第35話  Vファミリーは温かいなぁ(下種ネコは帰れ!)

 喉乾いてきた。

 おしゃぶりをちゅぽんと外してから、私はうつむき、長く息を吐いた。


「……おちゃちゃ」


 哺乳瓶に入ったお茶を吸う。ちゅうちゅうという音が配信に乗りまくる。

 ぷはっと口を離した途端、率直な感想が垂れる。


「効く……ッ」


[ コメント ]

・……飲酒配し

・やめろそこまでだ

・貫禄がすごいンヨww

・ぼ、ボスぅ⁉


「ふぅ……はむ」


 ごく自然にため息を挟んでからおしゃぶりを吸う。あぁ……口の中にジャストフィッツこのハマり感に夢中脳髄。


 さて、テッペン獲りますかぁ……。今、ゲーム画面では、私の前でぴょこぴょこ煽ってくるプレイヤーがいるけれど、妾が心はおしゃぶりにて不動。


 さぁ、いざ行かん。

 ビバリベンジ第三ステー…………。


『ガンギマリ後輩、そこまでだ』

「んむぐぅっ⁉」


 突然イヤホンから聞こえた声に、喉詰まりそうになった!

 見たら、ディスコのボイスチャンネルに――――リエル先輩が入ってきていた。


「り、りえふしぇんぱ」

『おしゃぶり付けながら話すなよもぉおおーーー‼』

「しゅ、しゅみませ」

 

 んちゅっ、ぽぉんッ‼‼ ――――――と。

 

 おしゃぶりを外した瞬間、これでもかってくらい、めちゃめちゃ良い音が鳴った。

『ぶっ』とリエル先輩が噴き出して……私の頬はカァァァッと熱くなった!


[ コメント ]

・んちゅっぽぉん!

・ポンポン、スポポン!

・エコー掛かってて草ww

・あ~~~~おしゃぶりの音ぉおン!


「ごめっ……ごめんなさっ! き、汚い音出して……くっ、ぁ・あ・ぁ・あああ!」


 恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい‼

 リエル先輩のゲラ笑いが余計、恥ずかしさを掻き立てる。


「そっ、そんな笑わないでくださいよぉ! ぅうううやだぁぁあぁもういやぁぁぁぁ」

『あれ? レヴィアちゃん? おかしいなぁ、まだ2歳の筈なのになぁ? そんな喋るのおかしくない?』


「わぁむぅうううううう」

『よぉーし! これでもう襲われないぞ! 安全確保ぉ!』


 リエル先輩、それは警戒し過ぎではないでしょうか⁉

 アイアムベビーナウ。

 

[ コメント ]

・安全確認www

・この天使メイド、ビビりすぎだろww

・ASMRの爪痕は深い……


 私は2歳児らしく、自分が残した爪痕の前で、さめざめと泣いて詫びる。

「ごめっ、なざぁいぃ~~~ぅええええええええ」

『へっ⁉ あ……すぅーーーーー』 


[ コメント ]

・泣かした

・いーけないんだいけないんだ

・ガチ動揺からの呼吸音

・良い子だなぁ(ほっこり)


『ちょっ、……が、ガチ泣き? ガチ泣きなの? やっ、やめそんな声出さないで⁉ 僕が泣かせたみたいじゃぁん⁉』

「だっこぉ~~~! だぁっこぉ~~! よしよししてぇぇぇええ!」


 もう、限界なんだよぉ!

 赤ちゃんだから言語封印されて、間も持たなくて、おしゃぶりで誤魔化してちゅぱちゅぱぁぁああああああん‼‼‼

 今、私の心が求めているものは……


『よっ、よーしよしよし! 良い子だねぇ~~、レヴィちゃん偉い! すごい! 僕、レヴィちゃんのこと大好きだよ~~』


 アッ。

 心が天界へ導かれる。

 天使メイドの胸元へ誘われる。


 だいすき……だいすき、かぁ。

 レヴィアがにぱぁとほっぺたを持ち上げた。


「えへっ、でへへ、えふっ、えふへへへへ」

『エッ、笑い方キモ』


「     すぅ    」


 その一言で私の心はGoto凍土地獄コキュートス

 Oh、女子にキモイはマジ禁句。

 哺乳瓶をマイクの近くに近づけて……Letsテイスティング。


「じゅぽぽぽぽぽぽっ‼」

『いやぁぁぁーーーー! 脳髄吸われるきゃあああああああ!』


 これはリエル先輩が悪い。私は悪くない。

 マッ〇シェイク吸うみたいに、頬っぺたをぺこっと凹ませた。


[ コメント ]

・うわぁーーーーー‼

・吸えとは言ってない! パパ、耳吸えとは言ってなぁぁああああ⁉

・眷属まで被害がww

・そうか、これが終末の笛ギャランホルン

・すっごい音で草

・リエ虐ナイスぅ!

・あやしてたら脳髄吸いに来る赤ちゃんって、それどこのホラー映画?


 コメント欄も配信音にも阿鼻叫喚が広がる中で、そのお方は降臨した。


『――――おやまぁ、あらあらあら。何してるのあなた達は』

  

 初めて聞く声だった。

 ふわふわした幼い声なのに、懐の深さを感じる、落ち着きのあるロリボイス。


『あっ、助けてステラちゃん‼ このままじゃ僕、レヴィアに吸われるぅっ‼』

『またリエルちゃんが失言したんでしょ~? ほら~、もうレヴィちゃんも許してあげなさ~い』


「ママーーーーーーーーー‼‼」

『はぁい、ママですよ~』


 圧倒的母性を放ちながら、【宵月レヴィア】のママ……【明星ステラ】が、配信を収めた。


[ コメント ]

・ステラママぁぁぁぁ

・おかえりママ

・ごはんはできてるよ。さきにお風呂入る?

・ステラの専業主夫

・レヴィア民は幻覚見過ぎなんだヨ


『ねぇ、レヴィアちゃんの眷属達リスナーさんにとって、ステラって何? 嫁?』

「パパとママがいるぅーー‼ うれしいっ!」

『駄目だこいつ。もう思考停止してる……』


 ティロン。


『あーたーしーがぁーー! 配信終わりにキターーーーーー‼』


【 コメント 】

・帰れ、BBA

・そのまま直帰推奨

・クレアマ〇トに用はない

・画風が違う方はおかえりください

・僕の家庭(ロリ嫁ベビー堕天使メイド天使)に割り込まないでくれます⁉


『ねぇえぇぇえ何この対応の差ぁぁあああ‼ あたしとステラで何でこんな違うのぉ⁉』

『クレア姉、相変わらずだな……歌枠お疲れさま』

『リエルぅぅうう! やっぱりあたしの味方はあんただけよぉ!』


『レヴィちゃん、今度ママと一緒にお絵描き配信する?』

「おえかきすりゅーーーー!」


 クレアお姉ちゃんに、お手伝いのリエルさん。

 幼女だけど優しいステラママ。


 あったかぃ……ヘブンズライブファミリー温かいなぁ。これまでの赤ちゃん配信でヒビ割れた私の心が満たされて――――――ティロン。


『ペット枠が足りないと思って。……如何かな?』

 サ〇エさんの音楽と共に、腰を横に振るゲス猫が凸してきた。

  

「帰れぇぇええええええーーーーーーーーーーーーー‼‼」

 キャスパーが来たことで、レヴィアちゃんは4歳になりました。

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