マンモスダンス (連載中)

モグラ研二

第1話

「マンモスダンス!マンモスダンス!マンモスダンスイエイイエイイエイ!」

路上の真ん中で、突然、上半身裸、下半身にはピッチリした黒いタイツを着用した中年男性が、そのように叫びながら、仁王立ちし、目を見開き、股間を激しく弄る動作を繰り返していた。


私はコンビニでいくつかの缶ビールとイカ焼きを購入し、帰宅する途中であった。

「マンモスダンス!マンモスダンス!マンモスダンスイエイイエイ!」

目が合うと叫び、また股間を弄る動作を開始。非常にキレの良い動きである。


男性は基本的に痩せているが、下腹にのみ、贅肉がかなり付いていた。そうして頭髪は、前の方が欠如している。汗を体中から噴出させている。


私は、男性の正面、3メートルほどの距離に、白いビニール袋を持って、立っていた。


「マンモスダンス!マンモスダンス!マンモスダンスイエイイエイイエイ!」

それしか言葉を知らぬかのごとく、男性は繰り返した。


私は、彼のことを理解したいと願った。だが、マンモスダンスについて、生憎、流行に疎い私は全く知らないのだ。このことを、彼に謝罪したいと思う。こんなにも熱心に、汗を流しながら、私一人に見せるために、彼はマンモスダンスを踊ったのだ。

なんて残酷なことを、と思いながらも、私は黙ってその場を立ち去ったのだった。


マンモスダンスを結果的に黙殺してしまったことについて、その後、最低2週間の間、幼少時から良心の発達が著しい私は、かなり後悔した。


なぜ、あの場で彼に話しかけて、マンモスダンスとはなんなのか、どのような媒体で流行っているのか、いかなる目的のムーブメントなのか、出来るだけ細かく聞かなかったのだろう。大変に悔やまれる。


《人生は後悔の連続である。どのようにすれば悔いの残らない生活を送ることができるのか。未だにわからない。お前に真の人生を教えてやる、と路上でいきなり声を掛けて来た老人については、その場でバール状のものを用いて頭蓋骨を損傷させてしまった。結果として、私は損をしたのだろうか?》


三ツ矢は地下室にある牢屋に入れられていた。


彼は四つん這いの姿勢で、前方1メートルほどのところを見ていた。


そこには一本の剝かれていないバナナが転がっていた。


三ツ矢はバナナを凝視していた。バナナに変化はない。


「一度でも成長を諦めた者は終わりだ。お前はもう終わりなのか」

三ツ矢は小さな声で言った。


「早く食え!ボゲ!」

牢屋の、鉄格子の向こうにはパイプ椅子があり、そこにはグレーのスーツを着た吉岡イグレシアス守男が座っていた。身長190センチ以上。腕、脚の長いスマートな男。金髪ロングヘア、小麦色の肌をしている。


「早く食え!ボゲ!俺はさっさと帰りてえんだよ!」

吉岡イグレシアス守男は怒鳴り、椅子から立ち上がる。鉄格子の向こうにいる三ツ矢に対し唾を吐き掛ける。


特に、三ツ矢には成人男性から唾を吐き掛けられて喜ぶという趣味はない。

だから、三ツ矢は顔を顰めて「あの、やめてください」と言う。


「なに?三ツ矢まだ食べないの?バナナを?」

女の声がした。扉を開けて、女が入って来たのだ。太った女で、白いワンピースを着ている。髪は赤く染めていておかっぱである。吉岡イグレシアス園子である。


「ああ、食わねえんだよ、こいつ。むかつくよな」

吉岡イグレシアス守男は鉄格子のなかへ入っていく。

四つん這いの三ツ矢の前髪を鷲掴みにし、その童顔、つぶらな瞳の顔に唾を吐き掛けた。

「飲め!飲むんだよ!」

「臭い……臭いよ……」

目と口を閉じて横を向いている三ツ矢の顔を無理やり正面に向かせようと、吉岡イグレシアス守男は努力する。三ツ矢は抵抗をした。特に、三ツ矢には成人男性から唾を吐き掛けられて喜ぶという趣味はないのだ。


「なんだよこいつ!むかつく!」

三ツ矢の脇腹を蹴り上げて、吉岡イグレシアス守男は叫ぶ。


吉岡イグレシアス園子はその様子を微笑みながら見ている。

つかつかと、彼女も鉄格子のなかへ入っていく。床に転がっているバナナを拾い上げて皮を剥いた。


「私も早く帰りたいの。韓流ドラマが大詰めだから。あんた、こいつのケツ、剥き出しにしてこっちに向けてちょうだい。力づくでいくしかないわ」


「わかった」

吉岡イグレシアス守男は、嫌がる三ツ矢の作業着のズボン、白いブリーフパンツを脱がし、その白く滑らかな肌のケツを、吉岡イグレシアス園子の方へ向けた。


「嫌だ!嫌だ!」


「食べなさい!食べるのよ!このボゲ!」


「嫌だ!嫌だ!」


「うっせえんだよ!さっさと食えばいいんだろうが!」


十数分間の格闘の後、三ツ矢の肛門にはまだ硬い、熟していないバナナがずっぽりと全て挿入されたのだった。


全て、その様子を吉岡イグレシアス兄妹はスマートフォンにて撮影をしていた。


「送った?」

「ええ。ご苦労様って、返事が来たわ」

「なあ、帰ろうぜ。ママが夕飯作って待っているよ」

「そうね。今日はコーンポタージュとエビドリアと雑炊とミートソースグラタンって言っていたわ」

「美味そうだ。ママはなんでも美味く作るから」

「自慢のママね」

「うん。俺、ママみたいな女と結婚してセックスして幸せな家庭を築きたいんだ」

「いいことだわ」


三ツ矢は放置された。ケツは、剥き出しのまま、バナナは挿入されたままだった。前立腺を刺激され、濃厚なエクスタシー状態のなかにいて、彼は痙攣しながら「あーあーあー」と延々声を出していた。


もちろん、その様子も部屋の角、天井のところに設置された監視カメラによって、全て録画撮影されているのだった。

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