第27話 種を蒔いて水を注ぐ


 朝方に、私は町を歩いていた。るんるん気分で、今にもステップを踏んでしまいそう。

そんなわたしに、町の人が声をかける。


「やあアトラ、何かいいことでもあったのかい?」


ご夫婦が話しかけてくれる。温かい眼差しなので、かなり浮かれてるのが見えたんだろうな。

ちょっと恥ずかしい。でもワクワクは止まらない!


「綿花の種をもらったんです! 今から育てようと思って」


そう。綿花。コットンとか綿って言えば、わかりやすいかな。よく知っている通り、服などに使われているものだ。

綿は、綿花と呼ばれる植物から採ることができる。夏に花が咲き、秋には種になるけど、その種が綿なのだ。

これも、わたしのやりたかったことの一つ。


「まあそれはよかったわね。秋にはコットンが収穫できるわ」


「はい! 今から楽しみです」


老夫婦に手を振って別れる。西へ道なりに歩き、しばらくして店が見えてきた。わたしのお城だ。はやる心から、歩くスピードが速くなる。

「ナランの編み物魔道具店」。

表の看板には「外出中です」とある。

わたしはボードに隣の畑にいると書いて、店に入った。


「ムー、スー! 畑を耕すから、手伝ってくれる?」


ひょこひょこと二人が出てくる。ムーはハタキを持って、スーは小さなホウキ。


「掃除、してくれてたんだね。ありがとう」


わたしは二人の頭を撫でてあげる。毎日頑張ってくれてるし、今度、ご褒美をあげようかな。

二人なら何が欲しいだろう?


「なんのなんの、これしきです!」


「では、畑に行きましょう。お手伝いしますわ」


服を作業着に着替えて、三人で畑に行く。

雑草は、この前あらかた引っこ抜いていた。

後は耕して、肥料を撒いて種を蒔くだけだ。

 まずは畑を耕そう。

農家の方からいただいた、スキを使う。刃の部分を畑に突き立て、足で体重をかける。そのまま力で掘る。深い部分まで掘れるみたい。一応、クワもあるんだけどね。


 なかなかの重労働だけど、アトラスの体力もあってかあまり疲れない。どんどん畑を掘り起こしていく。

この分なら、午前中には終わってくれるかな。


 ムーとスーは、畑にある石ころを取り除いてくれている。小さなスコップを持って、掘りながら石を拾っているみたいだ。

石が、成長の邪魔にならないようにしないとね。


 と、綿花以外にも、野菜も育てたいんだよね。

だから綿花の畑と野菜の畑、二倍耕さないといけない。なかなかに大変だけど、午前中で終わらせるように頑張ろう。


 ちなみに野菜は、今は夏野菜の季節! 旬の野菜を毎日、食べられるようにしたいんだよね。

よし、その為にもやるぞ!


 カーン、カーン……。

気づいたら、お昼の鐘が鳴っていた。うーん。さすがにもうヘトヘト。疲れてスキが下せない。でも、かなり耕すことができた。これなら綿花と夏野菜を育てられるね。


「二人共、そろそろ休憩しよう。お腹空いたあー」


「わかりましたです!」


「無理なさらないでくださいね、ご主人様」


店に戻ると、奥のキッチンに立つ。この前買ったパン屋のパンとチーズ、サラダにスープを用意した。サラダとスープの中の野菜は、ミヤエルさんがくれたもの。わたしも、みんなに振る舞えるようになりたいな。

キッチンの隣のテーブルで、昼食をとる。


「畑を耕したらどうするのですですか、ご主人さま」


「肥料を入れて、種を蒔こうね。その後はお水をやるよ」


「野菜は何を蒔くんですの?」


「トマトときゅうりとナスと、トウモロコシ!」


わたしがビシッと指差して言うと、


「そんなに育てられます?」


ジト目でスーが言う。失礼な、ちゃんとできるよ。ちょっと欲張ったとは思うけど。


「二人にも、育てるの手伝ってもらいたいの。お願い!」


「全く、仕方ないですわね」


「お任せくださいです!」


ムーはため息を吐き、スーは喜んでいる。

もちろん、わたしもしっかり育てるつもりだよ? 肥料もやるし、害虫だって取り除くんだからね。

農薬は使いたくないんだよね。個人の畑だし、ちょくちょく虫を取るのも疲れないとは思うんだ。


 お昼を食べたら、また畑仕事。耕したのは終わったから、今度は肥料をあげよう。

有機肥料と、化成肥料と同じ効果のある、肥料用の魔砂を混ぜる。

小屋にもらった肥料があるので、それを畑に撒いてよく混ぜる。ちょっと独特な匂いだけど、慣れたら気にならなくなった。


 肥料を土に入れたら、何週間か待つ必要があるらしい。普通は。でも、魔砂のおかげで土と肥料がよく馴染むからこの辺りはすぐに種を蒔くって言っていた。

だからこれで完成!下準備は終わりね。


「よし。じゃあ、種を蒔いていくよ!」


まずは、綿花から。土に穴を開けて、その中に種をいれていく。水に浸して一晩置くのは、もらった農家の人がやったらしいから大丈夫。

軽く土を被せて、水をやる。


 ムーとスー、ジョウロを持てるくらい力持ちなんだけど……。体が小さすぎて、うまくジョウロが扱えないみたい。仕方ないからわたしが水を撒く。


「ボク達が大きければ、水やりができますのに」


「難しいわね。小さなジョウロとかないのかしら?」


小さいジョウロかあ。作ってもらってもいいかもだけど、水をやるのにかなり時間がかかりそう。


あ、いいこと思いついた。

畑仕事が終わったら、編んでみよう。


 次は夏野菜!

トマトは今の時期は苗かららしい。だから苗をもらって、後は種。


 左から、トマト、きゅうり、トウモロコシ、ナスと決めてみた。

まずはトマトの苗を植える。農家の方から買ったもの。いつもわたしの編み物に助かっているからと、安めで買うことができた。

種に関してはたくさんあるからと、タダで貰えた。


トマトの水は少なめで。次はきゅうりね。種を蒔いて一週間ほどで芽が出るそうだ。

トマトとは違い水がたっぷりいる。気をつけていよう。トウモロコシは日がたっぷり、ナスは水をしっかり。

苗を植えて、種も蒔いた。

後は水やりだ。最初だからたっぷりやろう。


「よーし、これでオーケーね!」


ムーとスーが拍手をする。とりあえず終わったね。疲れたなあ。でも、ちょっとやらないといけないことがある。


わたし達は店に戻り、水を飲んで一休み。わたしはそのまま編み物を始める。

二時間で、思いついたものが二つできた。


「何を作ったの、ご主人さま」


「二人の為にこれを編んだの!」


二人の背中に付けてあげる。白い、ミツバチみたいな羽がムーとスーの背中に生えた。

スーがふわりと浮かび、羽がぱたぱた動く。

これなら、ジョウロで水やりがしやすいはず。


「おおー! すごいです、ご主人さま!」


ムーが目を輝かせている。スーは羽が気になるらしく、鏡で自分を見ていた。

スーには、また可愛いお洋服を編んであげようかな。


「うーん。ちょっと疲れたなあ」


テーブルに肘をついて、頬杖をつく。

畑を耕して、綿花も種を蒔けた。また、わたしの野望に近づいたってわけね。

そもそもこんなスローライフを送れてるんだから、幸せったらないよ。

これからも、こんな毎日が続きますように……。


「ご主人さま、寝ちゃうんですか?」


スーが顔を覗いてくる。


「ムー、店の看板、休憩中にしといて……」


「仕方ないですわね」


「ご主人さまが寝るなら、ボクも寝ますです」


「それならアタシだって、一緒に寝たいわ」


じゃ、ちょっとみんなでお昼寝しよっか。

おやすみなさい。

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