約束

パープルジャンパー

第1話

今日は、久しぶりに高校からの親友の隆司と待ち合わせだ。

隆司と会うのは、2ヶ月ぶりか?


待ち合わせ場所の駅に到着すると、待ちくたびれた顔をした隆司が、俺を睨む!


『お前はいつも約束した時間には来ないよな』


俺のよく言われるワードベスト1と言ってもいい。

時間にルーズであるということ。

確かに、ヒトとの約束事をちゃんと守ったことがない。

自慢して言えることではないが、いつからかそれでいいと思うような性格になっていた。


『ごめん』


『絶対に思ってないだろう』


『正解』


そう言って、笑って見せる。


隆司は呆れた顔をして、横にいる女の子を見る。


『こんにちは』


照れくさそうに挨拶するこの娘は、確か隆司の3歳下の妹の鈴ちゃん。

会うのは、アイツの葬式以来になるのか…


『久しぶりだね。鈴ちゃん』


『お久しぶりです』


俺は隆司の方に顔を向き


『そんで、どこ行くの?』


実は、今日の予定を全く知らないのだ。

隆司に空いてたら会おうと

妹の鈴ちゃんを連れて、3人で出かけるなんてことは、今まで1度もなかった。


とりあえず、俺達3人は隆司の車に乗って、この場所を後にした。


車中で話を聞くも、別に目的があるわけではないらしく

俺達は行き当たりばったりに、車を止めて遊びを楽しんだ。


25歳にもなって、こんな遊び方をするとは思っていなかった。

何も決めずに只走り、気になった場所を見つけては降りて遊ぶ。

しかし、以外にも楽しいもんだな。


遊び倒して、空腹となった腹を満たしに、ファミレスに入り食事をとった。


食事を終えた俺は、食後のコーヒーを啜っていると、先にコーヒーを飲み終えた隆司がトイレに行った。


その瞬間を狙っていたかのように

『あの~』と小声で話しかけてきた。


『なに?』


俺は持ち上げていたコーヒーカップをテーブルに置いて、鈴ちゃんに目線を移す。


『今度…私とピクシーパークに行ってくれませんか?』


ピクシーパークって、最近できたばっかりの妖精達がもてなしてくれるテーマパークだったよな。


顔を真っ赤にし、照れながら、お願いしてくる鈴ちゃんの意図に、この時の鈍感な俺は全く気付くことなく『いいよ』と何も考えずに答えたのである。


『本当ですか!?』


『うん』

『でも、行きたい所があったのなら、今日行けば良かったのに』


『…二人で』


ギリギリ聞こえてきた小さな声にビックリして、テーブルに膝を打ち付けてしまい

コーヒーカップが倒れてしまった!


そんな俺にビックリした鈴ちゃんと慌てて二人で、こぼれたコーヒーを紙ナプキンで拭っていると、隆司がトイレから戻ってきた。


『なにやってんだよ!?』


『うるせー』

『お前も手伝え』と動揺した気持ちを悟られまいと必死になった。



なんで動揺したのか?

中学生でもあるまいし

それは、親友の妹にデートに誘われるなんて、思いもしないだろ?

だから、思いもよらない言葉を聞いて、動揺してしまったんだ。


さっきのカッコ悪い失態に、自分で納得をつける。


隆司がお会計をしている間に、俺は鈴ちゃんに

なんで俺なんか?さっきもカッコ悪い姿を見せちゃったし、何がいいんだ?という気持ちから『なんで俺とピクシーパーク?』と聞いてみた。


『えっと…』


困った顔で、少し照れくさそうに


『約束しないと、次に会えるのいつになるか、わからないから』


俺が、聞きたかった答えとは、違った言葉が返ってきた!


違う違う、なんで俺とデート?

俺のこと、好きなの?的なことを聞きたかったのだけれど

それを聞くだけの時間はなかった。

隆司が、お会計を終えてやってきた。



あとあと鈴ちゃんには悪いかなぁって思いもしたが、隆司に相談をした。


すると、鈴ちゃんは、俺が隆司と出会った高校の時、つまり鈴ちゃんが中学生の頃から、俺のことを好きだったらしい。


隆司も最近になって、知ったことみたいだ。

最近、俺と会っているか?とか、どうしてるの?とか聞いてくるので、問いただすとそういうことだったと


今日も鈴ちゃんにお願いされて、俺を誘ったそうだが、予定は鈴ちゃんが考えていると思っていたのだが、何も考えてなくて、あのような1日になってしまったと



不思議なもんだな。

親友の妹に好かれるなんて


(デートかぁ…なんで約束しちゃったんだろう?)


少し面倒だなって感じている。



数日後…


俺はいつもの病気が出てしまった。

そう[ヒトとの約束事をちゃんと守らない]という病気が!


今日は早く起き、出勤までの時間に余裕があると、呑気にしていた。

ふと玄関の汚れが気になり

いつもだったら、やりもしない玄関の掃除を始めてしまう。

時間もあるし、少しだけ掃除でもするかと、簡単に考えたのがいけなかった。

気に出したら、トコトンやるまで終われない

隅の隅まで、綺麗にしないと気が収まらないところまで来てしまい


納得するまで綺麗にして、一段落ついたところで時間を確認すると!

ヤバイ!出かける時間を30分もオーバーしている!

このままでは、遅刻する。


今日は大事な仕事がある。

遅れるわけには行かないと、バイクをかっ飛ばす。


気が焦る。

そのせいか、信号が赤に変わったことに気づくのが遅れた!

スピードを出していたのもあって、急には止まれない。


スリップしたバイクから、放り出された体は、地面に強く叩きつけられた…


強い衝撃と痛みを受けた瞬間

何も見えなくなった。

音もしない、静かな暗闇の中に


(俺は死んだのか…)と察した。


その時


『よっ』という声と同時に、目の前に人の影が現れる。


暗闇の中で、影?と、頭を傾けたくなるだろうが、確かに人の影を模した何かが、現れたんだ。

そして影は、ハッキリとした人物を形作った。


『久しぶり、國光』


その影は、俺の名前を呼ぶ。

親しげに声をかけてきた影の正体は、二年前に亡くなった1歳下の妹…アキだった!


(やはり、俺は死んだんだな)


そう確信する。


『何か、忘れ物ない?』


2年ぶりに会う兄に、最初に聞くことが[忘れ物]?

そんなもんあるわけないだろう?


何があるっていうんだ?

死人が持ってくるもの?…それってなんだ?


『なにもないよ』


『そんなはずない…思い出して』


『はっ?…財布か?』

(いやいや、金なんて持ってても仕方ないだろ)


『スマホか?』

(いやいや、違うだろ)


『なんだよ?』


思い付かないのだから、聞いた方が早い。


『わからないの?』


妹は怪訝な顔をした。


『あぁ』

知らん!仕方なかろう。

わからないもんは、わからんのだから。


『大変だ!』


『何が?』


『怒られるよ』


『怒られる?誰に?』


怒られるって!死んでも誰かに怒られるのか?

それは、勘弁してほしいものだ。


『もう…約束』


『約束?』


『覚えてないの?』


『…』


俺は、頭の中をフル回転させて考えた。

しかし、何も思い浮かばない。


『マジで、ヤバイよ』

『國光は、昔から鈍いよね』


『はっ!?』

『なんだよ』


さっきから、意味わかんねぇ事を言いやがって

こいつは、生前から変わらねぇな

いつも、遠回しに話してきやがって…


『女を怒らせると大変だよ』


(女?…約束?…!!)


1つだけ思い当たることがある。

忘れていたわけじゃない。

しかし、死んでしまった状態で忘れ物と言われても、思い当たるわけがない。


『思い出した?』


『…あぁ』


何故か照れくさそうに答えてしまった。


『なら、よし』

『その子に感謝しなよ』


(感謝って!?どういうこと?)


『さっさと帰んな』


アキは手の甲を上下させ、しっしと邪魔だからというような態度をとった。


(俺は、死んだんじゃないのか?)

(帰れって、どうやって?)


そんな風に思っていると

アキは、やれやれといった顔をして、一歩、二歩と俺の真ん前まで近づいてきて

早くしろという感じで、俺の両肩を鷲掴みにして、力強く体を振り回す。

真後ろを向いた俺の背中を、先ほどとは違い、軽く押した。


押された体は、真っ暗な広い空間に押し出されただけで、何もない


どこに行けばいいというのか?

そう思い、アキの方へと振り返る。


アキは笑顔だった。


その笑顔を見た瞬間に、不思議と帰る先が見えた気がした。


『アキ、ありがとな』

『今度来るのは、ずいぶん先になると思うけど、寂しくて泣いたりするなよ』


俺は、薄く消え入りそうなアキの姿を見届けることなく、前に向き直した。


(約束って、そんなに大事かねぇ…)

昔よく妹との約束を破って、大喧嘩をしたなと思い出し、笑えてきた。


(ファイト!お兄ちゃん)


心に聞こえた妹の声。

その声に反応し、再度振り返ろうとした時!

強い刺激が、体全体に広がっていくような感覚…


…それは、日の光だった…

瞼を開けて、目に入る光の刺激は、こんなにも体を痺れさせるものなのか?


苦しさを感じる!


(事故ったんだ。体に痛みがあるのは理解できる)

(でも、苦しいって!ヤバイ状態なのか?)


この苦しみの一番強い箇所である、胸の辺りに首を動かし見てみると

その瞬間に謎が解けた。


『苦しいんだけど』


俺が発した声に飛び跳ねて、起き上がった人物。

そう、こいつが苦しみの原因だ!


『おはよう…戻ってきたぜ』


その人物に声をかけると

そいつは泣きじゃくり、俺の胸に抱きついてきた!


(く、、苦しい…)

(まぁいいか、これが生きてるって感覚なんだよな)


この苦しみが、不思議と心地よく感じられた。


『もう…もう目を覚まさないかと思った』


顔を上げ、涙でぐちゃぐちゃになった鈴ちゃんの顔に、右手を添え、親指で涙を拭う。


『約束したからな』


鈴ちゃんは何の事?という顔をするので


『忘れたのか?…』

『ピクシーパークに行くんだろ?』


せっかく涙を拭いたのに

また、涙で濡らした顔を再度、俺の胸に押し付けてきた。

その押し付けた顔を何度も上下させる。

何度も何度も『うん…うん…』と言いながら、頷いている。


これは苦しみだけでなく、痛みも伴う!

だけど俺は、我慢することにした。

それだけ、心配させてしまったのだから…

男として、ここは耐えないとな

(そうだろう?アキ)


俺は、日の差す窓を見た。













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約束 パープルジャンパー @o-murasaki

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