第七話 従者!?

 オルガはルーゼンベルグ家の下働き。綺麗な赤い髪が目立つリディアと同い年の青年だ。

 ルーゼンベルグ家の庭師の息子で幼い頃から父親の元で一緒に働いている働き者だ。

 幼い頃からリディアとはよく一緒に遊び、とても仲が良かった。


 お母様は下働きの者と親しくなることを好まず、よく注意されたが、兄弟のいないリディアにはオルガは大事な友でもあり兄弟のような存在でもあった。お母様には隠れてこっそりとよく遊んだものだ。


 今回の入れ替わりのための魔術士を探し出してくれたのも、このオルガだった。

 オルガには入れ替わりのことは詳しく話さなかったのだが、リディアが何か悩んでいる様子だったのを心配し、魔術士を何年もかけて探し出してくれたのだ。


 婚約についても相手があの冷徹王子だということで、とても心配をしてくれていた。

 リディアの中身がカナデになってしまったことを伝えてはいない。きっととても悲しむのだろうな、と胸が苦しく申し訳なくなる。

 一年後にまたリディアが戻って来るからね、と心の中で謝った。


「お嬢? ボーっとしてどうした?」


 オルガが顔を覗き込んできた。


「え、あ、ううん、何でもない。いきなりオルガが来てくれてびっくりしただけ」


 オルガはニッと笑い、正面に跪いた。


「お嬢、大丈夫? 嫌なことない? 疲れてない? 身体は元気? 俺は中々会いに来れなかったから心配した」


 私の両手を自分の両手で優しく掴み、心配そうな顔で聞いた。


「オルガ、無礼ですよ」


 マニカが慌ててオルガの肩を掴み引き戻そうとした。


「マニカ、良いよ。私もオルガに会えて嬉しいし。でもそれにしても急にどうしたの?」

「お嬢にどうしても会いたくて、荷物運びして来た」


 両手を掴みながらオルガは満面の笑みで話す。


「お嬢の好きなハーブもいっぱい持って来たぞ!」


 オルガの後ろの方、部屋の入口を見ると色々な荷物が置かれていた。

 箱に詰められ山積みにされている。


「ハーブ以外にもお嬢の好きなお茶やらお菓子やら、本とかもいっぱい持って来たから」


 強く手を握り締め言う。


「ありがとう、オルガ、嬉しいよ」


 ルーゼンベルグの屋敷にいたときには毎日会っていた。それが王宮に来てからはめっきり会えなくなり、忙しいせいで思い出す機会も少なくはなっていたが、やはり寂しかった。

 だから会いに来てくれたのは素直に嬉しかった。


「ねぇ、お嬢」

「どうしたの?」


 やけに真面目な顔になり、真っ直ぐにこちらを見詰めて来た。


「俺をお嬢の従者にしてくれない?」

「え?」

「何でもするからさ! 従僕でも良いから! 雑用とかも全部するし!」


 真剣に訴える。


「うーん、私の一存では決められないし……」

「お願いだ! お嬢の側にいたいんだよ!」


 慕ってくれているのは嬉しいし、オルガが側にいてくれるのも嬉しい。


「お父様に手紙を書いてみるね」

「やった! ありがとう、お嬢!」


 オルガは立ち上がり身体全体で喜んだ。


「お嬢様、良いのですか?」

「え? お父様に手紙を書くこと?」

「いえ、そうではなく……」

「?」


 何故か言いづらそうだ。何だろう。


「マニカ?」

「いえ、その……奥様がオルガのことを良く思ってらっしゃらないので……」


 それを耳にし、オルガは固まった。


「確かにオルガと仲良くしているのは良く思われていないと分かっているけど、従者になるくらいは大丈夫じゃない?」

「いえ、仲良くしていることを良く思っていないのではなく……オルガ自身を……」

「え? どういうこと?」


 オルガが真面目な顔をして話し出した。


「お嬢は覚えてないみたいだけど、五歳のときに俺たち街の外まで遊びに出て魔獣に襲われたんだ」

「えっ!」


 オルガは俯き、マニカが続けた。


「そのときはたまたま魔獣狩りに出ていた宮廷騎士団に助けられたのですが、お嬢様は大怪我を負って一度心臓が止まったのです。その後何とか蘇生出来て怪我も次第に治ったのですが、その事で奥様はオルガが連れ出したからだ、と酷くお怒りになられて……」

「そんな……」

「そのときのお嬢様は襲われたショックからか記憶をなくされていて。オルガも何も言わないものですから、全てオルガの責任として扱われました」


「俺のせいだから……」


 オルガは苦しそうな表情で言う。


「覚えてない……」

「お嬢様は記憶をなくされていましたし、その後も怪我が治るまでずっと療養されすっかりと元気がなくなられてしまいましたから」


 長くベッドに横になる日々があったことは記憶にある。しかし襲われたとされるその日以前の記憶が曖昧だ。幼かったこともあるが、かなりの恐怖だったのだろう。


 しかしオルガが外に遊びに出ようとするとは思えない。もしかしたら私が出ようとして止めたのかもしれない。

 それでもオルガが当時何も語らなかったは、幼心にも私を守ろうとしてくれていたのかもしれない。

 そんな気がする……。


「オルガ」


 オルガを真っ直ぐに見詰めた。オルガの瞳は茶色いがたまにキラキラと琥珀色にも見える。


「お嬢?」

「オルガ、私のことずっと庇ってくれてた?」

「!! 違うよ! お嬢は何も悪くないよ! 俺がちゃんと考えられてたら良かったんだ……」

「ありがとう、オルガ……オルガ、私のこと好き?」

「!?」


 オルガはバッと音が出そうな程、勢い良くこちらを見た。そして顔を真っ赤にし片手で顔を隠しながら、


「す、好きだよ! 俺は昔からずっとお嬢が好きだ!」

「ありがとう、私もオルガが大好きだよ」


 ニコリと笑った。やはりお父様に許可をもらおう。


「お嬢様……」


 マニカの溜め息が聞こえた。


「え?」

「お嬢様は罪なお方ですね…」

「えぇ!?」


 何それ!? 何で!? 何か悪いことした!?


「分からないなら良いです……」

「えぇー!! 教えてよー!!」


 マニカのさらに深い溜め息が響き渡った。

 その後ろではオルガが真っ赤な顔のままデレデレしてる?

 一体どういうことなのー!?

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