第14話 先輩達に会うんだぁ!(3分の1の確率らしいですヨ)

「ヘブンズライブが小規模な理由はね、所属タレントが少ないからなの」

「そ、そうなの……」

「そう。お姉ちゃんを入れても4人」


 校門にやってきたタクシーに乗ってから、私はずっとソワソワしてた。タクシーなんてそんな高級移動手段……ッ! 

 でも伽夜ちゃんは寧ろ乗り慣れてるOLみたいに、シートにもたれて、タブレットを操作してた。


「でも逆にそれくらいしか弱点が無いの、ヘブンズライブって。所属してるタレントは……いやお姉ちゃん以外の3人は全員、銀の盾を獲得してる」

「銀の盾って……登録者数10万以上⁉」

「そっ、正に少数精鋭。まぁ令和に通用する企業展開じゃないと思うけどねー。とにかくこれから私たちが会う人はそーいう人達ってこと」


 緊張が高まる。

 私、そんな凄い人達がいるところのオーディションに――――予防接種と勘違いして合格したの⁉


 がくんと項垂れる。申し訳なさで頭が重い……ごめんなさい。


「でも、でもさしょうがなくない? 合格通知来てすぐ初配信で翌日コラボ配信でそして今日だよ? 先輩達のこと知る機会無いよぉ」

「それは言い訳。お姉ちゃん、情弱過ぎ」

「うぇぇぇぇえん、正論~~~。ごめんなさぃぃぃいい」


 というか……今日の伽夜ちゃん、バッチバチに決まってる。


 スラッとしたレディーススーツを完全に着こなして、髪はすっきりポニーテールにまとめてる。

 そこにあるのは可愛らしさじゃなくて、凛々しさ。


 おかしいなぁ、この子中学生なんだけどなぁ。


 今の伽夜ちゃんの恰好だったら、銀行とか大企業を出入りしてても変じゃない。

 それくらいばっちり大人スーツを着こなしてるのだ。


 そんな妹の隣にいると、制服姿のままの姉(私)は不安になってくるのだ。


「……私もスーツに着替えた方が良かった?」

「いや、お姉ちゃんは寧ろそのままの方が

「うぅ、でも……」

「ていうかお姉ちゃんにスーツは似合わないよ。ピチピチになるじゃん」

「あ~そうだよね~~ってちょっと? いくら伽夜ちゃんでも聞き捨てならないよ?誰の体がふくよかだって?」

「ちがうよ、お尻とか太ももとか胸とかがムッチムチになっちゃうじゃんって意味。高校入ってからお姉ちゃんどんどんエロ……」

「伽夜ちゃん⁉ 急に何言い出すの伽夜ちゃん‼ あっ、あっ、運転手さん! どうかお気になさらず! ごめんなさい、運転中にほんとごめんなさい!」 


 運転手さんの動揺が車内の揺れに現れる。


 伽夜ちゃんのバカァ! 運転手さんの方、もう見れないよ! ミラーで目が合った時、すっごい気まずいよ!


「しまった、もうすぐ着きそう。お姉ちゃん、今から先輩達のおさらいするね。会う前にちょっとは相手のこと知っておかないと」

「ねぇ伽夜ちゃん、私以外の人をちゃんと認識して? 運転手さんは透明人間じゃないんだよ?」

「登録者順で見せていくね」

「聞いてよォ!」


 【鳴神クレア】

 稲妻の大きなヘアピンに、黄色のギザギザメッシュが入った黒い長髪の美女。

モデルとロックスターを合わせたような、美しさとカッコよさが同居した『雷神』。

 彼女の雷の如き歌声は聞いた人を痺れさせる反面、大口開けてギザ歯を見せる感情豊かなトークも人気の歌い手Vtuber。

 【チャンネル登録者――18万人】


 【明星ステラ】

 白金色のおかっぱ頭に、ウサギのように丸くて純朴な紅瞳の幼女。

 メテオちゃんというリスナーを模した人形を抱っこしながら、大好きなお絵描きをする『星の妖精』。 

 マイペースで落ち着いたロリ声は寝落ち必須だが、寝てしまえば彼女のカワイイ絵を見れない……というジレンマを与える、恐ろしいイラストレーターVtuber。

 【チャンネル登録者――15万人】


 【旭日リエル】

 青髪のお団子に天使の輪っか、白と水色を基調とした給仕服を着た正統派メイド。料理配信でメイド力を、ゲーム配信で雑魚力を披露する『天使』。

 雑談配信で垣間見える生活力の高さと、不運と凡ミスでいつも罰ゲームをやらされることで、男性層おにいさまに大人気のVtuber。

 【チャンネル登録者――12万人】


「わぁ……っ!」

 伽夜ちゃん編集の『5分で分かるヘブンズライブ』という動画を見て、私は目を輝かせた。


 綺麗な『ガワ』に見合う、いやそれ以上を超える『魂の魅力』に尊敬する。

 今から、この人達と会うんだ。

 私は、この人達の、後輩なんだ。

 遅れた実感がブルルっと体を震わせる。


「嬉しそうだね、お姉ちゃん」

「そりゃそうだよ! こんなすごい人達が先輩なんだから! それと……これはあんまり関係ないけど、全員女の人だからちょっと安心したというか」


 彼女達の魅力は性別に左右されるものじゃない。

 それでもやっぱり男の人と会うのは私の中ではけっこー緊張しちゃうのだ。身構えちゃうというか。


 初めて会った男性(?)Vが、あの猫だからなー……。


「まぁ、とにかくちょっとだけ緊張が解れ」


「? ?」


「たんだー…………」

 ? 

 ? ? 

 ???


 伽夜ちゃんは車窓の縁に頬杖を突きながら、涼し気に言った。


「――

「……え? ちょっ」

「あっ、着いた。カードでお願いします」


 お母さんのクレジットカードで支払いを済ませた伽夜ちゃんは、最後までクールな様子でタクシーを降りた。


 呆けた私はそんな妹の後を追って降車して……あの時の雑居ビルを見上げた。


「じゃ、いこっか」


 淀みない足取りで歩み出す伽夜ちゃん。

 私は目を点にして、手に持ったままのタブレットの再生ボタンを押した。もう一度流れ出す動画、


「…………3分の3、女の子なんだけど」


 うそでしょ?


 声じゃ分からない、見た目からじゃ益々分からない。

 ロックな美女・ほんわか幼女・よわよわ美少女メイド


 雑居ビルの前に固まる私を、戻ってきた伽夜ちゃんが無理やり引っ張り入れた。

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