第41話「散歩と写真」

 有栖川さんの家に到着すると、今日もお美しいお婆さんに挨拶もそこそこに一緒に散歩へ向かう事となった。

 ケンちゃんを連れてすぐ散歩へ向かったため、今日はお互いに制服姿のままである。

 こうして制服姿で一緒に散歩をするというのも、何だかそれはそれでドキドキしてきてしまう自分がいた。


 しかし、昨日ぶりに会うケンちゃんは今日も底抜けに可愛く、それだけでニヤついてきてしまう自分がいた。


 ちなみにリードだが、もう当たり前のようにスタートから俺が持たせて貰っている。

 隣を歩くケンちゃんは、時折楽しそうに俺の方を向いてくれる姿が愛くるしすぎて、もうこのまま抱き抱えてしまいたくなってしまう。


 しかしそれでは、散歩の意味が全く無くなってしまうためそのまま散歩を続けるのであった。



「すっかり二人は仲良しですね」

「はは、そうだね」

「キャン!」


 そして隣を歩く有栖川さんは、そんな仲良しな俺達を見て嬉しそうに微笑んでいた。


 それからは、つつがなく昨日と同じコースを散歩する。

 そして、コースの中盤辺りに差し掛かった頃にはすっかり陽も落ちてしまい、やはり今日は俺も一緒についてきて正解だったなと思っていると、急に立ち止まった有栖川さん。


 少し遅れて俺は、そんな急に立ち止まった有栖川さんの方を振り返る。

 するとそこには、自分のスマホを手にして少し慌てている有栖川さんの姿があった。



「有栖川さん?」

「あっ! いや、これは!」


 そして、声をかけるとやっぱり慌てる有栖川さん。


 一体どうしたんだろう……なんて事は思わない。

 何故なら有栖川さんは、露骨にこちらにスマホのカメラを向けて来ていたからである。



「……その、何だか一色くんとケンちゃんの仲の良いところを見ていたら、どうしても写真に収めたくなりまして」


 そして、素直に白状する有栖川さんの言葉に俺は思わず笑ってしまう。



「有栖川さん、それは盗撮だよ」

「え? ち、違いますよ! 一緒にお散歩中じゃないですか!」

「はは、冗談だよ。写真撮りたいの?」

「もう、一色くんはたまに意地悪ですよね! もういいです!」


 何だか可愛くなって俺が少しおちょくると、すっかり拗ねてしまった有栖川さんの姿に俺はやっぱり笑ってしまう。

 こんな風に、有栖川さんが俺に対して自然に振舞ってくれている事がやっぱり嬉しかったのだ。



「ごめん、怒った?」

「怒ってません! いじけてるんです!」

「それ、自分で言うんだ」

「言葉にしないと伝わりませんからね!」


 ふんっとそっぽ向く有栖川さん。

 何て言うか、拗ねるモードの有栖川さんも素直さが滲み出てて面白可愛いなと、俺はそんな新たな有栖川さんの一面と対面出来ている事が嬉しかった。



「ケンちゃん、有栖川さんがいじけちゃったんだけどどうしたら良いと思う?」

「キャンキャン!」

「――そっかそっか、成る程ね」


 そして困った俺は、ケンちゃんに相談してみる事にした。

 するとケンちゃんは、やっぱり俺の言葉を理解しているのか吠えて返事をしてくれた。

 しかし残念ながら、俺にはケンちゃんが何て言っているのかは分からないのだが、それでもケンちゃんの考えが伝達してきたように俺の頭の中に一つの案が思い浮かんでくる。


 だから俺は、その案を実行すべく拗ねる有栖川さんに再び声をかける。



「じゃあさ、有栖川さん」

「……なんですか」


 相変わらずそっぽ向いてしまっている有栖川さんの隣に、俺はすっと並んだ。

 そして自分のスマホを素早く取り出すと、そのまま手を伸ばして有栖川さんとケンちゃんが写り込むように写真を撮った。



「い、一色くん!?」

「いや、だったら三人で取れば良いかなって思って」


 俺が大成功と笑って見せると、有栖川さんは恥ずかしかったのかその顔をたちまち真っ赤に染めていく。



「もしかして、嫌だった?」

「そ、そういうわけじゃないですけど……今絶対変な顔してたと思います……」


 そう言われて、俺は今撮影した写真を確認してみる。

 するとそこには、驚いて少し顔がぶれてしまっている有栖川さんの姿が映し出されており、俺は確かにと笑えて来てしまう。



「やっぱり変じゃないですかっ!?」

「いや、ちょっとブレちゃってるだけだから」

「でも一色くん、また笑ってるじゃないですか! むー!」


 そんな不貞腐れる有栖川さんに、俺はもう笑いを堪え切れなくなってしまう。

 本当に、有栖川さんという人はどこまでも人を飽きさせない魅力で溢れているのであった。



「その写真は絶対ダメです! すぐに消してください!」

「あはは、分かったよ」

「……その代わり、もう一回ちゃんと撮らせて下さい」


 そう言って有栖川さんは、先程の俺と同じように手を伸ばして自分のスマホのカメラをこちらに向けると、肩と肩が触れ合う距離でその身をピッタリと隣に寄せてくる。


 そして、そのままシャッターボタンを押して撮られた写真には、俺と有栖川さん、それからケンちゃんもしっかりと写り込んでいた。



「……こ、これなら良いです」

「そ、そっか……」

「じゃ、じゃあこれ、後で一色くんにも送りますね……」

「うん、ありがとう……」


 こうして、流れで一緒に写真を撮ってしまった俺達は、それからどうにも恥ずかしくなりつつも無事今日の散歩も終えたのであった――。



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