第118話 強さを求めて

 師匠に追いつく……それが僕に出来るだろうか?


「シャルナ、師匠がどんな修行をしたのかは知らないかな?」

「巌とは昔会ったことがある。その時に聞いたもので良ければ知っておるぞ」

「教えて下さい!」

「気の遠くなる様な方法だ。辞めておいた方がいい」

「それでも、教えて下さい。お願いします」

「そうか……ならば語ってやろう。言葉にすれば簡単な事よ。まずは六竜の加護を得る事じゃ」


 六竜? それなんぞ?


「六竜とは、天竜、火竜、水龍、風竜、土竜、そして、闇竜の六体の竜の事じゃ」

「あっ、天竜と水竜の加護は持っています」

「ほう……なかなかやるでは無いか。それならば他の竜の加護もすぐに集まるだろう。六竜の加護を得たならば大迷宮の最深部へと入る資格を得る事ができる。そして四つの大迷宮を巡り四聖獣に会う」


 今度は四聖獣か……


「四聖獣はそれぞれ力、叡智、俊敏、幸運を司る」


 四つの力……


「そして、四聖獣に課せられた試練を乗り越え、最強へと至る」

「なるほどね。そしてそれを三年でやってのけないといけないのか……」

「さよう、巌は竜の加護を得る前に様々な職業を極めておった。お主もまずはそこから始めるといい」

「あっ……」


 マジですかー。


「どうした?」

「あの、僕は神殿に行ってもロクな職業に就けないんですけど……」


 僕が就ける職業は二つ。


 ニート

 身体能力にマイナスの効果有り。

 他の職業に就けなくなる補正有り。


 取得スキル   無し



 警備員(自宅)


 警備をする場所では無類の強さを発揮する。

 その他の場所では無力。


 取得スキル   鉄壁


 この二つだ。ハッキリ言って使えない。この職業に就くくらいなら無職の方がまだマシなんだよね。


「ふむ、職業とは本人が持つ資質によって変化する。日々精進する事じゃな」


 ニートと自宅警備員を極める……それはいけない。ただのダメ人間になりそうだよ。


 シャルナから情報も貰った事で、今後の僕の行動が決定した。まずは六竜の加護を集めるとしますかねー。


「色々とありがとう。僕達はそろそろ帰ろうと思う」

「そうか。そう決めたのなら止めようとはしない。わざわざ崩壊へ立ち向かって行くとは人間とはやはり不思議な生き物よの」

「ここから出るにはどうしたら良いのかな?」

「ふむ、地上に戻るなら送ってやろう。全員、準備はよいかな?」

「はい、大丈夫です」

「ここに来た記念にこれを渡しておこう。いずれお主に必要になるかもしれん。では行くぞ」


 一瞬の後に僕達四人は見知らぬ場所に立っていた。手にはシャルナから渡された物を持っていた。


「ハルトさん。それ何ですか?」

「うーん、鉢植え……だよね?」


 シャルナに貰った物はどこからどう見てもただの鉢植えに見える。


「まぁ、せっかく貰ったんだから自宅の庭にでも植樹しておくよ」


 でも、これが必要になるってどういう意味なんだろうねぇ?


「小僧、そんな事よりもここが何処だか分かるか?」

「そうですね……何もないからなぁ。サッパリですね」


 辺りを見回してみても、目印になる様な物はどこにも見当たらない。ただ赤いレンガの街道が真っ直ぐ続くのみだ。


「この街道があると言うことは、もしかして転移が使えるかもしれない」


 全員に集まってもらい、転移を発動。


 すぐに視界が変化して、僕には見慣れた光景である転移部屋へと到着した。


「なんとか、なったみたいですね」

「ここは一体どこなんだ?」

「オウバイの僕達の自宅ですよ」

「オウバイか……」

「取り敢えずは一旦休憩にしましょう」


 転移部屋を出て母家へ向かうと部屋の中は無人であった。どうやらみんな仕事に行っているみたいだ。


「なんか色々あり過ぎて疲れたね」

「私、お茶入れてきます来ますね」

「ボクも手伝うよ、レスリー」


 シャルとレスリーが二人連れ立ってキッチンへと向かう。


 必然的にギンと二人きりになる。


「………」

「……………………」


 お互いに興味が無い所為なのか黙ったまま、静かな時間が流れる。その沈黙を破ったのはギンの方だった。


「小僧、お前に頼みがある」

「なに?」

「オウバイの王に面会したい。なんとかならんか?」


 王ね……それくらいならなんとでもなるけど、どうするべきなんだろう?


「理由を聞いても良い?」

「当然、これからの事を相談する為だ」

「具体的には?」

「お前も分かっているだろうに……」


 今のジニアは確かに危険だ、それは分かる。それならどう対応したらいいのか、僕には見当もつかないな。


 よし! レックスさんに丸投げしよう。


「シャル、レスリー、ちょっと王宮まで行ってくる」


 ギンを連れてすぐに転移を発動する。


「せっかく美味しいお茶を入れたのに……」

「レスリー、ハルトがこんな時に大人しくしているはずが無いよ。ボク達だけでもゆっくりしていようよ」

「はぁ……」


―――――――――――――――――――――


 転移を発動した先はレックスさんの執務室。もう何度も訪れている場所だ。


 いつもと違うのは部屋の主であるレックスさんがいない事だ。


「あれ? 居ないぞ?」

「小僧、ここはどこだ? いきなり転移なんか使いやがって。やるならやるで一言くらい言えよ」

「あ、転移しますね」

「やってから言うんじゃねぇ!」


 だけどいつもならこの時間には部屋に居るはずなのに一体どこでサボっているんだろう?


 探しに行くべきか、それともここで待っているべきなのか? 少しの間迷っていると部屋の扉がガチャリと開く。


 部屋へ入って来た人物は僕の顔を見て盛大なため息を漏らした。


「人の顔をみてそんな態度を取るなんて失礼ですよ?」

「人の部屋に勝手に入っているのは失礼には当たらんのか?」


 うーん? それは考えた事無かったな。まぁ、レックスさんの部屋だし、どうでも良いか。


「お前の考えている事は分かる。それでも少しは遠慮くらいしろよ」

「えっ? 相変わらずレックスさんは心が狭いなあって思っていたのがバレたんですか?」

「そんな事考えてたのかよ!」


 こんないつものやり取りを終えて本題に入る。


「レックスさん、実はこのオッサンを紹介したいんですけど……」

「だれがオッサンだ!」


 どこからどう見てもただのオッサンじゃないか。


「ハルト……今度は何をやらかしてきたんだ? 俺はお前の尻拭いなんてもうしたくないぞ?」

「僕は何もしてませんよ。やらかしたのはジニアの皇帝ですからね?」

「はぁ……出来ることならその先は聞きたくないが、聞いておかなくてはならん様だな。話せ」


 ジニアであった事を全て話すにはかなりの時間を要した。前半の方は頷きながら聞いてくれていたレックスさんだったが、後半になるに連れて段々と苦い顔になり、最終的には椅子に体を投げ出して目頭を揉んでいた。


「何でお前はそんな厄介ごとを俺に持って来るんだ。俺に恨みでもあるのかよ?」

「話をちゃんと聞いていましたか? 僕は巻き込まれただけですよ?」

「黙れよ。全く少しは大人しくしていてくれよ……」


 むう。僕は全然悪くないもん!


「お久しぶりですな。大賢者殿」

「ギンで良い。こちらこそ面倒を掛けて済まない」

「事情は大体分かりましたが、今後はどうされるおつもりですかな?」

「こちらでお世話になっている聖女千登勢を引き取ってジニアに戻る」

「危険ではありませんか?」

「承知の上だ」

「なるほど……ジニアではどう行動しますか?」

「さてな、行き当たりばったりさ。俺がオウバイにやって欲しい事はこの事を各国へ通達して欲しいだけさ」

「それは勿論の事ですが、他には何かありませんか?」

「特に無いな。俺は俺で動くさ」

「それは無謀ですな。少し情報のすりあわせをしましょう。何か助力出来るかも知れません」

「そうか、助かる」

「ハルト、お前に出来ることはここには無い。もう帰っていいぞ」

「はいはい、後は任せましたからね?」

「お前に言われるまでもないさ。我が国にとっても一大事なんだからな」


 なんだか厄介払いをされた様な気がするけど、僕は僕でやらなくてはいけない事が山積みだ。


 一度家に帰り、みんなと相談して今後の行動を決めるとしよう。


 自宅に戻ると仕事を終えたみんなが帰宅していた。


 やっぱりこれだけの人数が居ると賑やかで良いね。


「やぁ、みんな。ただいま」


 僕もその輪に加わろうと声を掛けると楽しげだった会話がピタリとやんだ。


 誰一人声を発しようとせずに静まり返っている。


 あれ? 僕、何かしたかな?


「ハルト、こっちへ来て」


 レヴィのいつもとは違う固い声で呼びかけて来る。


「レヴィ? どうしたのさ?」

「いいからこっちへ来て」


 あまり行きたくは無い雰囲気だが、断るとなんだかマズイ気がするので仕方なくレヴィに近づく。


 パン!


 レヴィの目の前に立つと遠慮の無い平手が僕の頬を打つ。


 ジンジンとした痛みが僕に戸惑いを覚えさせる。


「レヴィ、痛いよ……」

「叩いたんだから当たり前でしょ! ハルトは一体何を考えているのよ!」


 うん、これは怒っているね。


「いくらシャルとレスリーを助ける為でも、自分から怪我をしに行くなんて馬鹿のする事よ。他に方法はいくらでもあったでしょう?」

「いや、あの時は他に何も思いつかなくて……」

「言い訳しないの!」

「アッハイ」


 怒っているのかと思っていたが、今のレヴィは目に涙を溜めながらそれを堪えている。


「お願いだからもっと自分を大事にしてよ……」


 そう言いながら、そっと僕に抱きついて来るレヴィ。


 ああ、そうか。僕はレヴィに心配を掛けてしまっていたんだな。


 僕の腕の中でしゃくり上げて泣いているレヴィの頭を優しく撫でて慰める。


 その後、十分程レヴィは泣き続けてから、体を離して僕に指を突きつけて言い放った。


「いーい? これからはハルト一人では何もさせないからね?」

「え?」

「今後は絶対に私と一緒に行動してもらうわ!」

「あのー? レヴィさん?」

「何よ?」

「僕は小さい子じゃ無いんだけど……」

「子供の方がちゃんと聞き分けるだけマシよ! いつもいつも大怪我をして! 私が監視してないと今度は本当に命を落とすかも知れないでしょ!」


 むう。そんなつもりは無いんだけどなぁ。


「春人、もう諦めなさい」

「風香……」

「春人はさ、昔からどんな大怪我をしてもすぐに治っていたけど、こっちに来てからはそんな事は無くなった」


 うん? 確かにそうだな。右腕に至っては未だに生えてこないしなぁ。


「向こうではお医者さんに実験材料にされそうになった事もあったのに、今は怪我の治り方が違う。その事をちゃんと認識しなさいよ」


 ああー、そんな事もあったねぇ。確か風香に崖から突き落とされた時の大怪我が一日で治ってしまった物だから、頼むから全身くまなく調べさせて欲しいと土下座をして頼まれたんだっけ?


 師匠が大人の力で黙らせていたけど……


「春人は今は普通の人と変わらないの。だからもっと気をつけて行動して」


 むむむ、確かに怪我くらい、どうでもいいと思っていたのは認める。


 だけど、それで心配を掛けるのは良くないよね。


「分かったよ。これからはなるべく怪我をしない様にするよ」

「なるべくじゃ無いの、絶対よ!」

「はーい……」


 そんなこんなで僕にとっては難しい約束をさせられてしまった。


 肉を切らせて骨を絶たれてから、倍返しが僕の闘い方だったからなぁ。


 少し考えて闘わないといけないね。

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