の感覚は新鮮なものがあったと思う。それに、そういうこと自体も長らくご無沙汰だった。記憶にある最後は、大学時代の彼女とだった。
平戸さんとの関係が進展することにこう時間が掛かったのは、田村の存在があると思う。田村とは一緒にホテルに行きはしたが、結局何も無かったのだった。彼女との間には堅い岩盤のようなものがあった。お互いに両側から掘り進める努力はしたが、上手くいかず、到達しないまま別離してしまった。そんな関係をこの間まで引きずっていたかもしれない。
そして、この時に初めて知ったのだが、平戸さんは恐ろしく寝相が悪かった。何故か綺麗に九十度、ベッドの上で回転してうつ伏せに寝ていた。そんなわけで俺は寝ている間に、ベッドの端の端に追いやられていたようなのだ。朝目が覚めて、起き上がった瞬間にバランスを崩してベッドから落っこちた。寝相が悪い成人した人間を見るのは初めてだったので、俺は物凄く不思議なものを見たような気持ちでそのままシャワーを浴びた。シャワーから戻ると平戸さんは下着姿で、敗北したボクサーのようにベッドに腰掛けていた。一応寝る前にホテルのローブを着たはずなのだが、それすらもベッドの中で脱ぎ散らかしていたようだ。
「ごめん。私、寝相が悪いの。すっかり忘れてた」と俯いたまま呻いた。
「はあ……」
「今度は、ベッド分けた方が良いかもしれない……」
「はあ……」
ともかく、平戸さんとは一種の垣根を越えた。彼女とは今までよりも親しく接することが出来るようになった。そもそも、それも俺の気の持ちようだったのかもしれない。いつの頃からか、彼女は俺に敬語を使うのを止めていた。
*
オリンピックの喧噪が収まってきた頃に、昼休憩の時に外回りから事務所に帰ると城之内と平戸さんが腕を組んで城之内のノートパソコンの画面を見ていた。あまりにも空気が重かったので、重篤なシステムトラブルかと俺も画面を見た。すると、前に佐々木に見せられた城之内のSNSアカウントのページが映っていた。
まさか、とは思ったが「炎上ですか?」と聞いた。
「違うよ、宮本君」と平戸さんが言う。
無言で城之内がマウスを動かして、最新の飯の画像をクリックした。すると、リプライというのか、返信のメッセージが幾つも付いていて、どれもが地名と店の名前らしきものが書かれている。その中の一つを城之内はぐるぐるマウスを回して示した。
「この人、当ててくるんですよ。この前も、一昨日の夕食も……」
アカウント名は「天ぷら選手権本丸」。
「?」
意味が分からない。平戸さんを見ると、難しい顔で下唇を指で摘まんでいる。
「手強い相手……」と、平戸さんは呟く。「そうだ、この間新しくできた駅前のカレー屋は?」
「そんなの、絶対マークされてますよ」
「……じゃあ、この間二人で行った池袋の中華料理店は?」
「あそこ、あんまり美味しくないからヤです」
「うーん」
そんな感じで、二人は今日の夕飯をどこで食べるかについて議論している。
俺は二人を放っておいて、自分の書類仕事を初めた。
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