第20話 美人お姉さんのギャップに萌えてもいいですか?
教室内に入ると何やらクラス内が騒ついている様子だった。
「あ、子川くんおはよー」
自分の席に着くと小虎は普段と変わらぬ様子で俺に挨拶してきた。
昨日のことを変に意識されるとこっちもなんだかんだで居心地が悪いし、何も変わらず普段通りに接してくれる方がこっちもありがたかった。やはりそこら辺の気遣いに関しては流石はムードメーカーの小虎と言うべきだろう。
「おはよう。何かクラス内が騒がしいな」
「あー。原因はたぶん『アレ』だと思うよ?」
小虎が指を差した先には誰も座っていない空席が一つあった。
「……あー。なんか知らないうちに机が一個増えてるな?」
「そうそれ。こんな中途半端な時期に転入生とかどう考えても大冒険の匂いがすると思わない?」
「大事件じゃなくて大冒険なのか。良いなその言い回し」
「えっへん。お褒めに預かり光栄だよ」
そんな感じで談笑していると、不意に小虎の目と視線がぶつかった。
「…………」
「…………」
「…………っ」
「…………っ〜」
無言で見つめ合うのが何か妙に照れ臭くて、気付いたらお互いにフッと目を逸らしていた。
気まず。やっぱ完全には普段通りにいかないか。
そうだよな。両想いだって分かったんだから相手を意識せずにはいられないよな。
「少々騒がしいな。皆席に着いてくれ」
小虎との間にある気まずい空気に悶々としていると場の空気を切り裂くかの様に龍ヶ花先生の声が通った。
「せんせー、席が一個増えてますけど。あれは何なんですか?」
「それについては明日報告する。まだ本決定ではないからな」
「えー、気になるなー」
小虎の質問に珍しく答えを渋る龍ヶ花先生。その苦虫を噛み潰したような顔も普段は見せない表情なので本当に珍しかった。
「……まったく学園理事長も困った人だ」
人前で愚痴をこぼすのも本当に珍しい。龍ヶ花先生でも困るとか、そんなに深刻な案件なのだろうか。
「今日は一限目から外来の講師による特別講習会が入っている。クラスの皆はくれぐれも外来の先生に失礼の無い様にしてくれ」
そういえば今日は特別講習会の日か。色々あってすっかり忘れてた。
そして朝のホームルームが終わったあたりで先生が俺に声をかけてきた。
「子川、悪いが放課後になったら応接室に来てくれないか?」
「……理由を伺っても?」
「子川が一番適任だと私が判断したからだ。ちなみにこれを拒否されると私が困る。もの凄くな」
「……先生が困る様な案件が俺に務まるとはとうてい思えないんですが」
「拒否するのは子川の自由だ。その場合は他の者が代わりに犠牲になるがな」
「今ナチュラルに犠牲って言いましたね?」
「返答は放課後に聞く。色良い返事を期待している」
そんな先生との会話が終わる頃に小虎が急に手をあげて「はいはーい。わたしも混ぜてください」と会話に参加してきた。
「わたしの勘がその案件はおもしろいって言っているのでわたしにも参加させてください!」
「小虎は駄目だ」
「先生のケチ!」
秒で断られた小虎は机に突っ伏して「ブーブー」といじけていた。俺のとなりに二十歳の小学生がいる。控えめに言ってめっちゃ可愛い。
「それではまた後でな」
そう言って先生は教室の外に出て行った。
「子川くん。後で何があったか詳しく教えてね?」
「ああ。話せる内容だったらな」
「絶対楽しいやつだよ。いや〜ありとあらゆる可能性がわたしの心を躍らせているよ」
ワクワクが止まらない小虎の目は新しい玩具を与えられた小さな子供の様に輝いていた。
野次馬根性というか好奇心旺盛というか。やはり小虎はエンタメに対する嗅覚だけは人よりも鋭いらしい。
そういえば小虎と最初に話すきっかけになったネタが「子川くんの家って何か訳ありだったりする?」だったからな。人の家の家庭事情に首を突っ込んでくる奴なんて小虎くらいのもんだろう。
「子川くんを超えるいじり甲斐のあるネタだといいんだけどなー」
「……あの時シスコンとかエロゲ主人公って言ったの末長く根に持つからな」
「急にどうしたの!?」
「いや、何でもない。ただのヤキモチだ」
「ヤキモチ!?」
赤面しておろおろと困惑する小虎を尻目につい先ほどバイブ通知のあったスマホを取り出しそれに意識を向ける。
LI◯Eの差出人は桜花姉からだった。
『マジむり……綾人助けて。お姉ちゃんの一生のお願いだから放課後以降の予定空けておいて。お姉ちゃん今回は綾人がいないとマジしんどいから』
メッセージの後にぴえんのスタンプが押してあるのを見ると
俺は短く「了解」と返事を送った。
「あわわ、子川くんがわたしにヤキモチ
何を考えてるのか微妙に分からない小虎は難しい顔して一言呟いた。
「わたしって罪な女」
俺はお前が楽しそうで嬉しいよ。何考えてるか知らんけど。
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