第34話 選手権予選2次トーナメント開始
「明日からの2次トーナメントって、土日の連戦なんだな。
ケガしないようにな。」
2次トーナメントを翌日に控えた晩、電話で野口が花に話していた。
「そうなんだよね~
しんどいだろうけど、実はかなり楽しみにしてるんだよ~」
花はベッドに寝っ転がりながら、楽しそうに話した。
「実はって、なんかいつもとは違う感じなのか?」
「うん!
久しぶりにフルで出られるかもしれないの~
だから、楽しみなんだ~」
「へぇ~そうなんだ。
てか、それって余計にしんどそうだな。
香澄は大丈夫なのかよ?」
野口は花の心配よりもワンボランチで起用される香澄を気に掛けたのだった。
そんな野口の言葉に花はムッとした。
「…私の心配もしてよね。」
「もちろん、花の心配もしてるに決まってるだろ~
でも、丁度この前、川島さんと香澄がしんどくなるから、花は途中交代させてるって話をしたばっかだったからな。
それで、気になったんだよ。」
野口は慌てて、花に説明した。
花は直ぐに納得した。
「なるほど。
そういうことなら、対策はしてるよ~
左ハーフに律子先輩が移動して、千里子先輩と香澄のダブルボランチになるから~」
「ほぉ~今時の4-2-3-1みたいなフォーメーションになるってことか。
それは面白そうじゃん。」
「でしょ~
何度か練習試合では試したことあるんだけど、私、このフォーメーション好きなんだよね~
中盤が多いから、パス回しやすくてさ。
だから、明日は楽しみなんだよ~」
花はワクワクした口調で野口に話していた。
「でも、逆になんで今までオールドスタイルな4-4-2なんてやってたんだろな?」
「それはその方が汐音先輩と律子先輩のコンビが理想的な距離感になるってのがあったみたいだよ。
だから、1次トーナメントくらいまでは攻撃的な4-4-2でやってたんだって。」
「ふ~ん。それで2次トーナメントからは流石に守備も意識しないといけないからってことか。
律子先輩ってのは左もできるの?」
「うん。あの人、基本、何でもできるから。
でも、本人はサイドハーフとか滅茶しんどくなるじゃんって、ちょっと嫌そうだったけどね~」
「あはは。サイドは上がり下がり結構激しいもんな。」
そんな感じで二人はサッカーの話を楽しそうに話すのだった。
「…てか、監督とそんな話してたんだ。」
花はふと気になって、野口に言った。
「あぁ。結構いろいろ話してくれたよ。
不思議な人だよな。
なんか、ふざけてそうなのにちゃんと心に来る言葉を投げかけてくるというか。」
「変な人だったでしょ~
まぁでも、いい監督だよ。」
「そうだな。
ケガ中でもできるトレーニング方法とか教えてもらったし。
おかげ様で吹っ切れることが出来たよ。
ありがとな。花。」
野口は笑って、花に感謝した。
「…やっぱり、聞いたんだ。私が頼んだって…」
「そりゃ、言うだろ。普通。
俺もビックリしたよ。
まさか、監督に頼むなんてな。」
「むぅ~~はずい~~
だって、心配だったんだもん!!」
花は恥ずかしそうに足をバタバタさせた。
野口は電話越しでも恥ずかしがっている花を想像できて、笑った。
「ははは。でも、ホントありがとな。
嬉しかったよ。」
「…どういたしまして…」
花は枕に顔をうずめながら、野口に小さな声で答えた。
「てか、そろそろ寝た方がいいだろ?
明日は無理だけど、明後日は見に行くよ。
頑張ってな~」
野口は花に気を遣って、話を終わらそうとした。
花はもう少し話したそうにしていた。
「…最近、イチャイチャできてないよね…」
「き、急にどした?」
花の言葉に野口は気恥ずかしそうにしていた。
花は迷いながら、野口に言った。
「…来週の日曜は休みだから、アキの家に行くね。」
「あ、あぁ。オッケー。
楽しみにしてるよ。」
「じゃあ、看病イベントさせてもらうよ~」
「なんじゃそら。」
そうして、その後、少しだけ話してから、電話を切ったのだった。
二次トーナメント1回戦、といっても組み合わせ上、東京予選の準決勝に当たる試合当日、フェリアドFCは試合会場でアップしていた。
フェリアドFC一同が黙々とアップを進める中、西南FCユースのジャージを着た面々がぞろぞろと会場に現れた。
同会場では先にフェリアドFCの試合があって、その後、西南FCユースの試合があったのだ。
「…花姉さん、来ましたね…」
花と一緒にアップしていた香澄がにっくき宿敵と言わんばかりに、西南FCユースを睨みつけていた。
「あはは。香澄ちゃん。
私達はとにかく今日の試合に集中しないと~」
花はリラックスしている様子で、というよりも若干呆れ気味に香澄に言った。
そんな様子の花を意外に思い、香澄は花に聞いた。
「花姉さんは意外と普通なんですね?
もっと、緊張するなり、怒るなりしそうかなって思ってました。」
「あはは~もう大丈夫だよ。
それにさ…」
花がチラッと西南FCユースの方を見ると歩いている麻衣と目が合った。
麻衣は直ぐにぷいっとそっぽを向いて、そのまま進んでいった。
その様子を見て、ニヤッと花は笑って、香澄に言った。
「…それに、今は西南FCとやりたくてワクワクしてるんだよ。」
「は、花姉さん…自分で、今日の試合に集中って言っておきながら、やっぱり気にしてるところ…
素敵です…」
香澄は恍惚とした表情で花を見つめていた。
「お前らは話してないでちゃんとアップをしろ!」
二人の様子を見て、千里子がツッコミを入れるのであった。
「さぁ、いよいよ、準決勝だけど、皆緊張してる?」
川島は試合前のミーティングで皆に聞いた。
「それ普通、試合前に選手に聞きます?」
千里子は呆れた様子で川島に言った。
そんな千里子に川島はニヤッとして、千里子に言った。
「じゃあ、千里子は緊張してるの?
まぁ、スタメンは久しぶりだもんね~
緊張してもしょうがないよね~」
「してるわけないでしょ!!
むしろ、早く試合がしたくて、うずうずしてますよ!!」
千里子は怖い笑顔で川島に答えた。
「オッケー。
じゃあ、皆も緊張するより、楽しみに試合のホイッスルを待つこと~
てなわけで、頑張ってらっしゃい!!」
川島はニコッと笑って、皆に言った。
「はい!!」
皆は真剣な表情で大きな声で答えた。
ピィ~~~~
試合開始のホイッスルが鳴り、フェリアドFCボールからで始まった。
中盤の枚数を増やしたことによって、フェリアドFCは千里子、香澄、花の3人が積極的にボールを触り、細かなパス回しでリズムを掴んでいった。
中盤でボールを保持しつつ、攻め入る機会を伺っていた。
相手のプレッシャーは今までと比べるとかなり強かったが、花の高いテクニックでボールをキープして、決して、相手に奪われるようなことは無かった。
序盤はフェリアドFCが支配しつつも、中々、隙を見出だせなかったため、しばらく、均衡状態が続いた。
しかし、あまりにもボールを取れない相手チームボランチが花にボールが渡った瞬間、勢いを強くして詰めてきた。
その瞬間を待っていた花はダイレクトで香澄に一旦戻して、汐音を指さしながら、ボランチの裏を走り抜けた。
「汐音先輩フリー!!」
ボランチが花につられたことでできたCF汐音へのパスコースを香澄は見逃さず、花からのボールを再びダイレクトで汐音に出した。
汐音は相手CBを背負いながら、ボールをキープして、ボランチの裏を抜けてきた花にタイミングよくパスを出した。
花はスピードに乗ったまま、ボールをコントロールして、見事にDFの裏を抜けていった。
そして、GKに詰められる前にインサイドでコントロールしたシュートを放った。
ボールはGKの指先をかすめて、ゴールネットを揺らした。
ピィピィ~~~
「うし!!」
花はガッツポーズを取りながら、汐音と香澄の方へと走っていき、ハイタッチを交わした。
「汐音先輩、あざます!!」
「今のはいい流れだったね。
香澄もナイスパス。」
「いや、花姉さんが指さして、教えてくれましたし、ほとんど、花姉さんのおかげですよ~」
律子も寄ってきて、花にハイタッチした。
「ナイッシュ~いつもは私のとこなんだけどね~
まぁ、今回は花に譲ってあげるよ~」
「素直に褒めて下さいよ~」
律子は笑いながら、花の頭を強く撫でて、皆に大きな声で言った。
「よしよし!!
皆~~もう一点いくよ~~」
「おぉ~~~~!!!」
試合はフォーメーション変更が功を奏したのか、その後もフェリアドFCペースで進み、終わってみれば、3-0の完勝だった。
「お疲れさん~
新フォーメーションも良い感じだったね~
とりあえず、明日も試合だから、ダウンと柔軟しっかりしてね~」
試合後、川島はねぎらいの言葉を掛けつつ、次の試合の準備をするように皆に伝えた。
「あと、分かってると思うけど、次の試合は全員で見るから。
試合出てた子達は柔軟しながらでいいからね~」
「は~~い。」
試合に出ていた花たちはコートの隅でダウンと柔軟を入念にしていた。
そんな中、次の試合、西南FCユースの試合が始まろうとしていた。
「…いよいよ、奴らのお出ましだね。」
千里子は小さく呟いて、試合をワクワクしながら、待っていた。
「そうだね。麻衣は…ボランチかな?
フォーメーションはうちと一緒の4-2-3-1っぽいね。」
花も柔軟をしつつ、真剣な表情で試合開始のホイッスルを待っていたのだった。
「…てか、花に言い寄ってきた二人はベンチにも入ってないんかい!!」
千里子は呆れた様子で突っ込んでいた。
「ま、まぁ、名門クラブだけあって、人数多いからね。
ユースに上れただけでも立派なもんだよ。」
花は念のため、千里子に補足しておいた。
ピィ~~~~~
そして、試合開始のホイッスルが鳴った。
西南FCユースは序盤から激しくプレッシャーをかけて、敵陣地でボールを奪って行った。
しかし、相手チームもリズムは悪いもののGKのファインセーブ等があり、失点を許さなかった。
西南FCユースはラインを高くコンパクトに保ち、出来るだけ前線でボールを保持するように心がけているようだった。
「ひぇ~~あんなDFライン高く保って、怖くないのかな~」
フェリアドFCのCB(センターバック)、3年生の後藤瀬利(ごとう せり)がひやひやしながら、試合を見ていた。
「あぁ~あのCB二枚、滅茶苦茶、足早いから、裏抜かれても追いつける自信があるんだよ。」
花は見慣れた様子で瀬利に言った。
「そういや、花も西南FCだったんだもんね。
あの二人知ってるんだ?」
「うん。私の1個上の先輩で、中学で全国優勝した時でもスタメンだったよ。
その他で知ってるのは…麻衣とFWのキャプテンの人と…そんくらいかな?」
「そ、そうなんだ。
改めて思うけど、花って全国優勝したんだもんね。
なんかすごい人に見えてきたわ。」
瀬利が気弱そうな顔で花に言った。
「いやいや、そうは言っても中学と高校ではレベルが全く違いますよ。
それに私の目から見ても、フェリアドってかなりレベル高いですよ。」
「そ、そうかな?」
「そうですよ。何気に私達、今まで予選で失点0ですよ?
瀬利先輩は気弱なくせして、背が高くてフィジカル強いし、マヤカヤコンビは双子ならではのコミュニケーションで、絶対フリーを作らないし。
もっと、自信もっていいんですよ?」
「…気弱なくせにって…花はホントそういうとこすごいよね…
まぁ、いいんだけど…」
花のキョトンとした顔に若干、苛立ったものの勇気づけられた瀬利は何だか嬉しかったのだった。
(そんなことよりも…麻衣ってあんな頑張る選手だったけかな?)
麻衣は高いラインを保っているが故に絶対に裏には出させないよう相手にボールが渡ったら、体をぶつけて、簡単にボールを蹴らせなかった。
時にはファールをしてでも、決してカウンターはさせなかったのだった。
試合は一方的に西南FCユースが支配するものの、相手チームが引きこもっていたため、中々点が取れないでいた。
前半は0-0のスコアレスのまま終わったが、後半開始直後、試合は動いた。
決定的な場面が作れないでいた西南FCユースはボランチの麻衣が相手バイタルエリアでボールを奪取し、そのままミドルシュートを放った。
強烈なミドルシュートはゴール右隅に突き刺さり、西南FCユースが先取点を取ったのだった。
「うめぇ~~~!!
プレミアみたいじゃん!!」
千里子は興奮した様子ではしゃいでいた。
「…うん。麻衣…いつの間にあんなシュート打てるようになったんだ…」
花は麻衣の豹変ぶりに驚いている様子だった。
その後、得点を取られた相手チームは一点返そうと、前がかりになったが、西南FCユースのプレッシャーをかいくぐれず、失点を重ねていった。
結局、試合は5-0の西南FCユースの圧勝で終わった。
だが、フェリアドFCメンバーは誰一人、俯く様子はなかった。
むしろ、楽しみにしている人が多い様子だった。
その中でも、花は相当にワクワクしていた。
(…過去の事なんかどうでもいい…
…早く、このチームと試合がしたい!!)
花はうずうずして仕方がなかったのだった。
続く
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