第12話 チート魔法その1 無限回復

「新しくこの傭兵ギルドに配属となったノーザン・フェルマーでやがるわ」



 俺の考えは、一瞬でこの頭のおかしいリーダーによって水の泡となる。


あーあ。


サナル、顎が外れそうになってるやん(´・ω・`)


けど、サナル以外の反応に何も無いところを見ると、本当に1部の人しか関わってないんだろうな。


アユムが無反応なのも多分そう言う事だろうし。


エイリスが嘘を言わなすぎるのも考え物だけど。



「これからの仲間として切磋琢磨しやがりなさい!」



 ぺこりとお辞儀をすると、拍手が沸き上がる。


受け入れられてるようでむず痒かったけど、同時に孤児院で感じたような温かさを感じた。




 そんな感じでまずは軽く模擬戦って事になったんだけど。



「坊っちゃんなんて言って悪かったなノーザン。おめえの気持ちも考えず、軽率だった」



 いきなりサナルが相手か。


包帯を取り出し、拳に装着する。


マイルが施してくれた魔法のお陰で一瞬で装着が完了する。



「こちらこそ、騙したみたいですみません」


「気にするな。嫌な事を思い出させちまったんだから当然っちゃ当然だ」


「俺も気にしてないので」



 サナルは持ってる薙刀を構える。



「安心しなノーザン。喰らったら死ぬほどいてえってだけだからな」


「手加減はしなくて良いです。サナル」


「漢気あるやつぁ嫌いじゃねえぜ」


「強くならないと、意味が無いですよね」


「てめえにゃ敬意を表すぜ。ノーザン」


「フェルマーで良いですよ」


「忘れたくねーだけだ」



 リスペクトの中にある確かな圧力を感じる。



「始めやがりなさい!」



 周りが武器での攻防を繰り広げる中、俺はサナルを前に動かないでいる。


素手VS薙刀。


薙刀は2m位はあるだろうか。


そんな武器を相手に安易に攻撃を仕掛けるのは無謀だ。



「ほー。突っ込んでこねえんだな」


「分かってて言ってるでしょう」


「はは! ちげえねえ!」



 猛スピードで放たれた突きを間一髪で避け、顎に左フックを思いっきり見舞う。


避けられるかと思いきやサナルにクリーンヒットする。



「ぐっ!」



 顎に喰らったサナルは後退する。


あ、あれ?


手応えがあった事に違和感を覚える。


また肩透かしなの!?


瞬間、サナルの突きが俺の肩に直撃する。



「がっは……!」



ガードもスウェーも出来ないまま、俺は吹き飛ばされる。



「おいおい油断し過ぎだぜ?」



 よく見ればサナルの顔に傷が1つもない。


な、何で?


つーかすっげえ重い。


骨の芯まで貫かれた感じだ。


サナルは構え、俺を見る。



「ノーザンの最初の相手が俺たぁ、お嬢様にさぞ可愛がられてんだろう。だからこの程度じゃねーだろ?」



 深呼吸し、立ち上がる。


幸い気絶するような攻撃じゃない。


けど、大きなビハインドを背負ったのは事実。


何で喰らって無いのかは分からないけど、理由を戦いの中から見つけるしかない。



「来ねえなら行くぞ!」



 遠慮の無いサナルの突きを後ろに飛んでかわす。


こう言う長い武器を使う相手に攻撃する場合、ギリギリで避けてカウンターの方が圧倒的に良いと思うけど、今はダメージの回復が先だ。


突きが大振りじゃない分、連続で来るのも地味にキツイ。


何とか間一髪でかわし切り、距離を開けてお互い見合う格好になる。



「今のをかわし切るたぁな」


「どんな魔法を使ったんですかね」


「戦ってる敵に情報を教える奴がいると思うかい?」


「模擬戦ですから聞けるかと」



 心臓目掛けて放たれる突きをギリギリでかわし、今度はハイキックをサナルの顔面にクリーンヒットさせる。



「ぐっ……!」



 まただ。


避ける素振りが無い。


目を疑う光景がそこにあった。


みるみる傷が再生……してる!?


俺の足の爪が引っ掛かって出来た切り傷がみるみる治ってく。


……無限に回復する敵、RPGにいたなぁ(´・ω・`)


じゃなくてチート過ぎだろ(# ゜Д゜)


魔陣札を使った様子が無い。


って事はあらかじめ使っておいたんだろう。


これがステラが言ってた上位魔法ってやつかも。



「その魔法はずる過ぎますね……」


「この得物に対して一歩も引かねえノーザンも大したもんだぜ」



 ってか、どうやって倒すんだこれ。


くらわないようには出来るかもしれないけど、どう考えても勝てない。



「回復する前に削らせぁしねぇぞ。お嬢様くらいにしかできねぇけどな」



 避けなかったのはわざとって事か。



「仕留めさせてもらうぜノーザン!」



 長時間の戦いに体の疲労も隠せない。


何とか避けるけど、サナルがすかさず連撃を仕掛けて来る。


ギアも上げて来たみたいだ。



「そこまで! やめやがりなさい!」



 俺の目先に薙刀の切っ先が来たところでエイリスの号令がかかる。


滴る汗が、この戦闘の結果を物語る。


サナルが手首の入れ墨のような模様に手を当てると、薙刀が消えた。


魔陣札のようなものなんだろう。



「まだわけえってのにここまで動けるたぁな。見事だったぜ」


「いや……」



 完敗だ。


魔法もそうだけど。


単純に強かった。


しかも戦い方を分かってる。



「ありがとうございました」



 握手を求めると、サナルは申し訳無さそうな表情をしながらも、手を握って来る。



「言ってくれればいつでも相手するからよ」



 そう言って伸びをしながら悠々と去っていくサナル。


そんな後姿を見ながら思った。


悔し過ぎた。

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