第3話「連絡先」
突然手渡された、連絡先の書かれた紙切れ。
つまりこれは、有栖川さんの連絡先という事だろうか……。
驚きながら、俺は隣に座る有栖川さんの方へ目を向ける。
すると、まるでそれを待っていたかのように有栖川さんはまた何か書いた紙切れを、周りに気付かれないように前を向いたまますっと渡してきた。
――マジでなんなんだ……
もう俺の抱えられるキャパをとっくに超えてしまっているのだが、ここまで来たらもう成るようになれと俺はその紙切れを受け取る。
そして、受け取った以上この新たな紙切れを見ないわけにもいかないため、また周囲に気付かれないようにそっとその紙切れを開いた。
『いきなりごめんなさい! 昨日の成り行きで一色くんとは面識が出来たっていうか、隣の席だしお互い顔見知り程度の存在には成れたかなと思うので、昨日の今日でいきなり申し訳ないと思いつつも、どうか助けて頂けないでしょうか!? 長くなりますので、一先ず先程の私の連絡先に返信貰えると嬉しいですっ! 宜しくお願いしますっ!』
そんな紙切れの端から端までぎっしり書かれたその文章を読んで、俺は暫く理解が追い付かなかった。
あの有栖川玲が、俺なんかに助けを求めて来ている!?
そんな予想外の展開に、俺の思考は最早全く追い付いていなかった。
――でもそうか、きっと有栖川さんにとって、今このクラスで会話出来る相手は俺ぐらいしかいないって事なんだろうな
難攻不落と呼ばれる有栖川さんは、いつもクラスで一人だった。
でも学校生活を送るうえで、それでは困る事の一つや二つ必ずあるに違いない。
会話したキッカケは余りにも間抜けな俺達だけど、こんな俺でも有栖川さんが必要としてくれるのならば、少しぐらい相談に乗ってあげてもいいよなという気持ちが芽生えてきた俺は、授業中だけど早速その連絡先をスマホに打ち込んだ。
すると本当に、あの有栖川玲の連絡先が表示された。
アイコン画像が昨日のポメラニアンだったから、これは間違いなく有栖川さんのアカウントと見て間違いないだろう。
こうして俺は、『一色です。よろしく』という簡単な一文と共に、隣に座る有栖川さんのアカウントを友達登録した。
これから一体どんなお悩み相談が待っているのかは分からないが、出来る限り力になれたらいいなと思いながら俺は残りの授業を受けたのであった。
◇
一限の授業を終え、休み時間になった。
俺は我慢していたトイレを済ませると、スッキリとした気持ちで教室へと戻った。
すると教室では、隣の席の有栖川さんは自席に座ったままで、いつもの無表情でクールな感じで自分のスマホをポチポチといじっていた。
授業中紙切れを渡してきた事には驚いたが、有栖川さんがいつも通りの雰囲気に戻っている事に安堵しつつ、俺も自分の席に着いた。
まだ休み時間はちょっと残っているため、同じく時間を潰すために俺は自分のスマホを取り出す。
そして画面をタップすると、普段滅多に鳴らないはずの俺のスマホに大量のメッセージ通知が届いていた。
驚いた俺は、恐る恐るその通知をタップして内容を確認する。
するとその通知は、なんと全て有栖川さんから送られてきたものだった。
『あの! 登録ありがとうございます!』
『いきなり本当にごめんなさい! でもどうしても私、相談に乗ってくれる人が欲しくて!』
『でもその、あまり男の人は得意じゃないっていうか』
『いや、一色くんも男の人なんですけど!』
『えっと、そうじゃなくって、私女の子の友達もいなくて』
『って、そういう話じゃなくて! こんなに何回もメッセージ送ったら迷惑ですよね? ごめんなさい!』
『とりあえず相談したい事っていうか、色々あるんですけどまずは何から言ったらいいのか』
『ああ、もうすぐ授業始まっちゃいますね! 一先ず失礼します!』
俺はそんな、有栖川さんから連投されてきたメッセージ一つ一つに目を通す。
そして、送られてきた大量のメッセージに目を通した俺は、何やら沢山書かれているにも関わらず全くその相談事とやらに辿り着いておらず、文字数の割に全く内容が無いメッセージに思わずクスッと笑ってしまう。
――有栖川さんって、もしかして天然?
そんな事を考えつつ、俺はこの大量のメッセージの送り主である隣の席の有栖川さんへ目を向ける。
すると有栖川さんは、先程と同じく無表情でクールな感じのままだった。
てっきりこの謎長文を送った事でまた様子が可笑しくなっているんじゃないかと思ったが、当の本人は上手くやれたつもりなのかとても落ち着いた様子でいる事に、俺はまたしてもクスッときてしまう。
――うん、絶対天然だこの人
普段はクールで、誰もが憧れる圧倒的美貌を持つ難攻不落の美少女。
そんな彼女が、実は俺以上にコミュ力が無い天然系で、おまけに割とお喋りな女の子だというあまりにも振り切れ過ぎたそのギャップに俺はもう笑うしか無かった。
そして、そんな隣でクスクス笑う俺に気付いた有栖川さんはというと、当然その理由に気が付くはずも無く、こっちを見ながら一体何事だろうと不思議そうに首を傾げているのであった。
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