第61話「プレゼント」
俺は有栖川さんを連れて、とある場所へとやってきた。
そこは、たまたま以前見かけて存在を知っていた、女性向けの小物を取り扱っているお店だった。
地元にもこういうお店は無くもないのだが、調べるとここはこういう都会にしかないお店らしい。
「わぁ、可愛いですね!」
お店へとやってきた有栖川さんは、店内に並べられているアクセサリーや小物類を見て、その目をキラキラと輝かせて喜んでいた。
そんな姿もやっぱり可愛くて、これまでも楽しそうにしてくれていたが、こんな風に女の子として楽しんでくれている事が嬉しかった。
やっぱり、せっかくこういう都会へ来たのだから、漫画とかだけでなく女の子としても楽しんで欲しかったのだ。
そして、ニコニコとお店を見て回る有栖川さんの事を、ここでも女性の店員さんはやはり驚いて凝視していてちょっと面白かった。
「どれか気に入ったのあった?」
「そうですねぇ……あ、これとか可愛いです!」
そう言って手にしたのは、トップがハート形をしたシルバーのネックレス。
それは透明感のある有栖川さんに、確かによく似合いそうだった。
「でも、高校生にはちょっと手が出無さそうですね」
しかし有栖川さんは、そう言ってそのネックレスを棚へ戻す。
よほど気に入ったのだろう、その表情はちょっぴり残念そうだった。
「れーちゃん、ちょっといい?」
「え?」
だから俺は、そんな有栖川さんに声をかけると、棚に戻したそのネックレスを手に取る。
そして、そんな俺の行動に驚く有栖川さんの首元に手を回し、そのままそのネックレスをつけてあげる。
「うん、やっぱりよく似合ってるね」
「そ、そうでしょうか?」
恥ずかしいのか、値段を気にしているのか、ちょっと困ったように微笑む有栖川さん。
でも俺は、やはりよく似合う事を確認すると、またそのネックレスを外してあげる。
「すいません、このネックレス下さい」
そして俺は、店員さんにそう声をかけた。
ずっとこっちを見ていた店員さんは、少し頬を赤らめながらも慌てて応対してくれて、ネックレスを受け取るとすぐにレジで精算を始めてくれた。
「え、け、健斗くん!? わ、悪いですよ!」
「その、あんまり上手く出来なくて申し訳ないけどさ、プレゼントさせてくれないかな」
「それはその、勿論嬉しいのですが……値段が……」
嬉しそうにしつつも、やはり値段の事を気にする有栖川さん。
確かに値札を見ると、高校生の自分からしたら決して安くはなかった。
これ一つで、漫画何冊買えるんだろうという値段だ。
でも、そうじゃないんだ。
これは俺が、有栖川さんにちゃんとモノとして何かプレゼントをしたかったから。
だから漫画が何冊買えるとか、高ければ良いとか、そういう話じゃない。
有栖川さんが欲しいと思っているものを、彼氏としてちゃんとプレゼントしたいという、これはある意味俺の我儘みたいなものだ。
こうして形として、自分は彼氏なんだって思いたいだけなのかもしれない。
だから俺は、我ながらもっと上手いやり方とかあるんだろうなぁと思いつつも、有栖川さんを安心させるように微笑む。
「何て言うか、俺の部屋を見て分かるように、俺って人間はこれまで漫画以外本当に無趣味な人間だったんだ。だから、変な言い方になるけど、高校生の割には余裕のあるっていうか、その……ごめん、ここは彼氏として、かっこつけさせて欲しい」
やはり上手い言葉なんて出て来ず、最終的に思っている事をそのまま口にしてしまう。
けれど、逆にだからこそ分かってくれたのか、有栖川さんはそんな俺の言葉に面白そうにコロコロと笑ってくれた。
「もう、健斗くんってば。――じゃあ、分かりました。私に健斗くんの気持ち、頂けますでしょうか?」
そして有栖川さんは、ニッコリと微笑んだ。
その微笑みからは、嬉しいという感情が溢れているようで、その可憐な微笑みを前に俺は見惚れてしまう――。
「ご用意出来ました! その、盗み聞きするようで申し訳ないのですが、あまりにも微笑ましかったので、ちょっとサービスさせて頂きますね」
そう言って店員さんは、レジで結構な割引をしてくれた。
「いや、それは申し訳ないです!」
「……いいんですよ、その代わり、これで浮いた分ご飯でも誘ってあげたらいかがですか?」
慌てて断ろうとする俺に、店員さんはそっと耳打ちをしてくる。
その言葉に恥ずかしくなりつつも、ここは有難く首を縦に振り精算を済ませる。
「はい! では丁度頂きますね! お二人とも、また来てくださいね」
ひらひらと手を振りながら、にこやかに見送ってくれた店員さん。
俺も有栖川さんも、そんな店員さんにお礼をしつつ、お店をあとにした。
「良い店員さんでしたね」
「そうだね」
今は大事にしまっておきましょうと、有栖川さんはプレゼントしたネックレスの入った包みを嬉しそうにバッグへとしまう。
そして、すっとその細くて綺麗な手を差し伸べて俺の手をぎゅっと握ると、それから嬉しそうにやわらかく微笑む。
「では、そろそろ帰りますかね?」
「そうだね、もういい時間だからね」
夕焼け空を見上げながら、俺は返事をする。
こうして、初めての都会デートを無事終えた俺達は帰る事にした。
電車内で有栖川さんは、ずっと嬉しそうにネックレスの入った包みを眺めていた。
俺が開けないの? と聞くと、これは帰ってからの楽しみなんです! と言って、また微笑んでいた。
そんな風に喜んでくれている事が、俺もやっぱり嬉しくて、自然と笑みが零れてしまう。
そして、そんな風にずっとニコニコしている有栖川さんは、最早当然のように周囲の注目を一点に集めてしまっているのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます