この香りは恋かもしれない

穂志上ケイ

茶の香りと出会い1

 あの日、僕は恋をした。それは美しい彼女とお茶の香りに包まれ、その思いは雰囲気に酔った所為なのが、はたまた本当に一目惚れなのかその時の僕には分からなかった。


 ■■■

 4月春。僕は私立茶島ちゃしま高校へ入学した。この高校はそこそこの難しさではあるが毎年かなりの人数が受験している。そんな中僕は無事入学する事が出来たのだ。当時の僕はそこまで頭が良くなく入学出来るか危うかった。だが、あるきっかけで僕は猛勉強を始めなんとか入学出来る成績まで到達したのだ。

 いや~、本当に頑張った甲斐があった。

 そしてもう1つこの学校には少し変わった事がある。

「そこの君! バスケやらない? 」

「吹奏楽やりませんか? 初心者でも大丈夫ですよ! 」

 この高校は部活動に力を入れている。数々の県大会を制覇したり、賞を貰ったりなど必ず毎年賞を受け取っているのだ。

 そしてそんな数々の部活の中でも異例なのが……。

「おい、あの人が茶道部の」

「ああ、進藤怜しんどうれい先輩だ」

 そう彼女こそが僕がこの学校に入った理由の一つ。

 あの日、見学会で僕は茶道部のパフォーマンスを見ていた。そこで進藤先輩のお茶を点てる姿と美しい着物の姿に惚れてしまったのだ。

 長い黒髪に綺麗に整った顔立ち、そして豊満な胸。まさに美少女。

 そんな彼女に僕は……。

「あ、あの! 」

「どうした1年」

「さ、茶道部に興味があるんですが……」

「そうか、なら今日の午後から見学会がある。それに参加するといい」

 そういって先輩は一枚のチラシを僕に渡してきた。

「ここに書いてある教室でやるから」

「あ、ありがとうございます!」

 それからクラス発表があり、それぞれ教室へ移動した。ある程度の自己紹介とクラスの役割を決め、1日目を終了した。勿論、この出来事は全く頭の中に入っておらず、茶道部の事しか考えていなかったのだ。

 午後になり、僕は貰ったチラシに書かれている教室へと向かった。

 既に大勢の人が集まっており、中に入る事が難しかった。

 これってやっぱり先輩を見る為の人達なのかな?

 それから数分後、中から歓声が上がった。そう、先輩が出てきたのだ。

「見学会者の諸君ようこそ、茶道部へ。今回の見学会は部員たちのパフォーマンスを見てもらう。それでは皆、よろしく」

 なんとか生徒の隙間を抜け見える位置に移動出来た僕。すると部屋の奥から3人、進藤先輩を合わせて4人の着物を来た生徒が出てきた。

 予め用意してあったお碗に茶の粉を入れ、その中にお湯を注ぐ。そして最初はゆっりとお茶を点て、泡を細かくしていく。最後に泡が盛り上がる様に静かに茶筅を持ち上げる。

 完成した茶を間近で見ていた生徒に渡す。

「どうぞ、お飲みください」

 渡された生徒は少し戸惑いながらも茶碗を手に取る。

 微かに苦いと言った声も聞こえたが、渡された生徒たちは無事飲み終わる事出来た。

「この様に自分たち自らお茶会を開きお茶を振る舞ったり、他の方のお茶会に参加し茶を嗜む。そういった活動を我々はしています。そしてお茶会には様々なマナーがありそれを学ぶ活動でもあります。例えばですが、先程振る舞ったお茶ですが相手の方にも受け取り方があります。受け取る時はお点前頂戴てまえちょうだい致します。と言ってから飲むのがマナーです。今回は知らない生徒が殆どの為仕方ありませんが、ぜひ覚えておいてください。飲み終わった後は飲み口を拭き、正面の柄を相手の方へ向けて返し、感謝の気持ちを相手に伝えます。これが飲むかわ側のマナーです」

 静まり返る生徒たち。まぁマナーを知らない生徒からすればめんどくさい事だと思う。それに大半は先輩目当て。興味が無くて当たり前だ。

「それではお茶を点ててみたいと言う生徒は居ますか? 居たら挙手を」

 僕は迷わず手を挙げた。

「そこの生徒、ぜひこっちに」

「すみません。通してください」

 僕は隙間を縫って先輩の元へ向かった。

「君は朝の。名前は? 」

折本悠真おりもとゆうまです」

「では折本。お茶は点てた事はあるか? 」

「数回あります」

「そうか。なら一通りやってみるといい」

「分かりました」

 僕は用意して貰った茶碗に茶の粉を入れ、お湯を注ぐ。茶筅を持ち、ゆっくりと混ぜ始める。最後に泡を持ち上げる様に茶筅を茶から取る。

「では私に渡してみろ」

 すると周りの先輩たちが驚いた顔でこちらを見てくる。

 だけどそんな事は気にせず僕は点てたお茶を持ち、先輩の方へ向かう。軽く座り、柄を正面に向かせ柄が先輩の方向く様に置いた。

「お茶をどうぞ」

「お点前頂戴致します」

 先輩は僕のお茶を取り、飲み始める。そして飲み終わる頃にずずっ、音を立てた。

 飲み口を拭いた先輩は。

「ありがとうございました」

 お礼をした先輩に僕もお礼で返し、お碗を手に取った。

「中々旨かったぞ。折本」

「あ、ありがとうございます!」

 そう言い放って先輩は説明会へと戻って行った。

「君、中々上手だね」

 着物を着た別の先輩が声を掛けてきた。

「あ、ありがとうございます」

「あの進藤さんが茶に対して褒める事はあまりないのに」

 確かに初め見たと気は美味しくない茶を投げつけるようなイメージがあったけど。そうか、中々褒めないのか。

「それでは以上で見学会を終了する。入部希望者はその場に残る様に。折本、君には強制的に残ってもらうぞ」

「は、はい」

「それでは解散」

 多くの生徒がその場から立ち去り、僅か数人の生徒がその場に残った。

「3人か。まだ多い方だな。よしこの部活に入るからには中途半端なやつは要らない。そんな気持ちがあるなら今すぐこの場を去れ。……よし居ないな。それではまずは座れ。話はそこからだ」 

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