第32話 それぞれの選手権
「アキ、次が1次予選決勝だよね?
去年と違って、順調じゃん!!」
公園練習後、花がベンチに座って、嬉しそうに言った。
「あぁ。今年は太一と啓太が頑張ってくれてるからな。
特に太一が滅茶苦茶、点取ってくれてるからな。
すげぇ調子良いみたいだよ。」
野口は花の隣に座って、入念に柔軟しながら、答えた。
「きっと、加奈が見に行ってるから、それで気合が入ってるんだろね~
何やかんや加奈も気にはかけてるみたいだし~」
花は足をブラブラさせて、ニヤニヤしていた。
野口は少し不安そうな様子だった。
「…まぁ、それならいいんだけど、重要なとこでフラれて、調子落とすとかは無しにしてほしいもんだわ…」
「あはは~それは流石に大丈夫だと思うよ~
加奈もそんな鬼じゃないから~」
野口は柔軟を終わらせて、ふぅ~と一息ついた。
そして、スポーツドリンクを飲みながら、花の方を向いた。
「花の方も順調じゃん。
次勝ったら、二次トーナメント進出で、関東予選決定なんだろ?」
「そうなんだよ~
でも、どうせなら二次トーナメントでも優勝したいけどね~」
花は胸を張って、自信満々な様子だった。
そんな花に野口は少し真面目な表情で花に聞いた。
「てか、そろそろ西南FCユースとも当たるんじゃないのか?」
花も真剣な表情になった。
「…うん。
順調にいけば、二次トーナメントの決勝で当たることになるよ。」
野口は真剣な様子の花を見て、安心して笑って、言った。
「そっか。
色々とあったみたいだけど、ワクワクしてそうな顔で良かったよ。
もう大丈夫そうだな。」
「そんな顔してた?」
「花は分かりやすいからな~
嫌そうな顔は一切してなかったから。」
「う~~ん。たまにはミステリアスな表情でもしてみたいもんだわ…」
「ははは。それは多分、無理っぽくね?
それに花にはそういう顔はきっと似合わないよ。」
花は嬉しいような残念なような微妙な気持ちになった。
そして、花は身体を伸ばして、よしと気合を入れた。
「とにかく、お互い頑張ろ!!
試合の日が被ってるから見に行けないけど、応援してるよ!!」
「おう!!」
そうして、二人は拳を突き合わせたのだった。
1次トーナメント決勝当日、フェリアドFCはいよいよシードのチームに当たることになっていた。
「さて、まぁここまでは前座みたいな試合だったけど、これからは経験豊富なチームとの対戦になります。
そろそろ相手チームに合わせた戦いが必要になってきます。」
川島はいつもと違って、試合前に真剣な表情で話していた。
「相手の試合動画も見てもらったから、大体はイメージできてると思う。
でも、基本的にはいつも通りのやり方でいいからね。
見るのとやるのとでは全然違うから、イメージにとらわれて、中途半端なプレーはしないでいいよ。
ただ、どういう風にプレーしようかなってそれぞれ考えてくれたと思ってる。」
一同はうんうんと頷いた。
「それだけで十分だから。
どうやったら楽しくなるか、それを考えるだけでサッカーはどんどん面白くなるから。
…というわけで、いつも通り、楽しんできなさい!!」
「はい!!」
スタメンは1回戦と同じで花はトップ下でスタメンとなっていた。
試合前、千里子は花に声を掛けた。
「動画見て、どう思った?」
花は笑って千里子に答えた。
「余裕!!
FWにでかい子がいるだけで、2、3点は取れると思ったよ!!」
千里子は余裕の笑みを浮かべた花に笑って同意した。
「私もそう思った!!
うし!!頑張ってこい!!」
そして、千里子は花の背中を強く叩いた。
ピィ~~~~
いよいよ、試合の開始を告げるホイッスルが鳴った。
フェリアドFCは今までと違い、ドンドンプレッシャーをかけることはしなかった。
相手チームはチームの中心であるCF(センターフォワード)の長身ストライカーにボールを集めるよう中盤を飛ばしたロングボール主体でゲームを進めていた。
そこをCBの麻耶が高さでは負けるものの、決して力負けせず、振り向かせることはさせなかった。
そして、相手CFがキープしている間にボランチの香澄と挟み込み、ボールを奪って行った。
この形は事前に麻耶と香澄が打ち合わせしていた通りの動きだった。
上手くポストプレーが出来ず、相手チームは中々リズムに乗ることが出来ないでいた。
一方、フェリアドFCの攻撃は花を中心に左右に散らしたり、汐音にあてての中央突破を図ったり、律子の裏抜けを狙ったりと、多彩な攻撃を仕掛けた。
しかし、流石はシードチーム、最後の最後のところでの球際が強く、また、よく走るチームだったため、中々点が取れないでいたのだった。
膠着状態が進む中、前半終了間際、相手CFから同じ形で香澄が上手くボールを奪取した。
「花姉さん!!」
ボールを奪った香澄は直ぐに花にボールを預けた。
花がボールをもらうと相手チームも花がキーになっていることを察知して、パスを出させまいと強いプレッシャーを掛けに来た。
(…やっときた!!)
花はボールを足裏でなめて、取りに来た相手の股を抜いて、見事に相手を抜き去った。
そして、フリーになった花はスピードに乗って、ペナルティエリア手前までドリブルで持ってきた。
そこに相手CBが花に向かってきた瞬間、狙っていたかのようにつり出されたCBの裏を狙った律子の動きを花は見逃さなかった。
絶妙なタイミングで出された律子へのパスが通り、律子は冷静にインサイドでサイドネットを揺らした。
ピィピィ~~~~
「やった!!やった!!」
「ナイッシュー!!ナイスパス!!」
ベンチは喜びではしゃぎまくっていた。
「おし!!
まだまだ、もう一点いこ!!」
「おぉ~~!!」
花は皆を気を引き締めるように鼓舞したのだった。
試合は後半に入ってもフェリアドペースで進み、序盤にサイドからのクロスを汐音がヘッドで合わせて、2-0とした。
結局、2-0のまま、試合は終わり、無事、フェリアドFCは1次予選トーナメントを勝ち抜いたのだった。
「やっぱり、シードだけあって、今までとはちょっと違ったね。」
花は試合後、片づけをしながら、香澄に行った。
「そ、そうだね。
やっぱり、プレッシャーが強かったり、足元の技術も皆それなりに持ってたりしたもんね。」
「でも、その中でも結構余裕で私達のペースでサッカー出来たんだから、ホントに優勝狙えるってことだよ。
自信もっていこ~」
川島が横から聞いていたのか、花と香澄に声を掛けた。
「はい!!」
花と香澄は自信に満ち溢れた顔で、返事した。
帰宅中、花は携帯を見たが、野口からのメールは来ていなかった。
(…ひょっとしたら、負けちゃったのかな…
…メール送りたいけど、負けてたら、なんて言ったらいいのか…)
メールを送ろうかどうしようか迷っている内に家に着いていた。
帰宅後、シャワーを浴びて、部屋着に着替えて、自室のベッドにボスンと横になった。
そして、携帯を見るもやはり野口からのメールは来ていなかった。
花が不安になっていると、加奈からの着信が来た。
花は慌てて、通話ボタンを押した。
「も、もしもし?」
「もっし~花~今日どうだったの~?」
「もちろん勝ったよ~」
「おぉ~やったね!
じゃあ、関東大会も決まったってことでしょ?
すごいじゃん!!」
加奈は素直に喜んでくれた。
花はそう言えばと気づいて、加奈に聞いた。
「あ、あのさ?加奈って、今日、サッカー部の試合見に行った?」
「あぁ…見に行ったよ~
でも、負けちゃったんだよね~
野口君から聞いてないの?」
「…そ、そうなんだ…
アキからはメールが来てなくて、ちょっと聞きづらいってのもあって、聞いてないんだよ…」
花は明らかにがっかりした様子で加奈に言った。
「…まぁ、聞きづらいよね。
しかも、野口君、途中でケガしちゃったんだよ…」
「うそ!!ケガ!?」
「うん…かわいそうだったよ…
顔隠してたから、分かんないけど、多分、泣いてたと思うよ…」
「…そうなんだ…」
花は何て言ったらいいのか、全く分からず、黙ってしまった。
ただただ野口の事が心配になった。
加奈は花の心中を察したのか、いつもの感じで花に話した。
「とりあえずさ~
今は野口君も落ち込んでると思うから、簡単なメールだけでも送っとけば?
どうせ、学校で会うんだし、何も伝えないよりかは今自分の思ってることだけでも伝えといた方がいいと思うよ?」
「…うん…そうだね!
私が落ち込んでてもしょうがないし!!
お疲れ様のメールだけでも送っておくよ!!
ありがと~加奈~」
花はとにかく早く野口にメールがしたいと、そう言って、早々に電話を切った。
花はメールの文章を悩みに悩んで、一通のメールを野口に送った。
「お疲れ~
加奈から聞いたけど、試合残念だったね。
もし、今、私がアキの立場だったら、何言われても気分は晴れないし、時間が解決してくれるものだと思うから、とりあえず、私からはそれだけ。
私にできるのはイチャイチャすることだけだと思うから、今度またチューしようね~
お休み~」
花はメールを送って、とりあえず、すっきりした。
すると、野口からの返信がすぐに来た。
「お疲れ。
メールありがとな~
でも、軽くチューとか他の人には絶対言うなよ~
お休み~」
花は笑って、それ以上は返信はしなかった。
(…ケガ大丈夫なのかな?
…早く、会いたいな…)
花は枕に顔をうずめて、野口の事ばかり考えるのだった。
続く
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