第15話 人攫い。

 可愛い服を着て、女の子のような格好でエオリアに手を引かれて歩くうち、なんだか自由になったような、そんな気分になってきた。


 それでなくともあたしイリスは天から降りてきた天神、領主の養子になった神の使い、そんな目で見る人もいるくらい他人とはちょっと違う目で見られていて。


 男の子のあたしは街を歩いていてもちょっと奇異な、変わった目で見られていたのも事実。


 だけど。


 こうして女の子に見える姿がカモフラージュになっているのかあたしをイリスだと気がつかない人も多いみたいで。


 うん。


 なんだかほんと自由になった気分だ。嬉しい。




 商店が立ち並ぶこの通りは店先で食べ物を売っている所も多く、美味しそうな匂いが漂っている。


 カラフルな飴が置いてあるお店でフルーツ味のキャンディを買って、美味しそうなソーセージのお店で買った大きなフランクフルト(この世界ではそういう名前じゃ無かったけど)を頬張りながらホクホク顔で歩いていたら、


「なあねーちゃん、最近は人攫いが流行ってるからその嬢ちゃんの手は離しちゃなんねえよ」


 と、串焼き屋台のおじさんから声をかけられた。


 あたしがフランクを食べるのに夢中になっててエオリアは串焼きに目を奪われ一瞬手を離して立ち止まったちょうどそのタイミングだったので。


 その声にあたしもエオリアもはっとして、手を繋ぎ直したのだった。


 子供が迷子になる時というのはこういう時かもしれない。あたしだってエオリアとはぐれるのは嫌だしね? ほんとありがたいよねとおもい。


 エオリアもたぶん気持ちは一緒だったろう。あたしの方にも注意しつつ串焼きを選んで。


「ありがとうございます。気をつけますね。えっと、これとこれ、それにこの串を二つずつくださいな」


 そう注文したのだった。あは。串焼きもほんと美味しそうだ。


「あいよ。いいってことよ。ほんと最近は物騒なんだ。昨日もそこの大店おおだなのお嬢が攫われてな。街は大騒ぎだったのさ」


 はう!


「それで、その子はどうなったのです!? 助かったのですか?」


 あたしは思わずそう声をかけてた。


「それがなぁ。まだ見つかって無いみたいでな……。身代金目当てならまだいいんだが、ここの所ちょうど嬢ちゃんくらいの年齢の子供が攫われる事が増えてるのさ」


「警護署は!? 届けてるの!?」


「ああもちろんさ。でもなぁ」


 前世の警察みたいな所、一応この街にも警護署っていうのがある。


「なかなか警護署じゃ解決しないのさ。こういうのはなぁ」


 はうう。


「領主様が動いてくださればいいのかも知れんが、街の子供が行方不明になった程度の話、領主様の耳には入らねえだろうしなぁ」

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