第6話 沢山の本。

 エオリアの木剣が唸りをあげて迫る。


 あたしはその剣を自身の木剣で受けそしてそれを横に流しながら彼女の右手を狙って伸ばす。


 当たったかと思ったけど浅かった。ギリギリの際であたしの剣を避けたエオリアはくるんと一回転してそのまま真横に剣を薙ぐ。


 背面跳びでその剣を避けたあたしは着地後再度剣を伸ばし突きの姿勢。エオリアは難なくその剣を弾き落とす。




 側から見たらなんとか互角についていっているように見えるだろう。でも。


 思考を加速し肉体強度を上げやっと彼女の剣技についていける。正直素のままじゃ彼女の剣筋も見えやしない。


 力でも敵わないしね。


 まあこんなふうに自分の身体だけに使うのなら魔力を使っても他の人にはバレにくい。


 エオリア、は……。もしかしたら何か気がついているかもしれないけど、あまりそういう事を言いふらすような人じゃ無いから。その辺は信頼してる。騙してるみたいなのはちょっと心が痛むけど。


 しかし。


 先日の夢魔と言ったっけ、あれはどうしたものかな。


 なんとかしないとまた子供たちを襲いそうだし、それに。


 あたしの命だって狙って来るかもしれないし。




 ザン!


 目の前に掲げられた木剣。鼻筋の目前で寸止めされたそれに意識が引き戻される。


「今日はここまでにしましょう。ぼっちゃまは何かご心配な事でもあるのでしょうか? 集中力が欠けているように感じます」


 エオリアが心配そうな眼差しでこちらを覗き込むように見ながらそう言った。


「うん。ちょっと、ね……」


「ぼっちゃま、心配事があるならお伺いいたします。どうかこのエオリアを頼ってくださいませ」


 はう。


 彼女のまっすぐな瞳に少しうしろめたさも感じて。全部話してしまいたくなるけど、ダメだ。


 あたしの本当の能力を知ったらきっとみんなルークではなくあたしにこの家を継がせたくなってしまうだろう。それは嫌。


 あくまで裏でこの家とルークを助ける。それが理想。


 それがあたしがここの両親にできる恩返し。だから……。


「ありがとう。僕はエオリアが大好きだよ」


 そう満面の笑みを彼女に向けて言う。


「まあ……」


 ほおに両手を当ててほんのり赤くなるエオリアに、抱きついた。





 ☆☆☆☆☆




 エオリアをなんとなく誤魔化したところであたしは書庫に向かった。


 この館の最奥にあるその部屋は、埃の被った本がたくさん収納してあるそんな場所で。壁一面に並んだ本棚だけでなく床にも机にも古めかしい本が無造作に置かれている、そんな場所だった。


 それはちゃんと整理されているわけでもなく、ただただ購入し順に押し込んでいたのだろう。それもアレハンド家代々のご先祖さまが収集したのだろうそんな本がたくさん収められ。


 イメージ的には衲戸。まあ少し広めのね?


 重い扉をギイと開くと古い紙とカビの匂い。お世辞にも本にとって良い環境とは言えない場所だけどそれでもこれだけの本を集めておいてくれた先達にまずは感謝して。


 あたしは探した。悪魔関係の本が無いかどうか。


 あたしが書いたおはなし、覚えてるのはあの教会でのやり取りまでだった。


 亜里香に相談したあの場面までしかまだ文章にしていなかったと思う。


 結局この後どうしたかはぼんやりとしたプロットでしか無い。そんな通りになるとも思えないし大体夢魔ってそこまで明確に設定して居たわけでは無い序盤のなんてことのない雑魚キャラだ。


 だからね。


 まずは情報収集しなきゃ。そう思ったのだ。

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