人型重機リーゼンパンツァー1945
雪風摩耶
第1話 プロローグ ロシア ツングースカ 1908
KAMPF RIESEN MARS 1945 インターネット公開版
プロローグ
ロシア ツングースカ 1908
青く輝く月光は狩られるものに死の匂いをもたらし、星々の煌きは夜行性の生き物に狩の時間が訪れたことを知らせる。
もし、その地で空を見上げるものがあれば、轟音とともに巨大な青い光を帯びた火の玉が夜空を一直線に横切る姿を見ることが出来たろう。しかし、その姿を見たものは夜行性の動物だけであった。人など住まぬ極寒の大地。人々がその現象に気づいたのは全てが終わってからのことだった。その大空をよぎる火の玉は近くで見れば細長く平たい三角形のような形をしていた。隕石でも、もちろん動物でもなく、それが地上にあれば誰もが間違いなく人工物だと答える物体であった。その人工物の中では緊迫感に満ちた会話がなされていた。
「炉は安定しているか?」
黄金色の甲冑に全身を包み、操縦桿を握った男は大声で叫び声を上げた。
「だめだ、いつまで持つか分からん、ここまで持ったことがむしろ奇跡。あとは神に祈るしかない!」
声をかけられた男もやはり黄金甲冑を着込み叫び返した。
「ここまできて、何も出来なかったら我々アトランティス15000年の悲願はどうなる!なんとしても、なんとしてもあの男にこれを託さなくては!」
「最悪の場合は、あれをばら撒くぞ。コピーはたっぷり持ってきているからな。一つや二つは生き残るだろう」
「しかし、それが奴らの手下に渡ったらどうする?あの男に渡る可能性よりもはるかに高いぞ!」
「分かっている。分かってはいるが、それでもいい。アトランティスの現状を打破する為には多少の危険は顧みない。今のままならいずれにしろ近いうちに滅ぶんだ」
「分かった。だが、ぎりぎりだ、ぎりぎりまで粘る。この大陸を越えれば、彼のいる国だ。もう連絡は付いている。彼は待っているはずだ」
その時、船内にけたたましい警告音が鳴り響いた。空を行くその物体は振動を始め、船内のランプが急激に点滅し始めた。必死にスイッチやレバーをひねり、音を消そうとするが鳴りやまない。それどころか点滅の数は増え、船の振動は増すばかりだった。
「まずい、炉心の溶融が始まった。すぐにでも爆発するぞ」
操縦桿を握った男は叫び返した。
「やむをえん、カプセルを射出する。願わくば、ニコラ.・テスラの下に届きますように」
「地球人とアトランティス人に輝かしい未来が訪れることを・・・」
甲冑の男がボタンを押すとその飛行物体がいくつかに分離した。正確に言えば分離ではなく、小さな部品を放出したと言った方が良かった。
その直後、二人の乗った物体は火球というにはあまりにも異様な、まるできのこのような炎を上げて爆発した。その光はまるで太陽のように大地を照らし、発生した衝撃波は半径30㎞の木々をなぎ倒し、1,000㎞離れた家の窓ガラスを粉々にした。さらには大地に巨大な半球状の穴をうがった。そして飛行物体から射出されたカプセルも、そのほとんどが火球が飲み込まれて蒸発してしまった。
1908年シベリアの奥地、ツングースカの大地で起きた事件である。
そして、ニコラ・テスラは待っていた。約束の地において。
約束の期日より数日、彼はひたすら待ち続けた。寝ることも食事を取ることも無く。
だが、待ち人はついに現れることは無かった。
彼がようやくその地を去ったのは、シベリアの奥地で起きた怪現象のニュースを聞いた後だった。
「先生はいったい誰をお待ちだったのです?」後に弟子に問われた質問に、彼は
「火星からの客人さ」
と悲しげな瞳を浮かべつつ笑って答えたという。
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