第44話 「マラソンランナーと京都報告」

 大塚に朝が来た。空は、今日も青くどこまでも続く。いつ始まりいつ終わるのか、空は何か永遠のように見える。空と仲良しの明るい太陽が、僕の進む行き先と、世界をほっこりと照らしている。

 

 最近、僕は、体重を気にして歩いている。運動を兼ねた散歩である。だいたい駅半径3キロをぐるりとあてもなく回る。

 大塚には、当たり前に金八先生みたいに荒川土手あらかわどてはないから、街人は都会のコンクリートの道を、軽快に颯爽と歩くのである。

 俺の歩く道すがら、この時間帯は、なぜかランニングする「やすたか君」によく会う。


 彼との出会いはこんな風に始まった。


 コンビニのゴミ入れの手前で、しゃがみこんで、靴紐を結んでいる青年がいる。


 「おはようございまーす。」


 僕が後ろから軽い声で言うと、彼は「ビクッ」と驚くような反応をした。


 「おっ。すまん、すまん。びっくりした?」


 「はあ…どうも。」


 彼は警戒したような口ぶりで視線を上げる。何か体はイカツイのに、ベビーフェイスで優しい顔立ちをしている。

 服装は、秋なのに黒い短パンが寒々しい。カラフルなウィンドブレーカー、頭には、なんとも若者らしくないような、タオルをかぶって、後ろで結んでいた。


 「短パンでランニング?凄いねえ。寒くないの?」


 「いや、暑いです。」


 「そっかあ。しかし、ランニングは凄いねえ。中年は走れないよ、ランニングが好きなんですか?」


 「はい、まあ。ランニングしてて初めて話しかけられました(苦笑)」


 「あっ、そうなの?俺に会ったらしょっちゅう話しかけられちゃうからね(笑)」


 「いや、有り難いです。ランニングは、孤独ですから。」


 「だよなあ……なんかあれかい?嫌な事でもあった?」


 「はあ、いや、今日は特には。でも、そんな日もありますよ。嫌な事があるとやっぱり余計に没頭して、かなり走っちゃいますよね(笑)」


 「そうだよなあ、やはり心と身体は関係してるし、実際に身体が動くとスッキリするよなあ。俺も歩いて汗かくと爽快だよ。」


 それから、何度か、やすたか君には遭遇することになるのである。

 


 物語は新しい局面にマラソンランナーと共に先導されるように、展開していく。

 


一一一一一一一一一一一



 京都から、帰った僕は、彩花に連絡して、大塚の事務所で会った。そして、京都で、凛について分かった様々な事実を伝えたのである。

 

 そして僕は、彩花と、彩花自身が探しあてた手紙を一緒に読んだ。


 手紙からは、特に新たな事実を知るような内容は書かれていなかったが、そこには、親しげに大知に語りかける豊彦の姿が読み取れた。

 僕らは、「凛の父親の中村豊彦と、彩花の夫の高木大知が親しい友人だったこと。」についてしっかりお互いに理解したのである。かなり親しい仲だとはわかったが、一方で、やはり手紙だけのやり取りだったのはわかる。


 彼女は、「しかし…どういう事でしょうか?」と僕に言う。


 しかし、僕だってわからない…。


 「何故、親友の娘と大知が関係を持つのか。」、「関係は、凛の話すように関係までは、無かったとしても、大知が凛に対して、どんな感情を持っていたのか?単なる同情なのか?それとも純粋な恋愛感情なのか?」そして「何故大知は失踪したままなのか?」疑問だらけである。


 あとは探るなら「金沢で大知の幼少期を探る」くらいである。彩花には、そう伝えた。金沢に行けば、何かわかるかもしれないが、調査費用もかさむ。

 そして、やはり大知が再度現れ、彩花にあらゆる事について説明しない限り真実は明らかにはならない、ということは間違いないのである。


 大知は、心の整理が付けば、戻る可能性はあるのではないだろうか?



❶大知が戻る時期を待つか?


❷それとも、なんらかの方法で、さらに大知の幼少期、豊彦との関係性を探るなかで、大知の居場所をこちらから、突き止め探し出すのか?(とりあえず金沢に行くとか?!)


 この二者択一になる。そんな話し合いをしたのである。


 彩花は、思い詰めたように考えてから、顔をゆっくり上げてこちらを見つめて言った。


 「考えてみます。」

 何とも美しい真っ直ぐな眼差しである。黒目がちな瞳である。美幸と変わらないくらいは、可愛らしい。

 

 美幸の顔が浮かぶ。

 「女の嫉妬、怖っ。」僕はそう呟くのである。

 

 彩花に僕は、何が出来るのだろう。俺は、無力だな…。  

 じっと僕は静かに考えていた。



 

 …此処は大塚。僕は街の優しい探偵なのかなあ、わかんないなあ。




 



 

 ※そして、しばらく話は脱線して「桃介の猫探し(家出猫を探せ!)」に進んでいく。









 ※この小説は、大長編です。下記は時々に出てくる作者の独り言である。

 余りに長い。お互いに飽きる。だから、あえてノートでなく、文中に書きながら、読者と共に進んでいく小説スタイルである。

 最終的に10万文字を目指しています。普通に完結したら、字数か2万文字は足らないのである。10万字は多い。時間もないし、やばいピンチだなと思う。

 しかし、「災い転じて福となす」そんな言葉もある。こんな苦境から苦し紛れに足掻いた所に、名作が意外と生まれるのである。   

 多分🤔





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