第20話 私はエッチらしい(配信で男の娘を襲いました)

「すみまっっせん‼︎ ほんっっっとうにすみませんでしたぁーーー‼︎‼︎」


 スタジオから事務所に戻るなり、私はスンスンとすすり泣く天海君に土下座で謝った。部屋のすみっこで天海君は肩を震わせて、「ふしゃー」と私に牙を向く。


 あぁぁぁだめだ……傷つけられた小動物みたいになってる。

 自分のしてしまったことに涙ぐんでる私の前に……宇喜多さんが前に出た。


「よーしよしよしよし、大丈夫だよ、俺は君に何もしないよ」

「ぐるるる……ぅぅ」


 唸っていた小動物が、宇喜多さんの穏やかな声音に警戒を解く。

 宇喜多さんは背中を向けて敵意が無いことを示すと、ほどなくして天海君は宇喜多さんの背中にひしっとくっついた。

 宇喜多さんは慈しむ様に目を細める。


「よしよし、怖かったんだよな。もう安心して良いからなー」


 父性溢れる雄大な背中に、母性溢れる優し気な表情を目にして、私の中からぶわりと言葉が飛び出た。


「パマァァァァァーーー‼‼」 

「だからパマって何?」


 パパみとママみの融合合体です。


 とにかく宇喜多さんに天海君のケアを任せて、私は離れることにする。

 すると、先に合谷さんと話してた伽夜ちゃんが自分の隣をぽんぽんと叩いた。

 座れ、と……分かりました。


「あ、あのそれで……配信どうなってました?」

「アーカイブは残ってるよ。BANもされてないから、多分だいじょうぶ」


 伽夜ちゃんからそう聞いて、私ははぁ~~~と緊張を吐き出した。

 よかった……よかったぁ消されなくて。

 すると合谷さんが膝を叩いて笑い出す。 


「あの程度でBANされないから大丈夫だよ~。まぁかなり攻めてたけども! YUTUBEのセンシティブ規約に迫ってたけども」

「紗夜ちゃん、さっきの配信――――どちゃシコでした」

「何で親指立ててるんですか、水瀬さん⁉」


 はぁはぁと息を荒くして「ごっちゃんです……!」と、手を合わせる水瀬さん。

ぅぅぅううう、ていうかやっぱり薄々思ってたけど……。


「あの、水瀬さんって……け……けっこうエッチな人なんですか?」


 途端、合谷さんと伽夜ちゃんが真顔でハモった。


「「 そうだよ 」」


「先輩におねショタかました紗夜ちゃん程じゃないわよぉ~~~~‼」

「あぅぅぅうううううう~~~~~~~~~~~‼」


 対面でくねくねする水瀬さんに、私はさめざめと顔を手で覆った。

 素敵な……人だったのに。


 大人のお姉さんという憧れを、伽夜ちゃんと合谷さんがバキバキ砕いていく。


「お姉ちゃん、鳴神クレアの雑談ネタはだいたいFA〇ZAとD〇site関連。

もしくは最近行ったレズ風俗のレビュー話したり」

「キャスパーとの対談コラボでは、お互いに盛り上がってなぁ……配信BANされたからもう見れないけどよ」


 あのクソ猫と同レベル……だと⁉

 人知れず戦慄していたら、その震える手を水瀬さんが一方的に握ってきた。


「紗夜ちゃん、可能性は感じてたけれど今回の配信で確信したわ――――あなたはエッチよ」


 あなたはエッチよ?????


 まったく意味が分からない断定に、私は目をぐるぐる回す。

 そんな混乱した私に構わず水瀬さんは目をピンクにして迫ってくる。


「ねぇ今度は私とコラボしましょ⁉ 最近思いついた良い企画あるのよ⁉ ち〇びに山芋塗って絆創膏しながら、ゲーム全クリ耐久するのとかどう⁉」

「いやぁああああーーーーーー‼‼」

「大丈夫だから! 全クリしたら、いっぱい掻いてあげるからぁ!」


 手から腕へ、腕から肩へ、肩から頭へ、水瀬さんの手が這い上がってくる。抵抗する暇も無く、私は水瀬さんに強くつよく抱きしめられて……


「やぁぁぁーーーーーー‼ やぁああああああーーーーーー‼」

「あっ、すごい! 制服の匂いする! 現役すごい!」


 旋毛の辺りをすぅーーーと嗅がれて、怖気が背筋シャトルランする。

 こわいこわいこわい! 何が怖いって、こんなエッチな人に可能性を見出されてるのが一番怖い!


 心配した伽夜ちゃんが私の腕を引っ張るけど、水瀬ホールドからは脱出できない。


「やめてくださいやめてください! 宵月レヴィアは清楚ティブ路線で行くんです! は、離してぇぇえーーーー‼ おねえちゃんを汚さないでぇぇええーーーー‼」


 合谷さんは小声で「レヴィアとクレアのセンシティブ配信……か」と、ブツブツ呟いてるだけだった。


 最終的に伽夜ちゃんの叫びに駆け付けた宇喜多さんが水瀬さんを引き剥がしてくれた。そうして水瀬さんを抑え込んでくれてる間に、私達姉妹は事務所から逃げた。


 事務所からの帰り道、隣を並んで歩く伽夜ちゃんに……私は聞いてみた。


「……ねぇ、伽夜ちゃん」

「なぁに、お姉ちゃん」

「――――私ってエッチなの?」

 ずっと引っかかってた。

 キャスパーに似てるって言われて、キャスパーと同等のスケベレベルの水瀬さんにも認められた。きょ、今日の配信だって……っ! 


 リエル先輩に迫った時のことを思い出して、頬が火照る。

 否定したいのにできないから、私は代わりに伽夜ちゃんに否定してほしくて…… 


「お姉ちゃんはエッチだよ」

「そっかぁ~~~~~」


 初めてのASMR配信で、私は自分の知らない一面を知った……知ってしまった。


 どうしよう――――明日、三波君にどんな顔して会えばいいんだろう?

 自分のそういう一面を知った後に、彼と普通に喋れるか、不安でしかなかった。

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