第29話 グラーフツェッペリン航空隊

グラーフツェッペリン航空隊


 FDGからの発令を受けGTは急激に忙しくなった。すでに各戦闘機の出撃準備は整っていた。そしてブルーフィングルームに集められていたパイロットに出撃命令が下った。

オット・バウリは待ちくたびれていた。バトルオブブリテン以来久しぶりの空戦である。

「ラインヴァイスリッター」ドイツ語で白騎士の意味の異名で呼ばれる彼の機体は、バトルオブブリテンの時代から変わらず白く塗装されている。その当時から継続的に戦場に出ていれば、彼は連合軍から恐れられるパイロットになっていたのは間違いなかった。

英国上空から彼の機体が消えたことによってどれだけの英国の航空兵の命が救われたことか知れなかった。だが、ドイツ軍の指揮官はオット・バウリの活躍を許さなかった。

上官の立てた作戦に批判的で、命令に反抗的な態度をとる彼を快く思わなかった。

しかも彼の意見は正鵠を得ていることが多かったからなおさらである。そうなれば、あとは目の前から遠ざけるのが一番である。すなわち戦死する可能性の高い最前線に送り込むか、左遷させるかである。

その点で彼の上官はまだ理性的であった。熟練の優秀なパイロットをいたずらに無くすよりも僻地に左遷し、温存する方法を取った。

 エレベーターによって次から次へとフォッケウルフが甲板に運び上げられていく。かねてからの打ち合わせ通り半分の機体が250キロ爆弾を搭載し、残りの機体は身軽にし、直援につく。どうしても足の遅くなる爆装型が先に発艦し、続いて直援機が飛び立つ。

足の短いフォッケウルフには作戦行動半径200K程度がやっとである。現在のGTの位置から蚩尤まではぎりぎりの距離である。戦闘にかけられる時間は20分程度で限界が来る。その時間でどれだけの戦果を挙げられるか。

FDGから届いた命令は敵巨人兵器「蚩尤」を攻撃する地上部隊を掩護せよ、ということで具体的な戦況は伝えられていない。現場で判断せよとの暗黙の指示である。こういう自由戦闘こそがオット・バウリの独壇場であった。オット・バウリは日本製のエンジンと構造を持ったこの機体に満足以上の満足感を持っていた。フォッケウルフTa109も相当に良い戦闘機であったが、このJ型はそれをはるかに上回る性能であった。P51ムスタングが最高の戦闘機という噂は聞いてはいたが、そんなものはこの機体に比べれば子供のようなものだろうと思っていた。特に低速での機動性や操縦の追従性は飛びぬけており、通常のTa109であれば2,3機なら同時に相手にすることができるという自信があった。だから仮に敵の戦闘機が出てきたとしても互角以上の戦いができると踏んでいた。

あれに出会うまでは。

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