第2話 何処だよここは?
なんだか身体が痛い。
筋肉痛とは違う、身体がバラバラになったような鈍い痛み。
何故、こんなに痛いのか?
確か風香が泣いていたような。また何かをやらかして僕に謝っていたんだっけ?
昔、風香のテンションが上がりすぎて、僕を崖からつき飛ばして以来の大号泣だったなぁ。
あの後、僕は大怪我を負い入院を余儀なくされた。それでも僕は風香を恨んだりしなかった。
理由? 判るだろ。僕は風香が好きだった。
見た目は勿論だが、あの天真爛漫な性格も、僕に向けてくる屈託のない笑顔も全て好きなんだ。小さな頃からずっと側にいて、馬鹿な事やって一緒に怒られていた。
まぁ、僕が悪かった事なんて一回も無かったんだけどな……
それでも僕は風香を嫌いになれなかった。まるで魂に刷り込まれたような感じと言えばわかるだろうか?
しばらく取り止めも無い事を考えていると、意識が段々とはっきりして来る。
「ここは一体どこなんだ?」
辺りを見回すと、どこかの部屋の中みたいだ。壁は岩肌が剥き出しになっている。
「洞窟か? だけど何でこんな所にいるんだ?」
木で作られている粗末な椅子と机、さらに本棚。ぼんやりと光る岩肌のお陰か室内はよく見える。
「こうしていても仕方ない、何とかしないとな」
僕は立ち上がり、まず最初に机に向かう。広さは約十畳くらいだろうか、そんなに広い部屋では無い。
机の上に一冊の本を見つけた。いつも見ている様な製本されている物ではなく紙を雑に止めただけの本と呼ぶ様なものでは無かったが。
表紙には何も書いておらず、めくってみるとただ一言だけ。
ようこそ新しい世界へ!
そう書いてあった。
「新しい世界……ねぇ」
その本は、今いるこの世界に僕と同じようにやって来た日本人が書いた物らしい。
内容はと言うと。
この本は、君のような新たな世界の迷い人の為に書いた物である。
この世界は恐らくだが、君がいた世界とは全く違う異質な場所である。
現在君がこの本を読んでいる場所は、この世界の特異点であり、他の世界から迷い人がやって来る確率が高い場所だ。
特異点はそこの他に幾つかあるが、今はその事については言及しない。
興味があるならば、自分自身の力でそこを探し出す事も良いだろう。しかし、まずは自分を守る力を身につける事が先決だ。
魔物を見た事はあるだろうか? 妖獣は? 人よりも大きな力を持った生物がここでは頻繁に人を襲う。
そして、人間はとても簡単に生命を落とす。何らかの戦う術か、身を隠し逃げ延びるだけの力が必要だろう。
今現在持っていないなら、身につけるといい。その為に必要な物をその部屋の中に置いておいた。これは同じく、違う世界から来た先輩としての大サービスとして遠慮無く受け取って欲しい。
そしてこの世界を是非に楽しんで欲しい。ここはとても刺激的な世界である。
君はもう元の世界での生活を送る事は出来ないだろう。帰る事が出来ないのだ!
私も色々な方法を考えてみた。様々な場所に赴き、大勢の人から話を聞いた。その上で帰る方法は存在しないと結論付けた。
元の世界に会いたい人物もいるだろうが、諦める方が賢明だと思う。それでも探したいと言うなら私は止めようとは思わない。それもまた君の人生なのだから。
それでは君の異世界生活が実りあらんことを祈る。
村川 盆三郎
「まいったねこれは、異世界ねぇ。風香の考えは間違ってはいなかったって事だな。ここが本当に異世界ならだけどな」
この本を書いた村川さんの書いた通りならこの部屋に置いてあるものは自由に使って良いと言う事なんだろう。
どんなものがあるか早速物色してみる。
「うーん、なんか大した物は無さそうだけどな?」
部屋にあった物と言えば、動物の皮で出来たリュックのような物やウエストポーチみたいな身につける物と本棚の数冊の本に、丸くて薄い光を放つ水晶の様な珠くらいだ。
「うん、何だ?」
リュックを取り上げてみると一枚の紙がひらひらと地面に落ちた。拾い上げてみるとどうやらリュックの使い方のようだ。
このリュックには魔法が掛けてあり、本来よりも多くの物をいれておけるものである。
現在は使用者登録されていないので使用する場合は魔法陣に血を一滴垂らすだけで登録でき他人に使用出来なくする事が出来る。ポーチの方も同じ使い方だ。上手く使ってくれたまえ。
「魔法のカバンってやつか……やってみるか」
書いてある通りにリュックとポーチにある魔法陣に血を垂らしてみると一瞬だが青く光り、すぐにその光は消える。
「これでいいのか? 良く分かんないな」
試しに何かを入れてみようと思い、絶対に入る訳がない部屋にあった机をいれてみると、
「入っちゃうのかよ……」
机に触れながら 入れ と念じただけで机が消えていた。逆に取り出す事も念じただけで簡単に出来た。
「魔法って凄いなぁ」
リュックの中には幾つかの物が入っていたようで中に何か入っているのか? と考えただけで頭の中にリストが浮かび上がって来る。
携帯食料、水、革製の防具、後は数十枚の金貨や銀貨が入っている様だ。
「これってこっちの通貨なんだろうな。価値が全く判らないけどなぁ」
「さてと、この珠なんだけど」
手に取ってみると意外と重たい、珠があった側にはやはりメモがおいてある。
この珠はスキルオーブと呼ばれ、様々な効果を自分の物にする事が出来る。使用方法は珠を額に当てるだけ、それだけでスキルを取得出来るだろう。
オーブを持つとそのオーブに内包されたスキルの情報を読み取れる、有効に使ってくれたまえ。
「ふむふむ、どんな力があるのやら」
机の上にあるオーブはたった一つ、スキルを確認してみると、ラーニングという物だった。
「えーと、なになに? その身に受けた物を自分の力とする事ができる?」
つまり一度攻撃を受けないといけない?
「あー結構ハズレなのかな? こういう時はせめて攻撃スキルとか、魔法とかじゃ無いの?」
だけど他に選択肢は無い。オーブを額に当てる。
「別段変わった感じはしないけどこれで大丈夫なのかな?」
なにせ確認する術はなくスキルを持っているかどうかも判らない、僕は生きて行けるんだろうか?
本棚から一冊本を取り出す。中身は魔法についての解説だった。
この世界には魔法が存在する。使用する条件は三つあり、スキルを取得する方法と詠唱を行い陣を構築する方法、それとスクロールを使う方法。
スキルを取得すると取得した属性の魔法を使用可能になり本人が想像できうる殆ど全ての現象を具現化出来る。
但しスキルオーブはかなりの高額で購入するには多額のお金が必要になる。
詠唱の場合、呪文を覚えて陣を構築する事が出来れば使用可能だが文字を理解するまでの難易度が高く何年もの修行が必要だ。
スクロールは難易度が低くスクロール、巻物を手に持ち魔法名を発言すると発動するが、スクロールは低難易度の物しか作れない。
「うーん、なかなか難しいね。スクロールなら僕でも使えるかな?」
残りの本棚にあったのはスクロールで、着火、流水、さらに清潔の三種類。全部リュックにいれておく。
部屋にはもう何も無い。いつまでもここに篭っていても仕方ないので行動する事にして部屋の隅にある上へと続く階段を登ってみる。
「なんか、この階段昇り切る自信無いんだけど……」
薄く光る壁のお陰で足を踏み外す心配は無いのだけれど、果てしなく続く階段しか見えず気分がげんなりしてきた。
休み休み登っていると足がガクガクしてきた。もう無理だと思い始めたその時やけに明るい光が見えた。
「やっと、着いた」
どの位の時間登っていたのか考える余裕も無く最後の一段を登り、その場に倒れ伏す。
「階段‥…嫌い…….」
外に出る前に息が整うまで暫し休憩していたらうっかり寝てしまっていた。
目を覚まして身体をほぐすとそこかしこがバキバキと音を立てているように痛む。
寝てしまう前には気付かなかったが、一枚の扉があり、その横に立て札がたっていた。
長い階段だっただろう? これを登りきる体力があるならば何とか生きて行く事は出来るはずだ。
このまま真っ直ぐに進むとやがて街に着くだろう。ここから先は君は自由に行動するといい。私が出来る事はここまでだ。
まだ、私が生きていたら何処かで会う事があるかも知れない。では楽しんでくれたまえ。
村川 盆三郎
ここからどんな世界が待っているのか?
少しだけドキドキしてきた自分を感じる。
全て自分の自由なら、行動の指針になるものを考えておかないといけないな。
1ここが何処なのかの把握
2食べ物と飲み物の取得
3寝る場所の確保
4自分の身の安全の確保
5元の世界へ帰る方法を探す
とまあこんな所かな? 1から4まではどこかの街までたどり着けば何とかなるだろう。食料と水はリュックの中の物を使えば街までは持つかな? 問題は5番目の帰還方法だな。
村川さん曰く帰る方法は無いらしいけど僕は諦めたくはないな。
どれだけ掛かっても構わない!
最大の目標として設定しておくか。
「それじゃあいってみるか!」
恐らく外へと繋がるであろう扉に手をかけて勢いよく開けてみると、まず目に入ってきたのは木の幹、足元は足首位の高さの草、どうやら森の中みたいだ。
振り返って見ると普段はお目にかかる事の無い日本であったら御神木と呼ばれる位の大樹。
「あれ? 扉は?」
後ろを振り向いてみると、僕が出てきた扉が無くなっている。
「僕はどこから出てきたんだ? この木の中か? でも扉も無いし、そもそも木に扉があるはずなんて無いし」
ただ一つ判る事は、先程の部屋に戻る事が出来ないというだけだ。
「えーと? なんだっけ? このまま真っ直ぐ進めば街があるらしいけど、この森の中を進むのか?」
足元を警戒してゆっくりと歩き始める。
鳥や虫の鳴き声以外、音も無く、とても静かな時間が過ぎていく。
一時間程歩いたころ森が切れる。そこには広大な平原が見渡す限り続く。
「うん、ここは日本ではないね。それだけは間違いない」
平原には赤い色の道が遠くまで続いている。その道を大勢の人や馬車がのんびりと進んでいる。
道までたどり着き、何となく皆が行く方向へ歩いていくと頭上から話しかけられた。
「やぁ、坊やどこまでいくんだい?」
「えーと、この先の街まで?」
「ほうほう、それならスターチスまでかい。どこから来たんだい?」
なんかフレンドリーな爺さんだな。なんて答えたものだろう?
返答に困っていると周りにいる、腰に剣を携えている護衛の人にまで話しかけられてしまう。
「坊主。まさかお前さん、迷い人じゃないよな?」
「あー、まぁ多分そうです」
迷い人は結構な数いるのかな?
「ほぅ、本物に会うのは初めてだな」
「でも、なんで分かったんですか?」
「その格好でな、いくらこの季節でも武器も防具も無しだからな、まさかと思った訳さ」
ふむ、勢いで出てきたけどやはり危険があるのか。武器をなんとか調達するべきだな。
「しかしこんな場所で会うとはついてるな」
「ついてる?」
「ああ、迷い人を連れて国に報告すると報奨金が貰えるって事よ」
「それは国が迷い人を集めているって事?」
横から別の護衛さんが話しかけて来る。
「そういう事よ。迷い人は優秀な人材が多いみたいだからさ。ねぇそれよりもさぁ、お姉さんの物にならない?養ってあげるわよ?」
見た感じは二十代の鍛えられた身体のスラッとした人で顔は、まぁ、うん、僕の好みではないかな? なので丁重にお断りしておいた。
「はははジョイス。お前じゃ嫌だとよ」
「何よぉ、失礼ねっ!」
こんな風に馬鹿な話をしている間に何事もなく街まで近づいて行き、遠くの方に巨大な壁がうっすらと見えてきた。
異世界にきたら魔物に襲われたり野盗に襲われたりするもんだと思っていたが、ここまで何も無いと逆に不安になるなぁ。
その事を護衛さんに聞いてみる。
「ああ、そうか迷い人だから知らないんだな、今はな凪の月なんだよ。だから魔物はほとんど居ないんだ」
「なぎのつき、ですか?」
なぎ、凪か。魔物が出ない月?
「そう、それももうすぐ終わりだ。また元に戻るだろうな」
そうこうしている間に巨大な壁があるスターチスに到着したようで、護衛さん達はその街の兵士に話しかけた後、僕に手招きしている。
「ふむ、君が迷い人ね……」
何となく視線に悪意を感じるな。
「まぁ、審査だけはしてやろう。ついて来い」
そこで護衛さんとはお別れの様だ、連れてきてくれたお礼だけ言って、その場で別れた。
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