第15話 仲違い 【ざまぁ回】


〜〜デオック視点〜〜


ドンッ!!


 俺は宿屋のテーブルを叩いた。


「どういうこった!! 4回も挑戦して、3個だぞ!! たった3個の魔硝石しか獲ってこれなかった!!」


 仲間達は顔を伏せる。


「しかも全員、傷だらけ!! おまけに等級が2つも落ちちまった!! もうすぐS級だったのによ!! 今はC級だぞ!! これはどういうこった!?」


太っちょの魔法使いドドは眉を寄せる。


「もしかしてさ……。ゼロっちがいなくなったから、こんなことになったのかな?」


 そうかもしれん。

 俺も同じことを考えていた。


 戦士霧丸はカーテンの隙間から外を見て、賞金稼ぎがいないことを確認する。


「バカをいうな。奴の腕は拙者に劣るんだ。いなくなったところでどうということはない」


「でもさ……。霧丸がゼロっちに戦いを挑んだら、いつもゼロっちが降伏するじゃん」


「奴は腰抜けだからな。それに力の差は明白。俺が奴の剣を吹き飛ばしたのを見たことがあるだろう?」


「確かに、1回目の戦いはね。でも、その後はゼロっちから降伏ばっかじゃん」


「何が言いたいのだ?」


「も、もしかして……3年の間で強くなってたかもよ? あいつ、わざと負けていたのかも」


「なぜだ? わざと負ける理由がどこにある?」


「それは……。わかんないけどさ。なんか、力を隠してたとか??」


「はん! そんなことをしてなんになるのだ? 弱い者はパーティーで雑用係になるのだぞ? あいつにとってなんの得がある?? 損しかないではないか!」


「それは……そうだけどさ」


 うーーむ。たしかに霧丸の言うとおり、ゼロが力を隠す理由がよくわからん。

 しかし、あいつは俺達のことが好きだったからな。もしかしたら遠慮して隠したのかもしれん。

 そうなるとやはり……。この失敗続きはあいつがいなくなったことが大きいのか……。


「チッ! 殺すんじゃなかったかもな」


「でもさ! ゼロっちがいなくなったのは正解だよ! 毎日ビール飲み放題だし、ピザも豚の丸焼きも食べ放題だもんね!!」


「ばか! おかげで食費がかかってるだろうが!! 20万エーンを用意しないとこの街から出られないってのによ!!」


「なーーに。明日になれば、ゼロが死亡して1週間になる。ギルドに死亡が認定されれば、奴の預金通帳が下ろせるではないか」


 そうか! その手があった!!

 ゼロの貯金、126万エーンがあったんだ!!


 しかし……待てよ。

 こいつら、正直足手まといだぜ。ゼロがいなくなってからは、俺が全部助けている。

 こんな奴らとは早めに縁を切るのが良いってもんだ。


 やれるならぶっ殺してもいいが、ここは王都のど真ん中。派手な事件は城の衛兵達が動く。そうなれば賞金稼ぎどこじゃねぇ。あっという間に捕まって打首にされっちまう。

 ……なら、騙すしかないか。

 こんな奴らに126万エーンは渡さねぇぜ。


「へへへ……。おい霧丸。その預金通帳は俺が預かるぜ」


「…………なぜだ?」


「な、なぜってお前……。そ、そりゃあ、みんなの命綱だ。大切な物だからよ。リーダーの俺が持つ方がいいだろがよ」


「……………デオック。貴様は信用してない訳ではないが、せ、拙者が持っておく」


 チィイッ! この野郎、鋭いな。何かを勘付きやがった!

でも、これだけは譲れねぇ。多少強引でも通帳は貰うぜ。


「霧丸。今回の挑戦。全部失敗したよなぁ? お前の命を助けたのは誰だったかなぁ??」


「……く」


「リーダーの俺だよなぁ。俺の高速移動眼ターボアイのスキルでお前を助けんだよなぁ?」


「だ、だから……なんだ?」


「リーダーのことが信用できないなんてふざけているとは思わんか?」


「んぐ……」


「さぁ。その預金通帳を渡せ! リーダーの言うことを素直に聞きやがれ!」


 霧丸はやむをえず俺に通帳を渡した。


 ククク……。それでいいんだ。


「安心しろ。俺がみんなの金を大事に保管してやるよ」


 んなことする訳ねぇだろ。

さぁて、今夜にでもこの宿を出て隠れるとするか。



◇◇◇◇



──深夜。




 俺はみんなが寝ているのを確認してこっそり宿を出た。




 外。



 ククク……。この預金通帳は明日こっそり下ろしてやるよ。

 おめぇ達は仲良く冒険してな。


「こんな街、おさらばして、また新しい人生のはじまりだぜ」


 今度はもっと強い仲間を集めなくちゃな。


 俺が踵を返すと目の前に男が立ち塞がる。



「そんなことだろうと思ったぜ」



 現れたのは霧丸と他のメンバーだった。


 クソ! 気づいてやがったのか。

 しかし、まだ言い訳はできるかもしれねぇ。


「へへへ……。こんな遅くにどうしたい? みんな寝てたんじゃねぇのか? 俺は夜風に当たりたくってよ。ちょいと外に出ただけなんだが?」


「ふざけるなよデオック! そんな嘘が通じるか! 貴様の考えは見え見えだ。その預金通帳の金を独り占めしようって魂胆だろう!」


 チィッ。やっぱりバレてたか。


「だったらなんだよ? おめぇ達は俺に命を助けられたんだぜ。いわば俺は命の恩人だ。そんな俺が金を貰ったってバチは当たらねぇだろが!」


「バカをいうな! それはみんなの金だ!!」


「バカはそっちさ。たかだか126万の金だ。4人で分けたら大した額にならねぇよ」


「だったら力づくで奪い返してやる」


 クソ……。面倒なことになったぜ。

 3対1じゃ、分が悪い。

 俺が勝っても傷を負ったらこの先の旅に差し支えるぜ。



「へへへ。悪いなみんな。俺は勝敗なんてどうでもいいんだ。この金さえ入ったらな!  高速移動眼ターボアイ!!」



 俺の右目が真っ赤に光る。スキルの高速移動が発動する。

 即座に逃げ出した。



ギュゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!!



「逃がすか!! おいドド! ガルパチョフ! やれ!!」


「ぼくだってお金欲しいんだ!! ファイヤーダーン!!」


「俺……金で……女……抱きたい……ウインドダーン!!」



 チィッ! 火と風の遠距離攻撃魔法か!


 さっとかわすも背中に火球を受けてしまう。


ボン!!



「んぐッ!!」



 ここで倒れたら追いつかれちまう。



「タ、 高速移動眼ターボアイ!!」



 更に速度を上げた。



ギュゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!!



 よぉし、距離を取れたぞ。ここまで離れれば安心だ。


 遠くの方で霧丸達の声が響く。


「クソがぁあああ!!」


「デオックの人でなしぃいいいーー!! フルコースを食べたかったのにぃいい!!」


「女……抱きたい……!!」


 ククク……。仲間なんて利用するモンなのさ。

 にしても、熱っちぃいな。背中が大火傷だぜ。

 人気の無い所で鳴りを潜めて傷の手当てをしようか。

 そして明日になれば……ククク。楽しみだぜ。

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