第40話 全国選手権大会 開幕
「やっと着いた~~」
花はバスから降りて、両手を晴天の空に上げ、身体を伸ばした。
フェリアドFCは全日本U-18女子サッカー選手権大会の会場となるJ-GREEN堺にやってきたのだ。
「遠かったね~てか、大阪来たの初めてかも。」
「私も~」
「てか、広すぎ!!
コート何面あんの!?」
フェリアドFCメンバーはキャッキャッしながら、はしゃいでいた。
すると、バスから降りた川島が手を叩いた。
「はいはい!!
とにかく荷物持って、宿舎行くから~
事前に言ってるけど、チェックインしたら、直ぐ動ける準備して、出て来てね~」
「は~~い。」
そうして、フェリアドFC一同は宿舎へと向かうのだった。
「…折角、こんなとこに来たのに土のグランドでするの~」
花は文句を垂れながら、ジョギングしていた。
川島は笑いながら、花に並走して、言った。
「文句言わないの~
今日は着いたばっかで軽いアップしかしないから、これで十分なの~
長距離の移動で身体が固まってるから、今日はそれをほぐすだけなんだよ~
何より、安いし~」
花は川島の説明に納得しながらも、芝のグランドを見て、羨ましそうにしていた。
何故なら、西南FCユースが隣の人工芝のグランドでアップしていたからだった。
「こら~こっちに集中しろ~」
千里子が花の様子を見かねて、背中を叩いた。
「痛いな~分かってますよ~」
花は悔しそうな顔でジョギングを進めたのだった。
アップが終わり、宿舎で夕飯とお風呂を済ませて、後は就寝の時間を待つだけとなった。
フェリアドFCは当然のごとく、大部屋の部屋に泊まることとなっていた。
「なんか合宿みたいで楽しいね~」
皆がワイワイしている中、川島はホッとしているようだった。
「普通なら、個室がいいっていうんだけど、皆、満足してるようで良かったわ~
お金なかったし~」
花も皆と話しながら、明日の試合とお泊りの雰囲気にワクワクしていた。
すると、携帯がブブブと震えた。
「あっ。ちょっとごめん。」
花は香澄と千里子と話していた途中に着信があったため、席を外した。
千里子はニヤニヤしながら、香澄に言った。
「…あれ。絶対、彼氏からだよね~」
香澄は笑顔ではあるが、少し怖い様子で千里子に言った。
「多分、あっくんからでしょうね~
私よりもやっぱりあっくんの方を優先するんですね~」
千里子は香澄の様子にぞくっとした。
「…香澄…あんたも男の彼氏作った方がいいと思うよ…」
「もしもし~」
花は部屋を出て、野口からの着信に出た。
「お疲れ~
今大丈夫か?」
野口は念のため、話が出来る状態化を確認した。
「大丈夫だよ~
どしたの~?」
「いや、なんとなく話したくて。」
「あはは~何よそれ~」
花は廊下を人のいない方へと歩きながら、笑って答えた。
「会場はどんな感じなの?
ネットで見た感じ、かなり豪勢というか、サッカーするための施設って感じだったけど。」
「ホントそうだよ~
馬鹿みたいに芝のコートがあってね~
なのに今日、私達、その中でも一つだけある土のコートでアップしたんだよ~」
「はは。そうなんだ。
まぁ、お金の関係上、しょうがないところもあるんだろな。」
野口は詳しく聞かずとも、フェリアドFCの台所事情を察したのだった。
「花には言わずもがなと思うけど、明日、楽しみか?」
しばらく、他愛もない話をした後、野口は花に聞いた。
「もち!!
早く明日になってほしいよ~」
「そっか。
明日、勝てば、いよいよ西南FCユースとだな。
早かったような遅かったような感じだな~」
「うん!!次は絶対勝つよ~」
抽選の結果、フェリアドFCは二回戦で西南FCユースと当たることになっていたのだ。
「おう!!頑張れ!!
また、帰った時にでも話聞かせてくれな~」
「はいはい~
連絡してくれてありがとね。
嬉しかったよ~」
「それならよかった。
ほんじゃあ、今日は早めに寝ろよ~
お休み~」
「お休み~」
そう言って、花は電話を切ったのだった。
電話を切った後、花は何となく、屋上へと昇って行った。
屋上は試合をするコートの観覧席となっていて、花はコートを見渡した。
(…ここで明日試合ができるんだ…)
花が感慨にふけっていると、ふとベンチに一人の少女が携帯を見つめているのが見えた。
「あれ?麻衣?」
携帯をいじっていた麻衣は花に声を掛けられて、振り返った。
「何?」
麻衣は相変わらず、ムスッとした表情であった。
「い、いや、こんな時間に何してるのかなって?」
花は麻衣の様子に若干たじろいで、麻衣に聞いた。
麻衣はため息をついて、言葉少なく、花に答えた。
「私、真紀先輩と相部屋なんだけど、あの人うるさいから…」
花は元西南FCの同僚である真紀の事は知っていたため、笑った。
「あはは~確かに真紀先輩って熱血っていうか、落ち着きがなかった記憶あるわ~
そのまんまなんだ~」
花は笑って、声を掛けたが、麻衣は無視するように携帯をいじっていた。
しかし、花は何故か気まずさは感じず、麻衣の一つ飛ばした隣の席に座った。
「…今日って何で来たの?」
「はぁ?何でって、新幹線とバスだけど。」
「いいなぁ~やっぱりお金あると、新幹線使うよね~
私達なんて、ずっと監督の運転するバスだよ~
滅茶苦茶時間かかったんだから~」
「…知らないわよ。
そんなの負けた時の言い訳にはならないからね。」
麻衣はうっとおしそうにしつつも、花の質問には答えた。
花はそんな麻衣にふと気になって、軽く聞いた。
「…今日は勝てとか言わないんだ?」
麻衣は花の方は見ずに、ずっと携帯をいじっていた。
「…明日の相手は四国代表でしょ?
どう考えたって、あんた達が勝つでしょ。
負けたら、心底、あんたを見下すわ。」
花は麻衣がフェリアドFCの対戦相手まで知っていて、当然のように勝つと思ってくれていることが嬉しかった。
そして、花は一番気になっていることを麻衣に聞いた。
「…どうして、そんなに私たちの事を気にしてるの?」
麻衣はしばらく黙った後、小さな声で呟いた。
「…あんたに勝ちたいからに決まってるでしょ…」
花は麻衣の言葉に納得のいかない表情で麻衣に聞いた。
「私に勝ちたいって、予選でもう勝ってるじゃん。
それなのに、むしろ、試合やった後の方が声かけてきたじゃん。」
麻衣は大きくため息をついて、立ち上がった。
「あの試合、あんたは私達をかき乱した。
私はあんたを完璧には抑えきれなかった。
私はあんたにだけは負けたくないんだよ。」
そう言って、麻衣は一人、屋上から降りて行ったのだった。
一人残された花は思った。
(…なんで、麻衣はそんなに私に勝ちたいんだろ…)
花はしばらく、コートを見つめながら、考えたが、寒くなってきたので、宿舎に入って行ったのだった。
「さぁ~て、いよいよ全国大会だね~」
翌日、1回戦の試合前に川島は皆に笑って話したいた。
「といっても、正直、今日の相手は関東予選のレベルと比べると相当落ちる。
だから、圧勝してくれなきゃ困るんだよね~」
千里子は川島の言葉に毎度毎度うんざりした様子で、突っ込んだ。
「…監督…もうそういう前置きいいって。
さっさと、要点だけ話してよ。」
「えぇ~千里子、いつにもまして冷たいね~
緊張しちゃってくれてる?」
「してませんよ!!
だから、もういいって!!」
千里子は相当、めんどくさい様子だった。
川島はコホンと息を整えて、真面目な顔で皆に言った。
「じゃあ、要点だけ。
皆、グランド見て。」
フェリアドFC一同はグランドに顔を向けた。
「このコート、日本代表も使うくらいのコートなんだよ。
この芝見るだけでワクワクしてこない?」
皆はうんうんと頷いていた。
「うん。このコートならなんだってできる気がするでしょ?
それでオッケーだから。
いつも以上に楽しんできな。」
「はい!!」
そして、試合が始まった。
相手は緊張しているからか、序盤から一方的にフェリアドFCペースで進み、前半で一気に5-0と差がついた。
後半開始から、主要メンバーを入れ替えて、温存してもフェリアドFCペースは覆らず、結局7-0の圧勝で試合は終わった。
それ程までにフェリアドFCの実力はついてきたのだった。
「はい!お疲れさん~
今日は上手く言ったけど、明日はそうは上手くいかないからね。
何せ一度負けた相手とやるんだから。」
試合後、川島は皆に笑いながらも真剣な様子で話していた。
「だけど、私達は他のどのチームよりも考えられるチームだと思ってる。
一度やった相手に同じような戦い方はしないし、むしろ、こうやったら勝てるってイメージの方が強く持ってるんじゃないかな?」
皆は顔を上げて、川島の話を聞いていた。
「そのイメージを大切にして。
そんで、イメージ通り動けるように準備すること。
また、連戦になるからね。
今の身体の状態、精神的な状況、全部、把握しながら、準備すること。
こういう短期決戦は気を抜いたら、ダメ。」
川島は最後にニコッと笑って言った。
「それさえできれば、明日は勝てるから。
それじゃあ、皆今から準備すること~」
「はい!!!」
そうして、来たる西南FCユースとの戦いが近づいていたのだった。
続く
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