第11話 勝者の特権じゃあ!(カミソリ用意)

 ス〇ブラで吹っ飛ばされる時のパターンは三つ。


1.ゲーム画面にへばりつくように吹き飛ぶ

2.その場で消し飛ぶ

3.すごい勢いで画面外へ飛んでいく


 その中で3だけが、試合時間を過ぎたらスローモーションになって、吹っ飛びが無効にされる時がある。


 無効になれば、私とキャスパーのスコアはイーブン。

 サドンデスに持ち込める。


 だから私は試合時間を確認してから、わざと先に攻撃した。

 全てはキャスパーに『勝った』と油断させるため。

 でも、吹っ飛び方がどれになるかは完全に運……完全に賭けだった。


「ノーカンです」

「えぇ……」

「ノーカン! ノーカン! ノーカン‼」


 子猫V、ご立腹だった。

 せっかくトイレから戻ってきたのに、うんざりだった。

 私の表情を読み込んで、レヴィアもうんざり顔になっている。


[ コメント ]

・ジト目助かる

・ガチで見下げ果ててるやん

・興奮します

・ノーカン! ノーカン!


「頼むよォ……先に僕の毛刈るからぁ。差分も用意するし、もれなく剃った毛は郵送するからぁ」

「もれなく要らない。普通に、もう、キモい」

「アッ! 軽蔑の眼差しも良いね!」

「無敵か、この猫」


 はぁー、なんだろう……私の中で、この人への遠慮ってものが全然無くなってる。自分がこんな刺々しい声出せるなんて知らなかったよ…………それで喜ぶ人達がいるってことも。


「あの、一応聞きますけど……なんでもう一回したいんですか?」

「朝チュンASMRと放尿プレ」

「それ見たことかぁ! やりますと言うとでも⁉」

「そこをなんとか‼ ワンチャンス! ワンモア!」


[ コメント ]

・ASMR咀嚼音をおくれーーー!

・わいのみたらし団子を食べておくれーーーー!

・しまえよ、その二玉しか付いてない団子串


 頼み込むキャスパーとコメント欄を交互に見やる。

 ぐぬぬぬ、と私は唇を噛んだ。

 どうしよう……水飲まずにだったら別にいいかな? でも勝ったの私だし。なんでお願い聞いてあげなきゃいけないの…………。


【って思いきれないのが、お姉ちゃんだよね】


 そう書かれたカンペが、横からスッと目に入った。伽夜ちゃんの字だ。

 振り返ると、私以上に私のこと分かってる妹が、にこっと笑ってマジックペンを走らせた。

 次に書かれたカンペを見て、私もこの線が妥当だなと納得できた。


【あと、さっきから素に戻ってるから。直して】


 はい、すみません。

 私は咳ばらいを挟んでから、


「本来なら貴様らの頼み事なぞ聞いてやる義理は無いが……堕ちたと云えど、妾も天使の一柱。堕天使の慈悲を貴様らにくれてやろう!」

「おぉお⁉ 60字くらい喋って何一つ新情報が無い! あの~、もっと端的に仰ってくれません? トーク下手?」

断罪ギルティすんぞあんたぁ‼」


 んんぅ、もうっ! 

 もう一回咳払いして、調子を合わせる。


「良いか、先に言うがもう一試合はせん! 一気飲み苦しいし、我慢するのキュウッてなるし、お茶で服びちゃびちゃだし、もうィヤッ! ヤなの!」 

「えぇえええ濡れてんのぉ⁉ そのうっすい布濡れたら、もうドスケベ」

「もぉーーー黙っててよぉおおおーーーーーー‼」

「だって! 言葉遣いがそこはかとなくエッッなんだもん! お股がキュウッとか服で透け透けとかぁ!」

「あんたの頭がピンクなだけだよぉ! そんなこと私言ってないよぉ!」 


[ コメント ]

・ぐっだぐだやないかww

・猫の誤変換が過ぎる

・そこはかとなくセンシティブなのは分かる

・天然でそれやってるんだよ、この子

・そこがマジでエチエチなんだよなぁ


「それ見たことかぁ!」

「うそぉーーーー⁉ え、私そんな変な言い方してt」


 言いかけたところで、ガツンと後ろから妹に蹴られた。

 すみません! 

 また一人称、素に戻ってました! 

 ちがうもん……私エッチじゃないもん……エッチなのはみんなだもん……っ!

 しょぼくれながらも、私は話を元に戻す。


「うぅぅ……えっとな? だからな? 勝ったのは紛れもなく妾だけどな? それだとみんなが楽しんでくれないのも、妾ちょっとは分かるんだ。だから……再戦はしないけど、代わりに――――次回はASMR配信しようと思うんだ」


[ コメント ]

・キチャーーーーーーー‼

・毎回やることが濃厚過ぎるww

・猫ォ! お前の戦いは無駄じゃなかった!


「言っとくけど、朝チュンじゃないからな⁉ 普通のASMRだからな⁉ そんなすごいことしないからな!」


 あわわわわ、またコメントの勢いすごいよぉ……っ! だいたい普通のASMRって何すれば良いんだろう?

 とにかく、みんなが喜んでくれて良かった! 

 一人、不本意な人も喜ばせたけど。


「……レヴィアたんって、もしかして天使なの?」

「元天使だよ、一応ね。でも今は堕天使だから、あなたには! しっかり罰ゲーム受けてもらうからね!」


 それはこの配信が始まる前に言ってたこと。

 負ける筈無いと豪語してたキャスパーに、私は――――『毛を丸刈りにしてもらう』と約束してもらっていた。

 その約束は果たしてもらう、って言ったら、キャスパーはあっさり引き受けた。


「だってさっきも言ったけど、そこはちゃんとするつもりだったからねぇ。えーと、僕のハゲ猫差分作ってぇ~。魂の毛は郵送で良いんだよね」


「いやだから毛を送んないでってば。魂の毛は全部じゃなくて良いよ。

そうだなぁ……


「わかた! 剃った毛は後で画像つけてつぶやいとく」

「はぁい、じゃあ眷属のみんな。配信の後はキャスパーのつぶやきに注目~。

私の戦利品(眉毛)をチェックしようね~」

「あの、眉毛、郵送」

「するなって言ってんでしょぉがぁ‼」


 タイミングよく伽夜ちゃんが手を伸ばした。

 配信のエンディング映像と音楽を流す。

 マイクをミュートして、私は椅子の背にもたれて、はふぅと息をついた。

 

「お疲れ様でしたぁー。いやぁ良かったす」

「あっ、キャスパーさん。お疲れ様です」

「なんとか健全に終われたねー。珍しいよ、僕とコラボしてBANされないの」

「BAN云々より、あなたの辞書に『健全』って単語があることにビックリです」

「敬語やめてよ~~、さっきまでの遠慮の無さ好きだったな♡」

「そう言うと思ったから、敬語にしたんですよ~♡ それでは」


 タンスの角に指ぶつけろ、ゲスコット!

 私はすぐにキャスパーとの通話を叩き切る。


 そしたら伽夜ちゃんが「おつかれさま」と抱きしめてきた。

 私も抱きしめ返す。

 はぁ~~~~癒しぃ~~~~~。

 元を辿れば元凶だけれど、あのゲスコットと話した後なら、誰でも癒しだ

 埋めた胸から顔をあげると、伽夜ちゃんが頬擦りしてきた。

 カワイイ。

 正面に向き直ってからギュッと抱きしめて、妹の肩に顎を乗っけた。


「ねぇ、お姉ちゃん」

「ん? なにぃ~~?」

?」


 ……何の話? と思ったけど、キャスパーのことを言ってるんだとすぐ気づく。

 え~~と。


「なんとなく、かなぁ。頭の毛は大事になるし、眉毛なら剃るの楽そうだなって」

「……

「そうなの?」


 伽夜ちゃんは博識だなぁと思いつつ、なんで今それを言うんだろうって思った。

 するとぼそりと、妹のつぶやきがすぐ横から聞こえてきた。


「――

「どういう意味?」


 妹は答えなかった。

 私の方から、妹の表情は見れなかった。

 その10分後、ティッシュの上に剃られたキャスパーの眉毛がSNS上に流れた。

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