恋と勝負とウエディングケーキ「お兄ちゃんのこと大好きな妹(義理)ですが、何か問題でも?」

久保棚置

プロローグ

妹のことは好き?

「自分の親が再婚した時って、どんな気分だった?」


 そんな質問をどこかの誰かにかれたら俺は多分、こう答えるだろう。


「仕方がないと言えば仕方ない事なんだと思う。親の再婚に子供が口を挟むのもなんか違うと思うんだよな。まぁ、そっちの好きにしてくれて良いよって感じかな」


 別に再婚すること自体は嫌じゃなかった。継母ままはは義母おかあさんは良い人だし、父子家庭で不自由な生活を送るくらいなら再婚してくれた方がこっちも後々になってありがたいと思えるから。二十歳になった今は親父の決断に感謝だってしているくらいだ。


「じゃあ、義理の妹がいるのってどんな気分?」


 そんな答え辛い質問をされたら、俺は苦し紛れにこう返す。


「別に、特に何も感じない」


 四歳年下の妹が出来て対人関係は劇的に変わったけど。それは結局、ただ妹が出来ただけ。所詮、妹は妹。それ以上でもそれ以下でもないから。


「えー……恋人が欲しいって思わないの?」


 そんな答えが分かりきった野暮な質問をするやつが俺の身近にいるとは思えないけど、不測の事態を想定して返答は慎重にするだろう。


「将来的に欲しいとは思うけど、今すぐに欲しいとは思わないかな」


 これはモテない男のただの見栄張りだ。けど、複雑な家庭事情を抱えているだけに『その事』を理解してくれる相手が中々見つからないのも事実といえば事実なんだ。


「ふーん。年下は恋愛対象外だったりするの?」


 そんなませた質問をする人物は間違いなく俺よりも年下なんだろうな。

 その質問に答えるなら「そんな事は無い」と前置きを入れてこう答える。俺の場合ならだけど。


「恋愛に年齢差は関係ないと思う。まぁ、でも流石に『未成年の子供』とは付き合えないかな」


 高校時代ならいざ知らず、つい最近になって成人を迎えた二十歳が十八歳未満の未成年と交際するのは都条例に違反する立派な犯罪だ。


「じゃあ、大人だったら付き合うの?」


 似たような質問を四年くらい前に小学生だったおませな妹に訊かれた気がする。


「ああ、その時が来て、俺に恋人がいなくて、なおかつ他に好きな人がいない場合なら、考えなくもない……かな」


 当時は高校生だった俺が小学生の戯言を真面目に受け取るかと言えば、それはやはり否である。適当に返事をして煙に巻いたのは今でも覚えている。


 自分でも肝心な部分には一切触れていない卑怯な返事だと思っている。


「じゃあ、妹のことは好き?」


 そんな意地悪な質問する奴は間違いなくあの妹だろうな。その質問に答えるなら「ああ、それなりに好きだよ」と返すだろう。


 間違っても『love』ではなく『like』の方だ。まぁ、そんな風に返したら誤解されるかもしれないけど。


「本当に好きなの?」

 もしも。

「じゃあ、なんで一人で家を出て行ったの?」

 何かの拍子に。

「帰ってくるのずっと待ってたのに……あれから一度も家に帰って来てないじゃん。もう一年も経つんだよ? ねえ、なんで?」

 妹からそんな質問をされたら。

「分かってるよ。“本当の妹”じゃないから──邪魔、なんだよね?」

 そんな風に問い質される日が来たら。

「……やっぱりお兄ちゃんは莉奈りなのことが嫌いなんだ」


 俺はその時にちゃんと答えられるのだろうか──

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