第51話 おかしいですわ (アカシア)

 おかしいですわ!

 なぜ、何の問題も起きずに事件が解決してしまいましたの?

 あり得ませんわ!


 もちろん、国民に犠牲者が出る前に、速やかに事態が終息したことは喜ばしいことですが……。

 それにしたって、私の活躍する場面が一つもないなんて、どういうことですの!


 普通、治療中にウォールの魔力が切れて、具合が悪くなったところを、私が看病する場面があるはずでしょう。

 そして、私に膝枕をされたウォールは言うのです。


「僕は、どれくらい意識を失っていたんだ? アカシア、すまない。脚が痺れただろ」

「ウォール、無理をしないで。もう少し、このままでいいのよ」


 起き上がろうとするウォールを止めて、私はウォールの頭を自分の膝に戻します。


「ああ、なんて心地いいんだ。天にも昇る気持ちだ」

「ウォールったら、大袈裟ね。膝枕くらいならいつでもしてあげるわよ」


「本当かい? もう、僕は一生君を離さないよ」

「ウォール、他の人が見ているわ」


「構わないさ、僕たちは婚約者同士だろ」

「それでも、まだ、婚約者同士に過ぎないわ」


「わかった、なら、すぐに結婚しよう。そうなれば、誰にも文句を言えないだろう」

「ウォール、嬉しいわ」


 そして、二人は熱い抱擁を交わす……。その、はずだったのです。


 それなのに、最後まで治療を終えてもピンピンしているなんて、少しは空気を読んで、ふらつくくらいのことはしなさいよね!

 そうすれば、支えてあげることくらいできたのに……。


 それに、大規模連携魔法の時もそうです。

 なんで、あんなにすんなり成功するんですの? あり得ませんわ!


 本当なら、カリンさんが魔法に失敗し、私が代わりになって魔法を成功させるところでしょう。

 ……。まあ、魔術ランクゼロの私には無理な話なのはわかっていますが。

 一度くらいは失敗しないと、話が盛り上がらないでしょう。


 それか、一層のこと、悪の組織が出てきて、魔法の妨害をする展開があっても良かったはずです。

 そうすれば、王子やその側近たちにも出番があったでしょうに。

 このままでは、王子やその側近たちも、その能力が宝の持ち腐れですわ。


 折角のイケメン、ハイスペック軍団が、ポッと出の魔術研究会にいいところを持っていかれて、飛んだ三枚目ですわ。


 本当なら、私が悪漢からウォールを救う場面があって、然るべきだったはずです。


「ウォール! 危ない!」


 私は、ウォールを陰から狙う、剣を手にした男の背中に体当たりをします。


「アカシア! なんでここに?」

「あなたのことが心配で……」

「このアマア! よくも邪魔してくれたな」


 一度は、私の体当たりで、たたらを踏んだ男でしたが、すぐ体勢を立て直し、私は腕を掴まれてしまいます。


「キャァー!」


 私は、その男に捕まり人質にされてしまいます。


「アカシア!」

「おっと、動くな! こいつがどうなってもいいのか?」


 男は私の首筋に剣を当てます。


「ウォール、私のことは構わないで、この男を倒して!」

「アカシア、僕には君を見捨てることなんてできないよ。君が傷付いたら僕は生きていけない!」


「それは私も同じよ」


「なら、二人とも仲良くあの世に送ってやる。先ずはお前から死ね!」


 男は、私をウォールの方に突き飛ばすと、私を受け止めたウォールに斬りかかります。


「危ない!」


 ウォールは咄嗟に魔法障壁を張り、男の剣を防ぎます。


 キィンー!


 魔法障壁と剣がぶつかり、甲高い音が響きます。


「クッ。俺様の剣を防ぐとは、流石はランク5といったところか。だが、その娘を守りながら、いつまで防ぎ切れるかな」


 男はそう言うと、連続で斬りかかってきます。


「何度だって防いで見せるさ。アカシアのことは一生守り通すと決めているんだ!」

「ウォール、私も一生あなたについていくわ」


「こんな時にイチャついてんじゃねえ!」


 男は怒りを込めて剣を振います。


「そうだぞ、時と場所を弁えてもらいたいものだな」

「殿下! なぜここに?!」


「殿下だけではありませんよ」

「遅くなってすまなかったな」

「あらら、苦戦してるの?」

「二人だけでは心配だから、助けに来てやったからな」


「マカバ先輩。それにみんなも」


 王子とその側近たちが、ここぞとばかりに全員で援護に来ました。


「まあ、ここは俺に任せろ!」


 イチイが得意の剣術で男に斬りかかります。


「おっと。助っ人か。なかなかやるが、まだ、実践不足だな」


 イチイの剣は男にうまくいなされてしまいます。


「こいつ、できるな!」


「できるな、じゃないよ。さっさとケリをつけちゃいなよ」

「そんなこと言うならチークがやってみろ」


「あー。僕には無理、無理」

「おしゃべりしているなんて、随分と余裕だな。それ!」


 男の剣を受けて、イチイが弾き飛ばされ、後ろにいたチークを巻き込んで盛大に転びます。


「あいたたた」

「しまった!」

「死ねや!」


 男はそのまま二人に斬りかかりますが、それを許すウォールではありません。


「僕のことを忘れてもらっては困るな」


 ウォールの必殺魔法が男に炸裂します。

 男は、ウォールの魔法で痺れたように体を引き攣らせて倒れてしまいました。


「やったわね、ウォール!」

「これも君のおかげさ」


「私は何もしていないわ。それより今の魔法はなに? 見たことがないわ」

「あれかい。あれは、二人の愛の絆でできた、新しい魔法、ラブラブショックだ」


「まあ! 二人の愛の絆でできた魔法なのね」

「そうだよ。だから、アカシア、君のおかげだ」


「そんなー。二人の愛の絆なのだから、二人の愛の成果よ」

「そうだな。愛しているよ、アカシア」


 ウオールは私を抱き寄せます。


「私もよ、ウォール」


 そして、二人は熱い口づけを交わすのです。


 ムフフフ。


「お嬢様。お顔がだらしなくゆるんでますよ」

「はッ! マリア! いつからそこに?!」


「最初からいましたが」

「今のは違うの。ウォールのことなんか考えてないから!」


「はい、はい、そうですか。ラブラブでよかったですね」

「そんなこと妄想してないから!」


 私は、サンタマリアから生暖かい目で微笑まれるのでした。


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