第38話 BBQ (ウォール)

 mPadの工房の視察研修で士気が上がったところで、湖畔に移動し、バーベキュー大会だ。

 事前の準備は、屋敷の使用人とアカシアたちがやってくれているはずだ。


 もっとも、アカシアとエンジュは手伝いというよりは、遊んでいる可能性が高いが……。


 湖畔に到着すると、準備は滞りなく整っているようだ。


「準備してもらってすまなかったね。ご苦労さん」


 使用人にお礼を述べてから魔術研究会のメンバーに向き直る。


「さあ、お昼はバーベキューだから、存分に食べてくれ!」

「やったー!」

「焼くぞ!」

「食べるわよ!」


 みんな楽しそうに肉や野菜を焼き始めた。喜んでくれたようで何よりだ。


「アカシアとエンジュはどこに?」


 俺は近くにいたメイドに尋ねた。


「アカシア様でしたら、あちらに」


 メイドが指す方には、パラソルが立てられ、デッキチェアーが並べられていた。

 そこには、アカシアが寛いでいた。


「アカシア、お前もこっちに来いよ。一緒にバーベキューしようぜ」


 アカシアは見向きもせず、手で払うような仕草を見せた。

 あれは、いいから、焼けた肉を持って来いということだろう。

 全くもって、横着なお嬢様だ。


 そういえば、エンジュの姿が見当たらないが、一緒じゃないのか?

 仕方なく俺は、焼けた肉を小皿に分けてもらい、それをアカシアに持っていった。


「はいどうぞ。準備してもらって悪かったな」

「いただきます。準備のことなら使用人がやっていたから気にしないで――」


 どうも、アカシアの機嫌が今ひとつ良くないようだ。


「そういえば、エンジュはどうした?」

「エンジュは、急用ができて先に戻ったわ」


「エンジュに急用なんて……。なんのことか聞いているか?」

「急用としか聞いていないわ」


 急用? まさか、二人で喧嘩して、エンジュが帰ってしまったわけじゃないよな?


「まさか、喧嘩したわけじゃないよな?」

「私とエンジュが? ありえないでしょ!」


「そうか、ならいいんだが」

「なぜ、そんな話になるの?」


「お前が少し機嫌が悪いから……」

「私の機嫌が悪い? そんなことないわよ。むしろ、今の話を聞いて機嫌が悪くなったわ」


 機嫌はともかく、やはり、普段とは違う気がするが、調子が悪いのか? まあでも、気にする程でもないか?


「そうか、ならいいのだが」

「よくないでしょ。もっと私に仕えなさいよ。ほら、肉だけでなく野菜も持ってきて」


「僕は、お前の使用人じゃないんだがな――」


 全くもって、わがままなお嬢様である。

 ツンツンしてばかりで、なかなかデレない。早くデレてもらいたいものだ。


 言われるままに野菜を取りに戻る。ついでに自分の分の肉も取ってこよう。


「アカシア様はこちらに来られないのですか?」

「焼けた物を持って来いとさ」


「ウォール様の分も合わせて、私がお持ちしましょうか?」

「僕がやるから気にしないで。カリンさんに、そこまで気を使わせる気はないよ」


「そうですか? 必要な時はいつでも言ってください。そういえば、エンジュ様の姿が見えませんが……」

「エンジュは急用で先に帰ったそうだ」


「そうですか。ご一緒できなくて残念です」

「屋敷に帰ればいるだろうから、晩餐は一緒になるんじゃないか?」


「晩餐ですか……」

「どうかしたか?」


「いえ、昨晩と同様だとすると、昼間、バーベキューを食べて、入るかなっと。連休明けに太ってないか心配です」

「カリンさんは全然太ってないじゃないか。心配する必要ないだろ」


「そうですかね?」


「ちょっと、お替りはまだ?」

「ああ、はいはい。今すぐに――」


「それと、カリンさんは全然太ってないってなによ? それじゃあ、私は、太っているみたいじゃない」

「いやいや、そんなこと言ってないよ」


 カリンさんとの話に聞き耳を立てていたのか。迂闊なことは言えないな。


「それこそアカシアの自意識過剰、勘違いだから」

「私が自意識過剰のデブだというの?」


「いやいやいや、アカシアのスタイルは抜群だから。まるで女神のようで、この上はないから」

「まあ、そこまで言うなら許してあげるわ。早くお替りを持ってきなさい」


「はい、今すぐに!」


 何が調子が悪いだ、いつも通り、絶好調じゃないか。


 バーベキューでお腹が膨れた後は、アカシアのように、湖畔で寛いだり、湖で釣りをしたり、ボートに乗ったりして、午後のひと時を満喫した。


 夕暮れ近くなり屋敷に戻ったが、屋敷にエンジュの姿は見当たらなかった。


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