第42話「約束」
ケンちゃんの散歩を終え、帰宅した俺はいつも通り晩御飯を食べ、そのままお風呂を済ませると部屋のベッドへ大の字に倒れ込む。
そして手にしたスマホを画面を眺めると、自然と口角が上がってくるのであった。
何故そんな事になっているのかと言えば、それは有栖川さんから送られてきた散歩中撮った写真が表示されているからに他ならない。
その写真には、学校一の美少女で『難攻不落の美少女』だなんて呼ばれるあの有栖川玲が、自分の隣にくっつくように微笑んでいるのだ。
はっきりいって、あり得ない。
あり得たんだけど、あり得ないのだ――。
もう自分でも何を言っているか分からないけれど、とにかくそのぐらいこの画像の持つ情報量は凄まじいのであった。
――やっぱり有栖川さんって、綺麗だよな……
そして写真を眺めていると、俺はしみじみと有栖川さんという存在の凄さを実感する。
それに対して自分の普通さに若干嫌気が差してくるが、きっと隣に居るのが俺じゃ無くてもきっと大差ないだろうと思えるだけまだマシなのかもしれない。
ピコン――。
すると、丁度今考え事をしていた有栖川さんからメッセージが届く。
『酷いです一色くん! 消すって言ったのに!』
何だろうと思ったら、それは有栖川さんからの苦情メッセージだった。
何の事だろうなんて言わない、それは勿論先程有栖川さん宛に送った最初に撮った写真の事で間違いないだろうから。
俺が送った、有栖川さんの姿が思いっきりブレてしまっている一枚。
しかし凄いのが、そんなブレているにも関わらずそこに写り込んだ女の子がとんでもない美少女だと分かってしまうところだ。
――これはもう、覇気の一種かもしれないな
なんて馬鹿な事を思っていると、またしても笑えてくる自分がいるのであった。
我ながら、有栖川さんと知り合ってからよく笑うようになったと思う。
これまでは、人と関わる事が嫌いだったり苦手なわけではないのだが、一人が気楽で好きだから積極的に関わろうとしてこなかった自分だから、その分あまり笑い合ったりなんて事もしていなかったように思う。
だから俺自身、そんな個性豊かな有栖川さんと過ごす日々が楽しくてしょうがないのであった。
次会う時は一体どんな一面を見せてくれるんだろうと期待している自分がいて、そして有栖川さんはそんな自分の期待にこれまで必ず応えてくれているのである。
もし俺が漫画の主人公だったら、きっと読者も納得のクオリティーだと思える程に。
――だからやっぱり、有栖川さんは漫画の世界――まるで異世界クオリティーなんだよな
そんな、まるで異世界な有栖川さんのおかげで、俺自身見える世界がまるで異世界かのように確かに変わっていっているのであった――。
◇
それから暫く、俺は有栖川さんと他愛の無いメッセージのやり取りを楽しんだ。
心なしか有栖川さんとの距離も近付いているようで、交わされるメッセージも以前に比べて随分砕けた感じになってきていた。
『では、今からお借りした漫画を読んで寝ようと思います!』
『はいよ、おやすみなさい』
『はい! あ、それで一色くん、明日は何時に伺えばいいでしょうか?』
『あー、そうだね。お昼は済ませてからの方がいいと思うから、昼の一時とか?』
『分かりました! ではまた明日!』
こうして、今日の有栖川さんとのメッセージは切りよく終わったのであった。
その事に俺は満足しつつ、また明日有栖川さんと会える事が純粋に楽しみで嬉しかった。
しかも、どこに行くとかではなくうちに遊びに来てくれるのだ。
こんな嬉しい事、俺の人生で他にあっただろうか? と思える程、それはもう人生のピークと言っても過言ではない事が現実で起きてしまっているのであった。
◇
そして次の日。
今日は休みだというのに、俺は平日と同じように目が覚めてしまった。
普段ならこのまま二度寝をするところだが、今日はこれから有栖川さんが遊びに来るのだと思うだけで、もう完全に目がバキバキに冴えてきてしまうのであった。
――仕方ない、とりあえず顔洗ってくるか
そう思い俺は、洗面台へと向かう。
「あ、お兄ちゃんおはよう」
「おう、おはよう」
すると、丁度部屋から出てきた瑞樹と鉢合わせる。
瑞樹も寝起きなようで、まだ半分寝ているような顔つきをしていた。
「眠そうだな」
「ふぇ? あー、うん。今日はこれから友達と遊びに行くから、おめかししないとだからねぇ」
へぇ、女の子も色々大変だなと思いながら、俺は別に昼まで暇だしそんな瑞樹に先に洗面台を譲ってやる事にした。
「そいえばさ、もう女神様はうちに来ないの?」
「あー、有栖川さんの事か」
「ほう、あいしゅかわしゃん」
「……どうでもいいけど、歯磨きしながら喋るな」
シャカシャカと歯を磨きながら、有栖川さんの事を聞いてくる瑞樹。
だから俺は、そんな瑞樹に向かって事実のみ淡々と告げる事にした。
「あー、有栖川さんなら昨日も来てたぞ」
「ふぇ!?」
「それから、今日もお昼に来るってよ」
「ちょ! ――ゲホッゲホッ」
その結果、驚いて歯磨き粉が変なところに入ったのか、思いっきりむせてしまう瑞樹。
それから慌ててうがいをしてタオルで口を拭うと、やっぱり驚いた様子でグイッと詰め寄ってくる。
「ちょ! それどういう事!?」
「いや、どうもこうも事実なんだが……」
「何でお兄ちゃんが、あんな美人さんを連れて来られるの!?」
いや、それは俺が知りたいぐらいだ。
でも、俺はもう何と言われようと有栖川さんの友達なのだから、こればっかりはもうしょうがない事なのだ。
「まぁ、俺なりに上手くやってんだよ」
「はぁ? 何それ? まぁいいわ、そんな事よりお兄ちゃん!!」
俺がいい加減に答えると、瑞樹は不満そうにしているかと思いきや、いきなり俺の両肩に手を置いて顔を近付けてくる。
「頑張ってね!!」
「お、おう」
「宜しい! まぁ、お兄ちゃんにはこんなに可愛い妹がいるからこれまでずっとダメダメなんだと思ってたけど、相手が有栖川さんなら流石に敵わないからねっ!」
その目をキラキラと輝かせながらよく分からない事を語り出す瑞樹の勢いに、俺はもう笑うしか無かった。
一体何の話しだよって感じだけど、まぁそれでもどうやら俺の事を気遣ってくれてたっぽいので、俺はそんな可愛い妹の頭を撫でてやる事にした。
「ありがとな」
「えへへ、よし、とりあえず決めた!」
「決めた? 何を?」
「今日のおでかけは、有栖川さんのご尊顔を拝んでから行く事にした!!」
満面の笑みを浮かべながら、何事かと思えば自分も有栖川さんに会おうとする瑞樹。
友達付き合いとか諸々それでいいのか妹よと思っていると、いきなりポケットに入れていたスマホのメロディーが鳴り出す。
こんな時間に何だよと思いながらスマホを確認すると、それはなんと丁度今話をしていた有栖川さんからの着信だった。
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