第44話 イェイカニバルバズる♪(なんでトレンド入りするんですか?)

 「いや怖すぎるでしょおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーー⁉⁉⁉」


 翌日の朝、私は自分がやった配信ことに絶叫した。

 おかえり、正気。グッバイ、狂気。


 でも妹は、いや世界は未だ狂気に憑りつかれたままだった。


「ひぃゃっほぉおおおう‼ トレンド入りいただきましたぁぁああああ‼」


 SNSのトレンドに『宵月レヴィア』の名前があって、そのすぐ下には『リスナー 食べる』の文字もランクインしてる。


 ナンデェ?


「おねーちゃん! なに辛気臭い顔してんの、喜びなよぉ‼⁉ ユッケ食べただけで経済ちょっと動かしたんだよ⁉」

「喜べるかぁああーーっ‼⁉」


 そう、ロープや包丁と同じく伽夜ちゃんが用意したのは、生の牛肉。

 私はそれを切って食べただけ。(生なのに甘くて美味しかった)。


 言うなれば、生肉咀嚼ASMR。


 うん。

 冷静に考えたら、収益化記念配信でやることじゃない。


 そして、うん。――――スパチャの金額がすんごいことになってる。

 どれだけすごいかと言うと、怖くて見れないくらいにすごい額になっている。


「たまらないわねアハハハハハーーーー‼ ヤンデレ路線は大成功よーーーーー‼」

「ヤンデレで済むレベルじゃないよねぇ⁉」

「つぶやきの数もすごいよ! 見てよこれほら!」


 伽夜ちゃんがSNSに投稿された、レヴィア関連のつぶやきを見せてくれた。


『もう無理死にたいて思ってたけど、この配信見て変わった。ねぇ、ぼく美味しい?』

『死んだらもうこの娘に会えないんだなぁ……食べてもらえないんだなぁ』

『どうせ死ぬなら、堕天使様の空腹を満たしてあげたいと思った』


 ぐわぁあああああああーーーーーー‼ 

 頭が……頭がおかしくなるぅっ‼ 


 私は頭を抱えて、悶え苦しむ。

 分かんない、もうこの世界が分かんない……。


 とにもかくにも、もう世間で【宵月レヴィア】はリスナーを殺して食べた初めてのVtuberとして認知されてた。


「なんで……どうしてこうなるの……こうなったの?」

「お姉ちゃん! 嬉しいのは分かるけどボーっとしないの! 遅刻しちゃうよ?」


 そっかぁ伽夜ちゃんには、私が嬉しそうに見えるのかぁ。

 私は幽霊みたいに頼りない足取りで、月曜日の学校へと登校した。


「すごいよ、大手大御所のVtuberからコラボのお誘いどんどん来てるよ。あっ、焼き肉店の公式アカウントからフォローされた」

「そうなんだぁ」


「ぅわわわわまだ登録者数伸びてる。ていうかヘブンズライブの所属Vtuber全員が増えてる。ぇ、これ大手の仲間入りできるよ? ユッケ食べただけでヘブンズライブ大手になってくよ?」

「そう……なんだぁ」


「すごいすごーい! カルト、カルト的人気! 堕天使だし間違っちゃいないよね! あっ、今度タランチュラ食べませんかって大手Vtuberからお誘い来たよ⁉」

「ぃやーーーーーーっ!!!!」


 紗夜スは走った。

 必ず、かの狂瀾怒濤のV魔界ぎょうかいから逃げなければならぬと決意した。


 教室に着いた頃にはへとへとになっていた。


「ひゅ、ひゅかれた……!」


 でも学校なら私はただの【姫宮紗夜】だ。朝のバズり騒動から離れたかった。いったん【宵月レヴィア】から思考を切り替えたい。


「すぅーー……はぁー……」


 深呼吸して、乱れた息を整える。心を落ち着かせる。

 そうよ、紗夜。また自惚れかけたんじゃない? 

 こんなことは前にもあったじゃない。だいじょうぶだいじょうぶ。


【姫宮紗夜】も【宵月レヴィア】も、教室ここでは興味なんて持たれてないよ。

 私は胸を撫で下ろしながら、教室の戸をサラッと開けた。


「ねぇ、朝のトレンド見た? ヤバくない?」  

「見たみた~、リスナー喰い堕天使。こわ~~」

「でも声とか喋り方かわいー♡」

「Vtuber初めてだけどさ……もうさ……パネェ」

「な~パネかったなぁ。なんかぞくぞくしたわ」


 クラスのトレンドに、堕天使が降臨していた。


 ……気づかれないように自分の席に座る。 

 そうしてゆっくり息を吐いて落ちつオチッ、オチツッ! オチツイテ…………っ‼


「あれ? てかさー。この声……姫宮さんっぽくない?」


 どこからともなく飛んできたその言葉に、ビクッと肩が跳ねる。

「え?」「あれ」「あっ」「たしかに」。ざわざわと、空気がざわざわと。


 ――――じっ、と視線が全方向から照射された。


「ひぅ」

 涙出てきた。

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