第3話 墜とされた日。
唐突に。
そう、それは唐突に始まった。
「もうあなたはここには必要ないの!」
「お前はもう要らない。今すぐここから出ていくが良い」
そう言い放つ目の前の二人。
「どうして? どういう事?」
困惑したあたしはそれをいうだけが精一杯で。
白亜の壁。白い天井から降りる鎖のカーテンがあたしと彼らを遮る。隙間から見えるその人影。
気がついたそこはいつもの自室ではなくどうやら屋敷の外にある倉庫?
少し寒い。
どうやら床に寝かされて居たらしいあたしは起き上がると鎖のカーテンを開けて彼らに近寄ろうとした。
とうさま、かあさま、どうして……?
「止まれイリス。それ以上近寄るな。お前の貴族籍は既に剥奪された。それ以上の侵入は許されない」
「残念ね。イリス。せめて命だけは助けてもらえるようお願いしておいたわ。下界で達者に暮らすのよ」
え? 下界って……。
あの眼下に見える灰色の世界。薄汚い空気にまみれた外界の地。
確かそんな噂の場所。
「そんな、嫌です! どうして!? かあさま!」
「わたくしはもう貴女の母ではありません。ああ穢らわしい」
「お前の
父だったそのおおきな影がそう断言すると同時に、あたしの身体は落ちた。
床を突き抜けそのまま空に投げ出されあたしはそれでも身体中を纏う光の繭に包まれ、落下して行ったのだった。
悲しくて泣きじゃくりながらそのまま地上へとゆっくりとふんわりと落ちていった。
ああ、これはあの時の夢だな。そう泣きながら考えてた。夢の中でこれは夢だと。
☆☆☆☆☆
あたしは前世での死因をはっきりと覚えていない。
気がついたらここに転生していたのだ。それも、この地上に墜とされている最中に唐突に蘇ったその前世の記憶。
まだ5歳になったばかりだった当時、あたしの頭の中はかなり混乱して。そしてそれまでのイリスとしての心よりも前世の記憶の方が
だからかな。あんなに悲しかった父母との別れ、捨てられたと言う思い、そういったものから逃れる事が出来た。
記憶がなくなったわけでは無いけれど、5歳までのイリスはその時に死んだのだ。それまでの幼い心は完全に打ちのめされ、弱ってしまったのだろう。生きる気力? そういったものが完全に欠如してしまったが為に前世のあたしが表に出てきたのだろう。きっと。
それでも。
物心ついた時から本という本を読み漁り知識を得ようとしていたのはやはりこの前世のあたしだった頃の影響か。
天上界は白亜の建物が綺麗な、清浄な場所だった。
お父様はたぶんけっこう偉い人? お城みたいな場所に住んでいた。
中央には巨大な図書館があって、世界の知識という知識が詰まっているそんな場所で。
あたしはお世話をしてくれる乳母にそこに連れて行って貰うのがとても好きで。
そして。本を読み漁ったのだ。周りの人達は驚いていたけど、さすが神童ですわとか噂されてちょっと嬉しかったのも記憶にある。
神殿で魔力特性値の測定が行われたあの日。あたしの数値がゼロだと告げられたあの日まで。あたしは幸せだったのだ。
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