第34話 「7.接骨院の奇跡」

  優しい探偵〜街の仲間と純愛と〜

  ーーー京都編❼




 「歩こう歩こう、私は、げんき〜♫」


 少し、原木さんのお陰て、光が見えてきた。足取りは軽いのである。から元気かもだけど、頑張るもん。


 寺町通りの「奈良接骨院」に到着した。


 しかし、小綺麗な接骨院である。


 「スーッ」自動ドアが開く。白衣を着た、男性がにこやかに迎える。ボサボサの白髪頭で、背の高い、輪郭のほっそりとした男性である。

 「こんにちは。」


 「まだ、やってますか?」

 17時をまわって既に夕刻である。


 「もう、締めるところですよ。」


 「すみません。実は、私は東京から来た探偵です。原木さんに伺いまして、中村重彦さんについて差し支えない程度に、お話を伺いたいんです。」


 「原木さん、ナルホド。原木さんが重彦の事をねえ……。」

 すこし考えこむような仕草が見える。


 「で、ですよ、間違っても、重彦さんの旅館の取り立てのたぐいでは、ありませんので警戒なさらずお願いしたいです。」

 僕は慌てて、言葉を加えた。


 「いや、それはわかりますよ。重彦……私も、連絡取れないんですよ。心配しています。」


 「行き先に心当たりは、ないんですか?」


 「いや、わかれば私が会いに行きますからねえ。ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。」

 不思議な笑い方をする。


 「そうですね、探偵さん。立ち話は疲れるでしょう。中へどうぞ。私も重彦が何処に居るか知りたいんです。なんでも情報は、教えて欲しい。協力しますよ、お話しましょう。」

 めちゃくちゃに良い人ではないか。


 接骨院の奥の扉を開けると部屋があり、案内される。実に質素な畳の座敷には、小さな丸いちゃぶ台1つと、古く日焼けしたタンスが1つあった。畳は和むなあ。



 「お茶どうぞ。」


 木村探偵事務所 木村玲きむられい、名刺を差し出す。



 「私は奈良賢次ならけんじといいます。しかし、よく私を見つけましたね。」


 「そうですねえ。奇跡です(笑)」


 「京都はね、3人あたれば、知り合いにあたる、なんて言うくらいですから、意外とみんな繋がりやすい街です。昔はですけどね…。」


 「なるほどに納得ですね。」


 「それで、何をお調べに?」


 「依頼人が居まして、プライバシーもありますから、お話は詳しくはできないですが…。」


 「大丈夫ですよ。個人情報の時代ですからね。何かと接骨院だって大変です。」


 「それで、中村さん一家について、何でも良いので、教えて欲しいんです。中村重彦さんとは、いつからお知り合いですか?」


 「重彦の夫婦は、いつからかなあ。もうかなり昔ですよ。

 金沢から越してきました……そうですね……確か平成何年かなあ。細川さんが総理大臣になったでしょう。ビックリしてねえ。そんな話を重彦さんと知りあって、暫くした頃に話題にした記憶がありますね。だから、調べたら何年頃かわかりますよ。」


 「はい、はい。それは、平成5年です。私は社会科教諭なのでわかります。現代史で言えば、政治の流れが変わった時期かなあ。」


 「重彦は、当時は40歳手前で。私は6歳年上でした。今は、私も73歳になりました。彼が腰が持病でしてね、当時は、かなり通院してました。重彦が、患者として通う中、自然に意気投合しましたね。金沢の話や、生まれた鹿児島の話も聞いたなあ。」


 「ははあ。」


 「一番は、やはり、金沢でだいぶ大変な思いをしたらしい。仕事を失くして、それで、奥様のみさおさんの実家のある京都に来て、旅館を継いだんですよ。操さんの実家は、元々は平山さんですね。」 


 「なるほど」


 「奥さん(操)の御両親は、まだ60歳前でしたけど、身体がふたりとも悪くてね。重彦さん夫婦に旅館を任せられて、安心したでしょう。お父さんが73、お母さんは78くらいで亡くなりましたね」


 「重彦さんの息子さんの豊彦さん、孫の凛ちゃんはご存知ですよね?」


 「もちろん知ってます。豊彦君は、金沢から来た時、まだ小学生でした。それから成人して旅館を手伝いながら、雅美さんと結婚して、凛ちゃんが生まれましたね。凛ちゃんも可愛らしい娘さんでした」


 「豊彦君は、まだ若かったのに。くも膜下出血でしたね。お葬式は少ない人ではやりましたよ。重彦も操さんも、雅美さん、凛ちゃん、みんな泣いていました。切なくてね」


 「原木さんに、豊彦さんが亡くなったのは、聞きました。本当にお気の毒でした。ご友人を思えば、お辛かったでしょう」


 「そうですね。重彦にもかける言葉がないし……。豊彦は若くて40歳でした。人生100年の時代に」


 「旅館は、やはり、豊彦さんがいなくなり、経営悪化したこともありますか?」


 「このご時世ですからねえ。なかなか旅館は、難しかったでしょう。豊彦君が居なくなり回らなくなったでしょうが、昔から火の車のようでしたよ。重彦も豊彦君に期待していたし、気力を失ったでしょうね」


 「閉めた時は、豊彦君が亡くなってましたよね。だから、凛ちゃんから見たら、お母さんの雅美さん、おじいちゃんの重彦さん、おばあちゃんの操さん。居たのは、この3人ですか?」


 「ですね。あと料理人の50歳くらいの男性が居ました」


 「ははあ。実は、一番知りたいのは、凛ちゃんのことなんです。」


 「ほう。なんでしょう?彼女は今は、何処に今居ますか?知っておられるんですか?」


 「凛ちゃんは、今は東京です。実は凛ちゃんがお付き合いしていた相手が行方不明なんですよ。それは大知さんという42歳のサラリーマンです。私は大知さんを探しています」


 「なるほど。それは困りましたね。しかし、42歳なら、豊彦君が生きていたら、同じくらいだね」


 「ん?!まてよ。奈良先生!重彦さん、中村さん夫婦は、金沢から来た、とおっしゃいましたよね?」


 「そう。確かに金沢です」


 「高木大知の生まれは、金沢ですよ」


 (まさか…大知さんと、豊彦君と関係性がある?)


 「豊彦君も、ヘルニアがあってね、親子ともに診ましたよ。豊彦君に、子供の時の友人と文通が続いてる話、聞いたことありますね。その方が、金沢の方なんじゃないかな」


 「う〜ん。たぶんそうだ」


 今どき文通は珍しい。しかし、確実に何かが繋がりかけている。僕は身震いした。

頭が急にぐるぐる回りだしたのである。



 (早く展開したいところだが、話が長くて疲れたので休憩したい。しかし話が複雑で皆さんに理解してもらえるか不安なのである。)


 奈良先生の話は続く。

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