第5話 野菜の生育状況及び価格見通しについて

「なん……だと……」

 大河は絶望した。

 己の浅はかさを。

 そして目の前に広がる無数の情報量に。


 彼の求めていた情報がそこにはあった。

 彼が収集しようとしていた情報がそこにはあった。

 ていうか一個人が考えることなど、とっくに誰かが実行していてもおかしくはないはずだ。

 むしろ国が率先してやっているに決まっている。

 野菜の値段の動向調査など、当然行っている。


「……へっ、所詮はお役所仕事。まぁお手並み拝見といきましょかー」

 ニートが何か言っている。



*********


農林水産省

需給、ガイドライン、入荷及び価格の見通し等に関する情報


野菜の生育状況及び価格見通し(原則毎月)

https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/yasai_zyukyu/index.html



https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/yasai_zyukyu/attach/pdf/index-116.pdf

>東京都中央卸売市場に出荷される(令和3年9月)



「ふむ……まあ東京の話だけど、野菜は全国に流通するものだし、生育状況は知っておかないと供給について判断できないもんな」

 ファイルを開くと、トップにでかでかとこう記されている。



>キャベツが、お買い得の見込みです!!


>キャベツは、例年と比べて生育が順調で、安値傾向となる見込みです。



「マジか。キャベツは作っても無駄か」

 今から作っても間に合わないし、そもそも脳が完全に野菜作りにシフトしていた。

 無駄ではない。


「ちなみに先月のはなんて書いてあるんだ」



野菜の生育状況及び価格見通し(令和3年8月)


>にんじん(8月前半)、はくさい、キャベツ、きゅうり、なすが、お買い得の見込

みです!!



「おいぃぃなんだこの落差はよぉ! 八月のボーナスタイムどこ行った!?」

 ちなみにこの情報はあくまでである。

 当月下旬に次月の供給に関する予測を立てて発表しているだけで、実際にどうなったのかは書かれていない。

 それを検証することも価値ある情報の一つであると思われるが、あいにく彼は複数のことを考えるのが苦手である。


「ええと……なになに」



>この見通しは、直近の生育状況及び今後の生育と出荷の見通しから予測される、今後の価格見通しを公表することで、産地の出荷判断と消費者の購買行動の最適化をし、野菜の供給及び価格の安定を図ることを目的としています。



「あー……確かにこう書かれてるわ。つまり逆か。八月は野菜たくさん売りたかったから『みんな安いでうて買うて』って煽ってたんだな。そして予想以上に売れたから九月はちょい抑えめにした、と」

 彼は巣ごもり需要とか台風による生育不足など、野菜の収穫量以外の要因を考える思考が抜け落ちている。


「えー……現在の生育状況についても書かれているな。ん、つまり野菜は大きくこれら四つに分類されるってことか」

 書かれている内容をそのまま載せても意味がないので、端的にまとめました。

 正確な内容を知りたい方は上記のpdfファイルを御覧ください。



注)野菜の分類について

日本標準商品分類(平成2年6月改訂、総務省)の野菜の区分は

1.根菜類:だいこん、にんじん、ごぼう、馬鈴、等

2.葉茎菜類:はくさい、キャベツ、ねぎ、たまねぎ、等

3.果菜類:きゅうり、かぼちゃ、トマト、なす、等

となっていますが、ここでの分類は違います

なぜ? と聞かれても、そういうものだから……としか



*********


現在の生育状況(令和3年8月時点)


1.根菜こんさい

(だいこん及びにんじん)


・生育は順調。



 根菜類とは地下に出来た茎や根を収穫して食べる野菜です。

 タイトルになっている『蕪』もこちらに含まれます。

 特徴として、水分が少なく硬い野菜が多いことが挙げられます。



2.葉茎菜ようけいさい

(はくさい、キャベツ等)


・はくさい、ほうれんそう、レタスは、生育が停滞。

・キャベツは生育が順調。

・ねぎは一部産地では生育が遅延傾向。



 葉茎菜類は葉を食べる野菜です。

 播種から収穫までの時間が短く、緑色の野菜が多いのが特徴です。



3.果菜かさい

(きゅうり、なす等)


・きゅうり、なすは生育が遅延傾向。

・トマトは生育が順調。

・ピーマンは平年並み。


 果菜類は果実を食べる野菜です。

 栽培期間が比較的短い果菜類の例として、ピーマンやなす、

 比較的長い果菜類の例としてスイカやかぼちゃが挙げられます。

 種から作るのは難しく、苗を購入して育てるのがオススメです。

 実際に農家も種苗店から購入しています。



4.土物つちもの

(ばれいしょ、さといも及びたまねぎ)


・ばれいしょ、たまねぎは小玉傾向。

・さといもは、平年並み。



 土物類は根菜類の中から芋類、葉茎菜類から玉ねぎ等をわけたものです。

 長期保存が可能で、出回っているものは(古くなったもの、前年に収穫されたもの)が多いです。

 収穫してすぐのものは新玉ねぎ、などと呼ばれます。



「なるほど。現在の状況はわかった。その下は……今後の見通しか」



*********


今後の生育、出荷及び価格見通し(令和3年9月予測)


注)見方について

主産地( )書きは令和2年9月の入荷シェア

出荷見通しは(平年(直近5か年平均)比)

上・出荷見通し 9月前半/後半

下・価格見通し 9月前半/後半

「平年並み」とは平年との比率が80%以上、120%未満のこと



品目  : だいこん

主産地 : 北海道(60%)青森(34%)

出荷  : 平年並み/平年並み

価格  : 平年並み/平年並み


品目  : にんじん

主産地 : 北海道(96%)

出荷  : 平年やや下回る/平年並み

価格  : 高値水準/平年並み


品目  : はくさい

主産地 : 長野(93%)

出荷  : 平年並み/平年並み

価格  : 平年並み/平年並み


品目  : キャベツ

主産地 : 群馬(76%)岩手(13%)

出荷  : 平年上回る/平年上回る

価格  : 安値水準/安値水準


品目  : ほうれんそう

主産地 : 群馬(40%)栃木(25%)茨城(14%)

出荷  : 平年下回る/平年並み

価格  : 高値水準/平年並み


品目  : ねぎ

主産地 : 青森(21%)秋田(21%)北海道(18%)

出荷  : 平年並み/平年並み 

価格  : 平年並み/平年並み


品目  : レタス

主産地 : 長野(85%)

出荷  : 平年並み/平年並み

価格  : 平年並み/平年並み


品目  : きゅうり

主産地 : 福島(29%)群馬(16%)岩手(13%)埼玉(10%)

出荷  : 平年下回る/平年並み

価格  : 高値水準/平年並み


品目  : なす

主産地 : 栃木(31%)群馬(30%)茨城(24%)

出荷  : 平年下回る/平年並み

価格  : 高値水準/平年並み


品目  : トマト

主産地 : 北海道(21%)福島(15%)青森(13%)千葉(13%)

出荷  : 平年並み/平年並み

価格  : 平年並み/平年並み


品目  : ピーマン

主産地 : 岩手(40%)茨城(33%)福島(11%)

出荷  : 平年並み/平年並み

価格  : 平年並み/平年並み


品目  : ばれいしょ

主産地 : 北海道(99%)

出荷  : 平年下回る/平年下回る

価格  : 高値水準/高値水準


品目  : さといも

主産地 : 千葉(65%)埼玉(14%)

出荷  : 平年並み/平年並み

価格  : 平年並み/平年並み


品目  : たまねぎ

主産地 : 北海道(96%)

出荷  : 平年並み/平年並み

価格  : 平年並み/平年並み



「すっげー当たり前のこと言うけどさ、たくさん収獲できたら値段は下がるし、収穫量が少なかったら価格は値上がりする。それだけの話だよなこれ」

 そのとおり。

 しかしその当たり前のことでも、調べなければわからないし、こうやってネットに情報が公開されていなければ判断することすら出来ないのである。

 かがくのちからってすげー。



「まーあとはこれ、東京ってか関東の話だから産地のシェアも当然関東中心だわな。関西だと西日本の産地が中心になるから、例えば青ねぎは高知の四万十ねぎ、後は京阪神なら京都の九条ねぎが主流だし、ピーマンなら熊本県産がメインになる。玉ねぎなら兵庫の淡路産とかな。ばれいしょとかは北海道産が日本のシェアほぼ独占してるようなもんだから一緒だけど」


 9月、10月といえば台風である。

 野菜の産地が被害を受ければ供給量が減り、一気に価格は高騰する。

 それは台風が通過した時ではなく、その後の生育が追いつかなくなる1~2週間後にボディーブローのように徐々に影響が出始める。

 さて、その辺りの価格変動をしっかりと見極めることが出来たなら、彼の求める、他者に提供するに値する情報となるのだが、果たして彼のやる気はそこまでもつのだろうか。


「今失礼なこと言われたような気がする」

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