男女混合10km走

トマトも柄

第1話 男女混合10km走

 この街には年に一度のマラソン大会があります。

 制限は特に無し。

 誰でも参加可能で自ら立候補したら参加できるというマラソン大会です。

 自ら立候補し、参加が出来るという10km走があるのです

「さぁ今年もやってまいりました! 男女混合10km走! これは学園のエントリーした者が集いし、勝負を繰り広げる! まさに己と己の対決なのである!」

 興奮した様子で実況が盛り上げようとマイクに向かって話し始める。

「私、実況と横にいる解説さんでこのレースをお届けしようと思います。 では、解説さん何か一言お願いします」

「解説です。 今日は年に一度の10km走ということで皆さんの盛り上がりが凄く伝わっております。 私も皆様も同じでとても楽しみにしております」

「解説さん、ありがとうございました」

 二人は一礼して周りに挨拶をした。

「ではここで10km走の説明に入ります。 この10km走は立候補によって参加した者、全ての人に参加権があります。 そして、今回の立候補者によるご協力によりこの10km走が開催されました。 誠にありがとうございます」

 そして二人は実況席の前にあるモニターを見て画面を確認します。

「皆さん気合が入っていますね。 これはとても楽しみなレースになりそうです」

「実況さん。 現時点での参加者の人数はどれくらいなのでしょうか?」

「現時点で把握してるだけでも約100人の参加が確定しています。 まだレース開始まで時間がありますので少しお待ちしましょう」

「今回約100名の方が参加して下さるという事で名前とかの把握とかは出来ているのでしょうか?」

「今回、私も誰が参加してるかは分かっておりません。 あまりの参加者の数で名前を覚えきれないと判断しましたので、選手にはそれぞれに専用のゼッケンをご用意しております」

「つまり、参加者人数分に番号が割り振られているのですね」

「その通りです。 皆様を名前を呼ぶことが出来ず申し訳ありません」

 そして二人はモニターを見直して、選手達の調子を見ている。

「どうやら皆さんの準備が出来たようですね」

「実況さん。 開始の合図はどうするのでしょうか? 後方だと音が聞こえないように感じますが」

「今回は大人数という事で大型スピーカーを積んだ車を二台用意して開始と同時にブザーを鳴らして全体に聞こえるようにしています。 全体の最後方にも聞こえるようにテストも行ってました。 運営側の準備もばっちりです」

 モニターの向こう側で選手達が走る準備を整えている。

 皆がまだかまだかとウズウズしていた。

「では男女混合10km走! いってみましょう!」

 その実況の掛け声とともに大音量のブザーが鳴り響く。

 そして、全員が一斉に走り出した。

 ブザーが鳴って即に一人だけ前に抜きんでたのが現れる。

「おおっと! スタートと同時に一人で独走している人が出ました! このペースは大丈夫でしょうか。 解説さんどうでしょうか?」

「三十九番ですね。 かなり速いペースで維持していますね。 話をお聞きした事がありまして三十九番はマラソンの経験者で好記録を叩き出している事で有名ですからおそらくこのペースがベストと考えたのでしょう」

「なるほど。 マラソン経験者の方でしたか。 なら、このペースの維持も問題ないという事ですね」

 その後方で数名が引き離さまいと喰らいついた状態で後ろにいる。

「後方にも数名がそれぞれのペースで維持していますね。 喰らいついているのは六十二番と六十四番ですね。 その後ろには七十三番と五十一番ですね。 これは誰かが追い抜こうとしてもおかしくない状況ですね。 どう状況が入れ替わるでしょうか? 解説さんの見解はどうでしょうか?」

「いや、私の考えではこの状況は現状で維持すると思います。 今ここで追い抜いたとしてもスタミナが持つかどうかの問題になってしまいますからね。 そして、これは競争ではございません。 あくまでマラソンであり、自分との闘いでもあるのです。 目先に囚われて全てを失うってのは本末転倒ですから」

「ありがとうございます。 皆さんもお聞きの通り、これは競争ではありません。 必ず自分のペースを貫きましょう。 このマラソンは完走が目的という事をお忘れなく」

 そして、1km突破の看板を皆が突破していく。

 看板を確認しようと振り向く者はいない。

 皆が走るのに夢中であるからだ。

 周りは柵を超えないようにギャラリーがみんな応援している。

 その声援に全員が答えることは無く、前を突っ切って走っている。

 皆は分かっているのだ。

 声援に答えて欲しい訳ではない。

 前を走る姿が皆見たいのだと。

「あれから1kmを超えてまもなく2km付近になろうとしています。 今のところは現状維持ですね。 幸いにもリタイヤする選手もいなく、とても嬉しい限りです」

「リタイヤが出ないのはとても良い事ですね。 もし限界が来たらスタッフに連絡して下さい。 リタイヤの手続きが取れますので。 何よりも自分の体が大切という事を忘れないでください」

 周りのスタッフも選手の顔色を見ながらそれぞれが警戒を行っている。

 そして、実況席にいるスタッフが実況に耳打ちをする。

「只今の状況では顔色の優れない選手は見当たらないとのスタッフの報告が入りました。 とは言ってもいつどうなるか分かりませんのでスタッフの方は引き続き警戒をお願いいたします」

 5kmを超えようとしていると動きの変化が見られた。

「おっと! 六十四番が少し前に出始めましたよ! これは一気に出る予定か!?」

「いえ。 これは現状維持でしょう。 そんな急激にスピードを上げると後のスタミナが持ちません。 おそらくですが、この二人はライバル意識を持っているのでしょう。 普段から一緒に走っていたというのが分かりますね。 これは面白い事になっていきそうです」

「これはお互い競ってるっていう事ですか! どうなるか楽しみですね」


そこから7kmを超えようとしている時、

「七十三番と五十一番は現状を維持しているようですね。 六十二番と六十四番から少し離れていますが自分のペースを貫いていますね」

「実況さんにはそう見えているのですか。 私には全然違うように見えていますよ」

「と、言いますと?」

「一位を狙っているように見えますよ。 今はまだ潜めているだけですよ。 あの目は勝負をしている目ですよ。 見逃せないですよ」

「勝負を仕掛けるとしたらどのタイミングでしょうか?」

「おそらく9km超えた所でしょう。 全員が身構えております。 そこになったらかなり動くと思います」

「解説さん、ありがとうございます。 これは前方にいる人達は完走が目的ではなく、勝負をしているという事です。 これは見逃せないですね」


 そして、9kmを越えたとき、勝負が始まった。

「9kmを越えました。 七十三番と五十一番がペースを上げてきています! 徐々にではありますが、六十二番と六十四番に近づいています」

「これは一気にペースを上げてきていますね。 今まで体力を温存してたのでしょう。 これは勝負が分かりませんよ」

「それに今までトップを独走していた三十九番に追い付いてきています。 これは見離せませsん!」

「これは凄い勝負になりそうですね。 ただ一つ忘れてはならない事があります」

「何でしょうか? 解説さん?」

「これはマラソンという事です。 完走が目的なのです。 誰が速いかの勝負ではありません。 どんな結果であれ選手達を讃えましょう」

「それはもちろんでございます! 選手達を讃えてこそこの10km走が存在するんです。 皆さんもそこをお忘れなく」

 そして、600m、500mと徐々にゴールが近付いていく。

 そして徐々に三十九番に近付く六十二番と六十四番。

 そしてすぐ後方には七十三番と五十一番が付いている。

「並んだ! 六十二番と六十四番が三十九番に並びました! これはどうなる!?」

 そして並んだままそのままゴールに近付いていく。

「並んだ! お互いに並んだまま近付いていく! どうだ! どうだ! ゴールまであと少しだ!」

 そして、三人が並んだままゴールまで突き進んだ。

「三人同時にゴールしたー! これは凄かった! 素晴らしいマラソンでした! 遅れて七十三番と五十一番もゴールイン! 冷静な走りを見せてくれてとても素晴らしかったです」

「実況さん。 まだマラソンは終わっていません。 全員が完走するまでがマラソンなのです。 皆様は今、素晴らしい走りを見せてくれています。 皆様の勇士を見ていきましょう」

「はい! 皆様の素晴らしい走りを最後の一人になるまでお届けしようと思います。 ここにいるのは勇気を持った戦士達なのです! 自らが立ち上がった戦士達なのです! ここで勇士を見届けるのが我々のできる協力なのですから!」

 このマラソン大会は最高潮で終わり、途中で疲れて歩いてしまう者も出てはいたが、皆が完走まで頑張り、リタイヤ0人という数字を叩き出して最高の終わり方を迎えた。 










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

男女混合10km走 トマトも柄 @lazily

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ