第117話 転移した先は
「まったく……ツイてねぇな」
「そだねー」
僕達四人は転移魔法陣を発動し、無事に帝国から逃げ出す事に成功する。しかし、一つ問題が発生している。
「なぁ小僧、ここ何処だと思うよ?」
「僕にわかる訳ないでしょ? そもそも目が見えないんだからさ」
「だよなぁ……」
僕は結構安易に考えていた。魔法陣で脱出して、魔力の回復を待ってから転移を使用してオウバイへ戻ればいい。そんな風に思っていたのだ。
だが、現実は甘くは無かった。
「何で転移できないのかねぇ……」
そう、転移が使用不可能なんだ。その理由はさっぱり分からない。
今いる場所は他の三人も全く分からないらしく、何処かの山中であるということしか分かっていない。
取り敢えずギンが簡易の結界を張って安全は確保しているのだけど、居場所が分からないのでは何処に向かって進めばいいのかすら決まらない。
「適当な方向に進んでみるしか無いだろうな」
「でも、危険じゃありませんか?」
「それは承知の上で言っている」
「僕が役に立たないのにそんな危険は冒せませんよ」
僕とギンの意見は全くと言って良いほど合わない。
「ハルト、ただいまー」
「お帰り、シャル。どうだった?」
「それがねー、街も村もどこにも無くてさ。人っ子一人居やしないの」
確かに辺りには魔物の気配すら無い。一体何処に飛ばされたのやら……
「これからどうするかは一旦置いておいて、夕食にしようか」
「待ってました!」
「ハルトさん、私唐揚げが食べたいです!」
「はいはい、今出すからちゃんと座って食べて」
僕の言葉に反応してすぐに座る二人。
「何だ? 食べ物を持ってるのか?」
「ええ、ハンターとしての嗜みですね」
シャルとレスリーの前に大皿の料理を置く。
「ほう、美味そうじゃないか」
「勝手に食べないで下さい」
ギンが伸ばして来た手をパチリと叩く。
「何で駄目なんだよ!」
「アンタはウチのパーティーメンバーじゃないからね。食べるなら料金を支払ってもらう」
「ケッ、ケチ臭いな。いくらだ?」
「一食、金貨一枚です」
「ぼり過ぎだろうか!」
「嫌なら食べなくていいです」
「食べねぇなんて言って無いだろうが。ほらよ」
ギンがこちらに何かを投げてよこす。受け取ったそれを確認したいが、残念ながら僕は目が見えない。
「シャル、これ金貨?」
「ううん、銀貨だよ?」
「ふう、やれやれ。これで自分の事を大賢者だなんて名乗るんだからな。恥ずかしくないのかねぇ」
両手を広げて首を振る。
「うるせぇよ! こんな物、その程度の価値しかないっていう事だよ。悟れ」
「ちょっと、アホ賢者。ハルトの料理を馬鹿にしないでよ。本当に美味しいんだからね?」
「ふん、こんなの何処で食べても同じ……」
ギンが何かを食べた様だ。その後何も発言しない。
「うめぇ……」
数秒経ってから口に出した言葉は僕にとって最高の褒め言葉だった。
「そうでしょ? みんな食べるとやみつきになるんだから。さっさと金貨を払いなさいよ」
「ああ、これなら金貨一枚くらい安いもんだ。それより他にはないのかよ?」
「これ以上は食べすぎ。我慢して」
「そう言うなって、なっ?」
余りにもしつこいので仕方なく追加の唐揚げを皿ごと提供する。
「悪いな、頂くぜ」
ギンが言葉を発した瞬間、背後にとてつもなく大きな気配を感じた。
今までに感じた事が無い程の強い気配。
一瞬で心拍数があがり、汗が流れ出す。
「どうしたの、ハルト?」
「シャル、あっちに何か居ない?」
気配がする方を指し示す。
「別に何も……あれ、何……?」
「どうした?」
くそう、目が見えないのがこんなにもどかしいなんてな。
先程の気配が僕らの方へ近づいて来ている。
「シャル、レスリー、僕の後ろへ。ギン、何が向かって来てるんだ?」
「分からんが、コイツはヤバそうだな」
遅ればせながらギンもあの気配に気がついたようだ。
徐々に近づいて来たその気配は勢いを増し、一直線に向かって来る。
「おいおいおい、なんだよありゃあ?」
「シャル?」
「あれは、人間?」
人間がこんな物騒な気配を放っているだって?
とてもじゃないが信じられない。本気を出した師匠かそれ以上の威圧感がみるみるうちに接近する。
ジグザグに動くソレはギン目掛けて飛びかかる。
「クソッ、俺かよ」
ソレとギンの気配が交差する。
何かを咀嚼する音。
「ギン、大丈夫か?」
「ああ、なんとも無い」
「アレは何をしているんだ?」
「唐揚げを食ってる。皿ごとな……」
クチャクチャとした咀嚼音が止み、ソレは新たな獲物を求めて振り返る。
「から……」
もしかして僕の方を向いていないか?
「あげぇぇぇぇぇ!」
ソレは飛びかかって来た。僕の唐揚げの皿に……
瞬く間に唐揚げを平らげたソレはまだ満足はしていない様だ。
「ヨコセェェェェ!」
咄嗟に大皿に盛った唐揚げを地面に置く。
最初は本当に噛んでいるのか、という勢いで食べていたのだが段々とゆっくりにそして味わって食べている。
「もう、無いのか?」
意思の疎通はできる様だな。
無言でもう一皿、唐揚げを出してやる。
個数にして約200個の唐揚げを平らげたソレは満足そうな吐息を漏らしてから語り出した。
「この唐揚げを作ったのは誰だ?」
「僕だけど?」
「貴方が神か! こんなに美味い唐揚げを食べたのは生まれて初めてだ。唐揚げ神よ」
「おかしな名前を付けないでもらえる? 僕はハルトって言うんだよ」
「ハルトか。お主、何か欲しい物は無いのか? 感謝の印に何でも叶えてやるぞ?」
何でもねぇ。今欲しい物と言えば……一つだけあるけど、無理だろうな。
「僕の目を見える様にしてくれ」
「ほう、目か。それは私の得意分野だ。お主ついているのう。どれどれ?」
目が得意分野って何だ?
「お主に必要そうな物は……うむ、これにしておこう。もう良いぞ。目を開けてみよ」
そんな簡単に言うけどね。眼球が無いんだから見えるはずが無いのに。そう思いながらも恐る恐る目を開けてみる。
「目が、見える……」
「うむうむ、そうじゃろう。そうじゃろう」
「何をしたんです?」
「お主が欲しいと言ったのだろう? その目はな、特別製じゃ。上手く使うんじゃぞ?」
「特別ですか?」
「うむ、久遠の力の瞳と言ってな……」
おい?
「強力な吹雪を巻き起こす事ができる」
待て待て。
「勿論、使用すると相手は死ぬ」
「いらねぇよ! 物騒過ぎるだろうが!」
「便利なのに……」
「他にもっとあるでしょうが!」
「ならばこれはどうじゃ?」
「……どんな目なんです?」
「涙の代わりに唐揚げが出る」
「おかしいだろ! どこが普通なんだよ! 唐揚げ好き過ぎるだろうが!」
「我が儘じゃのう……」
僕がおかしいのか?
「普通のヤツはないんですか?」
「普通か……むむむ、それならこれにしておこう。宵闇の瞳じゃ」
「普通とは思えませんけど、どんな物なんです?」
「暗闇でもハッキリと見える目じゃ!」
ほう、それは良いかも。
「ほれ、終わったぞ」
もう一度目を開き、周りを見つめる。
「うん、問題無いみたいだね」
「気に入ったか?」
「ありがとう。でも、こんな事が出来るなんて貴女は何者ですか?」
「私か? 私は月を司る者、千眼のシャルナ」
「ファッ!?」
「ここに封じられて、もう千年になる」
シャルナってアレだろ? 全てを滅ぼす者だよな?
「あんたが世界を滅ぼす物なのか?」
「うん? そんなつもりは無いが?」
「えっ?」
「私はここで力を封じられている。そんな大それた事はできない」
「そもそも、ここは何処なんです?」
「ここは天山、元々は神が住む場所じゃ。それも今は私ともう一人しか居らんがの」
天山、四大国の中央に浮いている神が住む山か。
「俺たちはそんな所に転移してきちまったのか……」
「人間が天山に足を踏み入れるのも久しぶりだ。どうせ世界はじきに崩壊するが、ここなら安全だ。ゆっくりしていくと良い」
ん?
「ちょっと待って、世界が崩壊ってどう言う意味ですか?」
「人間の世界はもって後、三年と言った所だな」
「理由は?」
「いくつかあるが、一番の原因は破壊神シャルナによるものだ」
「シャルナってアンタの事じゃないか!」
「そうでもあるが、そうじゃない」
「どう言う事だよ!」
「今現在、地上に存在しているのは私の怒りの残滓だ。私が怒りに任せて行動した結果生まれた、私とは違う存在でな、その行動の理念は世界の崩壊だけを望んでいるんだ」
「それならアンタがなんとかしろよ!」
「アレはな、誰にも制御出来ない。唯一アレを止められる奴も既に居らんしな」
「それ、誰だよ?」
「元々はただの人間であった男。後に世界を救った勇者となった……」
まさか……
「その男の名は朝霧巌、人間でありながら神をも超えた強さを持つデタラメな男よ」
「師匠が……」
「ほう、知っておるか」
「ぼくの師匠です」
「そうか、アイツはあんな所で死ぬ様な男では無かったのだがな。因果な物よ。彼奴が生きておればもう一度破壊神を封じただろう」
師匠は僕を助ける為に無理をして死んだんだ。
じゃあ、世界が崩壊するのは僕のせいか?
「世界と言うのはおかしな物でな、ほんの少しの事象で大きな変化が起こる。今は二人のイレギュラーな人物の登場で元々あった大きな流れが変化しておる。儂は巌が居なくなってから気が遠くなるほど何度もシュミレートしたのだが、どう足掻いても変わらんかった。世界崩壊は免れんだろうな」
イレギュラーな人物?
「その二人は大きな運命の力を有している。一人はお主だな。巌の弟子よ」
「僕のせいで世界をが崩壊するって言うのか?」
「お主だけの責任では無いさ。だが遠因になったのは間違いないだろう。だが、お主の運命の力は巌には遠く及ばない。もう一人が存在して初めて変化が起こる」
「それは誰?」
「ハーパル=リンド。それが二人目の名前だな」
アイツか……
「お主とハーパル、二人の因果が複雑に絡み合い、世界は徐々に崩壊へと傾いている」
「止める方法は無いんですか?」
「止められる物なら止めておるさ」
「そんな……何か、何かあるはずだ!」
「ふむ、そうじゃのう。万に一つ、いや億に一つくらいの可能性は残っておるかもしれんな」
「それは?」
「お主にが巌をも超える強さを身につけて、破壊神を封じる事じゃな」
アレを超える? 僕にそれが出来るのか?
だけどやらなければ世界が滅ぶ。
師匠の代わりに僕がなんとかするしか無いね。
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