アズリル
TM
第1話 アズリル
「今日はこの辺で休む事にしましょ、ミカリ、野営の準備をしましょう」
「わかりました。」
カフリ様は荷物を下ろし、ミカリと共に寝床を作り始めた。
「アズリルとカーマは火と食事をお願いするわ」
「はい!」
「え〜ダリぃ〜もうヘトヘト」
「みんな疲れてるの!終わったら休むから」
カーマは深いため息のような返事をし薪集めを始めた、私は背負っていた荷物から食料を出し4人分に分ける、しばらくみんな黙々と作業した後に、焚き火を囲み食事を取った。
「明日には最初の目的地の小さな村に着くはずよ、もう少しだけ頑張りましょ」
「はぁ〜フカフカのベッドが恋しいよ」
カーマの気持ちもわかる、ここ数日私達は硬い地面でしか寝ていない、寝床と言っても草を敷いた程度、私達の住んでいたノス地方では気温が低く雪が積もる、その為に着ている厚手のコートだけが救いだ、食事もパンとチーズ少しの野菜程度、それでも疲労した身体と震える足には染み渡る程美味しく感じる、欲を言えば温かいスープが欲しい...。
「この先には、何があるのでしょう...私達は正しい事をしているのでしょうか...」
しばらくの沈黙の後、珍しくミカリが自ら口を開いた。
...3日前...
「みんな集まって貰って申し訳ない、今日は大事な話がある。」
ノーブス司祭の声が大きく響いた。
ノスサンクトゥス教会に修道女達が集められた、祓魔師(ふつまし)として活動する私達は普段は修道女として教会で祈りを捧げ雑務をこなす、ノス地方で悪魔祓いの依頼があれば少数の修道女が祓魔師として派遣されるのだ。
しかし、修道女全てが祓魔師ではない、両親を様々な理由で失い身よりのない子供達は教会が面倒を見てくれる、その中でも12歳になる少女は本人の意向により祓魔師になる為3年間修行し15歳で晴れて祓魔師となる、祓魔師と言っても一人前ではなく見習いを3年近くはする事になる、私は去年見習いが終わりやっと一人前の祓魔師として認めてもらえるようになった所だ、まだまだ経験は浅いがこの集まりが私にも周りの修道女達にも只事でない事だけはわかった。
「先日、王都からの伝令があった、内容については皆も聞いた事はあると思うが、昔イスト地方で"悪魔大戦"と呼ばれる悪魔との戦争が起きた、その戦争によってイスト地方は滅んだと思われたが一部の生存者が確認された」
周りが少し騒ついた、悪魔大戦は私も修行中習った事がある、悪魔は人に取り憑き取り憑いた人の欲望を満たそうとする、その悪魔の常識を覆し人が悪魔になり残虐非道の限りをつくした、突如として現れたその"悪魔達"は1週間と立たずイスト地方を滅ぼしたそれが悪魔大戦、今まで生存者は居ないと伝えられてきた私達にとっては衝撃だった。
「静粛に」
「そこで王都からはイスト地方の状況を考慮し祓魔師を救助に派遣する命があった、心苦しくはあるが4人の祓魔師に頼みたいと思う。」
そうか、イスト地方は悪魔によって滅んだが今も悪魔がいないとは限らない、悪魔に唯一の対抗手段を持った私達ならイスト地方に踏み入る事もできる、何処となくかっこいい任務だと私は思っていた。
「カフリ」
「はい!」
「ミカリ」
「...はい」
「カーマ」
「え!?アタシ!?」
「カーマヤバいじゃん!」
「おめでと〜」
それぞれの名前が呼ばれ小さな拍手と共に称賛される人もいる、それもその筈カフリ様はこの中でもノス地方では有名な祓魔師、生前両親が教職だった事もあり学問にも精通し状況判断力が高く祓魔師としても優秀、選ばれて当然だった。
ミカリとカーマは幼馴染で私の同期、ミカリは小さい頃から好奇心が多く気になった事は全て調べるような子だった、不明の地に行くには充分な知識を持っている、カーマは教会に来る前は騎士階級の家にいたと聞いていた、家柄もあって剣技を身につけている、生存者がいると言うことは勿論盗賊なんかもいるかもしれない、他3人の護衛にもなるだろう、そんな事を考えながら他人事の用に聞いていた。
「そして最後に、アズリル」
「...え?は...はい!」
小さな拍手と共に疑問の声も聞こえた気がしたがそんな事はどうでもよかった、祓魔師として光栄な喜びと何故私なのかという疑問、それで頭がいっぱいだった。
見習いだった私は一度大きなミスをした、悪魔祓いの補助をしていた私は取り憑かれた女性に突き飛ばされ儀式をしていた祓魔師に怪我を負わせた、それからというものへたれ・ビビり等様々な事を言われただろう、でも諦めずやっとの思いで一人前の祓魔師になれた私は決して優秀とは言えなかった。
「以上4名にイスト地方への派遣を頼みたい、詳しい話は私の部屋でしよう、後で4人で来てくれ、それでは本日は解散とする。」
「ミカリ、カーマ、アズリル、来てください。」
カフリ様に呼ばれ私達は集まった、普段私達祓魔師は1〜2人で行動する、すぐこのメンバーを統率できるのもカフリ様を選んだ理由だろう。
「司祭は詳しい話があると言っていたわね、4人でノーブス司祭の執務室まで行きましょう。」
「わかりました。」
「ウィース。」
「は、はい」
「カーマ、あなたは相変わらずね、見習いの時に言葉使いは直しなさいとあれ程言っておいたのに...」
「いきなり説教でスか?リーダー」
「カーマ!」
カーマは相変わらずマイペースでミカリも口数の少ない所は変わらない、こうしてみんな集まるのも滅多に無いので少し懐かしさを感じながら執務室へと足を運んだ。
コンコン
「入りたまえ」
「失礼致します。」
「カフリ、ミカリ、カーマ、アズリル、先程の件を伺いに参りました。」
「ウム...楽にしてくれてよい、座って話そうじゃないか」
そう言ってノーブス司祭は机を挟んで椅子を用意してくれた、私達は座りイスト地方への派遣について聞く事にした。
「私もこの教会の司祭として君達を送るのは寂しくも誇らしくもある、カフリは他3名をまとめてそれぞれの個性を活かしてやってくれ、ミカリはその豊富な知識と柔軟さを発揮しカフリを補佐して欲しい、カーマはその高い身体能力がある、普段は剣を使う事を禁じてはいるがいざとなった時は皆を守って欲しいのだ」
聞けばただの激励だと思っていたが司祭はなにかを渋る様に落ち着きの無い様子で話を続けていた。
「そして、アズリル、君は誰よりも神を信仰し努力しているが少し経験が浅い、これを機に沢山の経験を積んで欲しい、君は誰よりもここにいる3人の事をわかっているだろう見習いとして付いたカフリ、そして同期の2人を支えてあげられるのは君だけじゃ」
私達は静かに頷くも司祭には他にもっと伝えたい事があるように見えたそう思っているとカフリ様が口を開いた。
「ノーブス司祭、激励感謝します、ですが詳しい話と言うのは何かよく無い事でも?」
司祭は確信をつかれた様に黙り込んだが
その重たい唇を動かした。
「実は...一緒にこの様な物が届いての」
普段部屋を掃除する私達ですら知らない床の隠し戸を司祭はゆっくりと開いた。
「これは⁉︎」
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