缶ジュースのプルタブ
あべやすす
缶ジュースのプルタブ
学校から帰宅途中、自販機で缶のコーラを買ったので開けてプルタブをそこら辺に投げ捨てた。
「ちょっと!何するんですか!ひどいじゃないですか!」
それにしてもこのコーラはうまい。夏の暑い日に冷えたコーラを飲むといかにも生きてるって感じがする。
「もしもーし!ちょっと!聞こえてるでしょ!」
こうなってくるとおやつが欲しくなってくる。ちょうど家までにコンビニがある。スナック菓子でも買って帰ろう。
「わざと!?わざとなんですか!?こらぁ!無視するな!」
さっきからなんなんだこの声は。めんどくさそうだから関わり合いになりたくなくて無視していたのだが、それも限界そうだ。
僕は辺りを見回す。何もいない。なんだ、タチの悪いイタズラか。
「ここです!ここですよ!」
どうやら自販機の近くの茂みの辺りから声がする。近くまで近づいてみると、缶のコーラよりも小さい女の子がふわふわと浮いていた。
「うわっ、なんだい君」
「私は缶ジュースのプルタブの精です」
「缶ジュースのプルタブの精」
「あなた、プルタブだけちぎって投げ捨てたでしょう。困るんですよそんなことされたら!って、頭に手をかざさないでください!」
すごい。糸でつっているわけじゃなくて本当に浮いてる。不思議なこともあるもんだ。
「へえ、でも君はなんでそんな微妙なものの精なんだい」
「微妙とはなんですか。この国には昔から八百万の神と言って、万物に魂が宿るという考え方があるでしょう。だからこんなものにも魂が宿るんですよ」
「今こんなものって」
「言ってない」
「じゃあ缶ジュースの精もいるのかい」
「そんなに大雑把じゃないですよ。そもそも私は正式に言えば『コ○・コーラのコーラの缶のプルタブの精』です」
「細かいね。『ペ○シのコーラの缶のプルタブの精』もいるのかい」
「もちろん。ライバルです」
「八百万じゃ足りなくなりそうだね」
僕は膝をぱんぱんとはたいて立ち上がった。
「面白い話が聞けたよ。じゃあ君もライバルに負けないように頑張ってね」
「はいさようなら……ってちょっと待てい!本題がまだですよ!」
ちっ、バレたか。
「とにかく、プルタブだけ捨てるのはやめてください!そもそもポイ捨てですよ!」
「うーん、なんかちょっとした癖なんだよね。でも確かにポイ捨てだと言われたらそうだし、良くないことなのかなあ」
「良くないことなんです!プルタブだけ捨てられちゃうと、私達はリサイクルされずにずっと残ってしまうんです!ちりも積もればなんとやら、環境破壊の原因ですよ!それに、集めれば車椅子と交換してくれたりします!」
「それって確か物凄い数が必要だった気がするなあ」
「これ以上プルタブをポイ捨てするようならあなたに呪いをかけます!」
「へえ。ちなみにどんなの?」
「今後自販機で炭酸飲料を買ったら、開けた時にちょっとだけ溢れさせて手をベタベタにしてやります!」
「うわあ地味に嫌なやつだ。それはちょっと困るな」
「そうでしょうそうでしょう!さあこれからはもうプルタブをポイ捨てしませんね?」
「うん、しないしない。ちゃんと缶と一緒に捨てるようにするよ」
「よろしい!」
そこで最後に、僕はずっと気になっていたことを聞いてみた。
「最後に一ついいかな?」
「なんでしょう?」
「君、プルタブプルタブ言ってるけど、缶ジュースの蓋のやつってプルタブじゃなくてステイオンタブって言うんだけどね?もうずいぶん前から全面的に変わったよ」
プルタブの精は満足気な顔のまま固まった。
「そもそもプルタブって本体と完全に切り離せるやつのことを言うんだよ。缶ジュースのタブって切り離さないよね?まあ変更されて便利になったけど」
プルタブの精はしばらく固まった後、だんだん体が透け始めた。
「どうやらお別れの時間が来たようです……私と出会ったことで、また一人迷える子羊が救われました……」
「楽しかったよ、ありがとうね」
「もう伝えることはありません……さあ行きなさい……最後に……ペ○シのコーラを飲むものは全員蓋を開ける時にちょっと溢れろ……」
「陰湿だなあ」
そういい残して、プルタブ、いやステイオンタブの精は完全に消えた。
僕は一応さっき捨てたステイオンタブを拾ってゴミ箱に捨てておいた。
缶ジュースのプルタブ あべやすす @abyss_elze
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