第98話 春人の決意
「みんな集まって!」
オウバイでの新たな拠点として、レックスさんからの紹介して貰った不動産屋にお勧めされた一軒家を無事に購入して、生活を始めて半月程の事。
ある問題が発生した為、全員に招集を掛けた。
「何だよハルト」
「いつになく真剣ね?」
「どうせまた下らないことでしょ? 勿体ぶって無いで早く言いなさいよ!」
今現在のパーティーメンバーは僕とレヴィ、風香、シャル、ミシェルの四人の僕の婚約者に、エドさんとレスリーを加えて、計七人。
一階のリビングに全員を朝から集めた。
「それでは、オウバイ初の会議、第一回、お金が無くなりそうなのでみんなでなんとかしようぜ会議ー!」
「ワーワーワー、ドンドン、パフパフ!」
声を張ってそう言ってみたが、風香以外のメンバーは全員僕達二人を呆れた顔で見ているだけだった。
「もー、みんなノリが悪いよ?」
「そうよ! 私達だけじゃ恥ずかしいじゃない!」
「お前らのそのノリが分かんねぇんだよ!」
むう、つまらん。
「それよりハルト、不穏な事言ってなかった?」
「ええ、確かに、お金が無いとかなんとか……」
「はい、それでは会議を始めます。議題は今後の生活費の事についてです」
「ハイ! 質問!」
風香が勢いよく手を挙げる。
「ハイ、風香!」
「お金は今、いくら残ってるの?」
「残金は金貨百枚です」
「何だよ、結構あるじゃねぇか」
「それだけあれば半年は安泰ですよね?」
ふん、甘い考えだな。
「ちなみに、僕達の生活費は一ヶ月で約八十枚の金貨が消費されています」
「何で!?」
「皆さんが毎日食べている食事、凄く美味しいと思いませんか?」
「ああ、ハルトが用意してくれるてる奴だろ?」
「私、王宮でもあそこまで美味しい物は食べて無かったから少し食べ過ぎてしまいます」
「ふふん、そうだろ? あの食事の食材は高級食材を大量に使用しているからね。大体生活費の八割程使っている。珍しい物を使えるから料理が楽しくってさ」
「ド阿呆! 使い過ぎだわ! 少しは節約しろや!」
「嫌です! 食事は大切なんだから切り詰める気はこれっぽっちもありません! 却下!」
「ハルトの謎のこだわりがまた出たわ……」
美味しい物をたべる。至福の時だ。
「なので、僕達はお金を稼がないといけません」
「それで?」
「まずはどの位、稼げているのかを発表します。現在僕達は四組に別れて活動しています。まずはエドさんとレスリーは……シャル、これを読み上げて」
「おっけー、収入は銀貨五十枚。活動資金で二十枚を使用しているから、プラスで銀貨三十枚ねー」
「ぺっ、少ないんだよ!」
「煩いわ! 俺たちはこれでも稼いでいる方だ!」
エドさんの猛抗議は華麗にスルーする。
「次、風香とシャル!」
「はーい、収入は金貨十枚でーす」
「うん、優秀だね!」
「そうでしょー? 活動資金は金貨十枚だから、総合してゼロ!」
「おい?」
「何ですか? エドさん」
「何の意味も無いじゃないか」
「今は収支を確認しているんです。それは後にしましょう」
「お、おう……」
「次はレヴィとミシェル」
「はーい、収入は金貨二枚、活動資金で銀貨三十枚、合計で、金貨一枚と銀貨七十枚でーす」
「うん、ミシェルがほぼ初心者な事を考慮しても、とても優秀だね。流石レヴィ」
「あはは、それほどでも……」
照れているレヴィ。獣耳がピコピコして可愛い。
「最終的な収入は合計で金貨二枚ですね」
「おい、待てや」
「何なんですエドさん? さっきから……」
「お前は?」
「はい?」
「お前はいくら稼いだんだ?」
「あー、それ気になっちゃいます?」
「当たり前だ」
「仕方ないですね……シャル、お願い」
「はーい、ハルトは収入ゼロ、活動資金で金貨五百枚でマイナス五百枚でーす」
「全部テメェのせいじゃねぇか! 何してくれてんだよ、ド阿呆!」
うむ、今月は使い過ぎた。
反省はしていない!
「朝市に行ったら欲しい物が沢山あって、つい……」
「つい……じゃねぇよ! どうするんだよ!」
「一応、次のオークションに何品か出品しているので、そこまで持たせれば何とかなります」
「そのオークションはいつなんだ?」
「二ヶ月後だそうです」
全員から深いため息がもれる。
「八方塞がりね……」
「ハルトが使い過ぎたんだから何とかするのはハルトよね?」
「僕達はパーティーなんだよ? だからみんなで力を合わせて……」
「俺は知らん!」
「私も今回はちょっと……」
エドさん? レスリー?
「私、仕事行ってくる。少しでも稼いでおかないと」
「レヴィさん、お供します」
ああー、レヴィとミシェルまで……
残りは……
「ハルト、ガンバっ!」
「せいぜい稼いで来る事ね! じゃあね」
むう、なんか思ってたのと違う。
みんなが、それは大変だね。一緒に頑張ろう! とか言ってくれると思っていたのに……
一人残された家で少しだけ落ち込んだ。こんな時は家の掃除だ! 体を動かしていれば落ち込んだ気分も晴れて来るだろう。
黙々と掃除を行い、全員の洗濯も終えて、昼に帰ってくる人がいるかも知れないので、簡単な昼食の準備を終わらせて、一息ついた所でエドさんとレスリーが一旦家に戻ってき来た。
「ハルト、まだ居たのか。昼飯は?」
「あっ、これです」
「何だよ、おにぎりかよ! こんな事なら外で食べてくれば良かったぜ」
「ほんとですよね。まぁ、頂きますけど……」
二人は文句を言いながら、おにぎりを二つづつ持って家を出て行った。
うーん? 僕、何か悪い事したかな?
二階の自分の部屋へと戻り、家具も何も無い部屋の片隅に置いてある毛布の上に座り込み、しばしの間、思考する。
使ったお金は、家の購入費とトイレや風呂の水回りの為の魔石代金で合計、金貨三百五十枚に加えて、ミシェルの新しい装備に九十枚とみんなの部屋に置く家具が四十枚、残りが備蓄用の食材費で二十枚なんだけど、普通だよな?
解せぬ。
確かに今月は使い過ぎた感はあるけど、必要経費だしなぁ。
もしかしてあれか? 僕の稼ぎがゼロだったのがいけなかったのかな?
うん、きっとそうだな! よし、それなら稼ぎに行ってくるか!
毛布の側に残金の金貨百枚を置いて、置き手紙を残し、颯爽と家を出る。
さてさて、どうやって稼ごうかな?
―――――――――――――――――――――
夕方になり、全員が家へと帰ってくると、ひと騒ぎ起きていた。
「ちょっとー、お風呂沸いて無いんだけど?」
「晩飯の準備すら出来ていないぜ?」
「部屋の掃除と洗濯だけは終わってるけどさー」
普段なら家に帰り次第、熱いお風呂が沸かされていて、冷たい飲み物を飲みながら夕食が出て来るのを待っているのだが、ハルトが不在の為、全員から不満の声が上がっている。
「二階の部屋か?」
「何をしてるんだか……」
階段を荒々しく登るエド、風香、シャルの三人。
それに続いて階段へ向かうレヴィに恐る恐る話しかけたのはミシェルだった。
「あの……レヴィさん。お聞きしたいことが……」
春人の部屋の扉を開けた三人は文句を言う事も忘れ呆然と立ち尽くしていた。
「何も無いぜ?」
「あっ、あそこは?」
「毛布が……一枚と紙切れ?」
「おい、金貨があるぞ?」
全く訳が分からず、その紙と金貨を持って一階へと降りる。
リビングでは苦い顔をしたレヴィとレスリー。そして、キョトンとした顔のミシェルが座っていた。
「どこにも居なかったよー」
「これが部屋に置いてあったわ」
「サボりか? 何考えてんだか……」
「みんな、ミシェルの話を聞いて欲しいの……」
声にならない程の小さなレヴィの発言に何かを察したのか、皆が押し黙る。
「あの、私、今日ハンターギルドで待ち時間に、優しいおじ様達にお話を聞いていたんです」
エドは軽く頷き、先を促している。
「パーティーの話だったんですけど……皆さんは依頼をこなして得た金額の二割から五割をリーダーに預けてパーティーの資金を確保しているみたいなんですけど……」
「ああ、普通はそうするな」
「ですから、今月お仕事をして得た金額の内、いくらハルト様にお渡ししたら良いでしょうか? 内訳をお聞きしていないので、分からないのです」
ミシェル以外のメンバーはその言葉を聞いても身動きすらしなかった。そんな中、最初に発言したのはレヴィである。
「エド……」
「何だ、お嬢?」
「ハルトにお金を渡した事はある?」
「いや? 一度もねぇな……」
「フウカとシャルは?」
「無いわよ?」
「ボクも……無いかなー?」
「レスリーは?」
「ありません」
首を左右に振り、ため息を吐くレヴィ。
「そう言うレヴィはどうなの?」
「私もみんなと同じよ」
「それじゃあ……」
「私達は全てをハルトに頼って生活していた。金銭面は勿論、食事も掃除も洗濯も何もかも全て!」
レヴィが大声を張り上げ、椅子に座り込む。
「ハルトが何も言わないから、考えすらしなかったけど、ギルドでの面倒な手続きとかも私はやった事がないの」
「それなのに、俺たちはハルトに文句を言っていたのか……」
「当たり前だと思っていたけど、家事を手伝う事すらしなかったもんね」
「ハルトの部屋なんだけどよ、何も無いんだ。あったのは毛布が一枚とこれだけだった」
「引っ越しをした後みたいだったけど、あれは多分、最初から無かったのよね」
「何でなのかしら?」
「お金を節約していた?」
「私達、色々買って貰ったよ?」
「うん……」
ここで、レヴィが机の上の紙に気づいた。
「その紙は何?」
「ハルトの部屋に金貨と一緒に置いてあった」
レヴィがゆっくりとその紙を開くと、そこには短い文が書いてあった。
お金を稼ぎに行って来ます ハルト
PS 金貨百枚で足りるよね? よろー
「何でアイツは何も言わないんだ!」
エドが思わず、といった感じで机を殴りつける。
「春人はね、昔からそうなの。圧倒的に言葉が足りないのよ」
「ねぇ、ハルト、帰って来るかな? まさかこのまま居なくなったらとかは……」
「それは無い……とは…思うけど……」
「探しましょう!」
レスリーが立ち上がりながら大声を上げた。
「まだ、そう遠くへは行って無いはずです!」
「探すって言っても、どうするの?」
「もうすぐ門番の交代の時間になるはずです。その前に四つの門へ行って、ハルトさんが街の外に出ていないか確認しましょう! 手分けすればまだ間に合いますから!」
「分かった、みんな行くわよ!」
全員が東西南北、それぞれの門へ走りだす。門番が交代するのは日没。それまでに何とか間に合えば良いが……
空はすっかり暗くなり、夜の帳が下りた頃、拠点としている一軒家へ最後の一人が帰って来た。
「ただいま」
「レヴィ、どうだった? こっちは全部空振りよ」
レヴィは無言のまま椅子に座り、コップに注がれている生温い水を一口飲んだ。
こんな時にハルトがいたら……氷の入った冷たい水を出してくれるだろう。
「レヴィ?」
自然とあふれた涙を見て、シャルが心配そうな顔で側に寄り添う。
「ハルトの行方は大体分かったわ。南門の門番が話してくれたの」
「なんて言ってたの?」
「今日のお昼頃、黒一色のまともな装備すら持っていない新米ハンターが外に出ようとしたので、おいおい、そんな装備で大丈夫なのかって聞いたらしいの」
「そうしたら?」
「えらくキリッとした顔で一言、大丈夫だ、問題無い。そう言って門を潜って行ったらしいわ」
「ハルトね。間違い無いわ」
「南か……」
「すぐに出発する!」
旅の準備を始めるレヴィを皆で宥める。
「こんな時間に外に出るなんて自殺行為だから!」
「出発は明日の朝にしよう?」
「ダメ! だってハルトが……」
「落ち着いてよ!」
「お嬢、気がはやるのは分かるが、今はダメだ」
「でも……」
「ハルトなら一人でも危険は無い。アイツはデタラメな強さだからな。だが、俺達は違う。危険過ぎる」
「ハルト……ごめんなさい……」
レヴィの呟くようなかすれた声での謝罪は全員の心を打った。
皆、食事も取らずにその日の夜を過ごし、それぞれの部屋へ戻って行く。
明日の出発に向けて……
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